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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-

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第11話『恋人と海で』

 日焼け止めを塗った後はみんなで準備運動をする。怪我をしてしまったら海水浴を楽しめなくなるので、しっかりと行なった。

 また、水着姿で運動をするサクラ達女性陣の姿は魅力的で。俺のような思考の人はいるようで、男性中心にサクラ達に視線を向ける人が何人もいた。

 準備運動をし終わった後は、一紗と杏奈と小泉さんが持ってきてくれた海水浴の遊具を膨らませる。3人は遊具を持ってくる担当で、ビーチボール、浮き輪、水鉄砲、フロートマットといった王道の遊具を持ってきてくれた。

 ビーチボール、浮き輪、フロートマットは膨らませる必要がある。ただ、小泉さんと一紗がポンプをちゃんと持ってきており、2人が3つの遊具を膨らませた。


「これでフロートマットもOKね」

「そうだね、一紗。こういう遊具を膨らませると、より海に遊びに来たって感じがするよね!」

「そうね!」


 一紗と小泉さんは笑顔でそう言う。2人で遊具を膨らませたからか、どこか達成感を感じているようにも見えて。そんな2人に、俺やサクラ達5人は「お疲れ様」と労った。


「あたし、ビーチボールを使って遊びたいな。部活でやるのはテニスだけど、ボールを使って遊ぶのは好きだし」

「俺も遊びてえな。この前の球技大会でドッジボールをやったのが楽しかったから、ボールで遊びたい気分だ」

「あたしも遊びたいですっ!」

「羽柴君と二乃ちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ! じゃあ、一緒に遊ぼうか」


 小泉さんは嬉しそうな笑顔でそう言い、ビーチボールを持つ。


「文香達はどうする?」

「ビーチボールも魅力的だけど……私はまだ考え中。海に入るのも良さそうだし」

「俺もだ」

「私は……フロートマットでゆっくりしようかしら。昔からそうするのが好きで」

「気持ちいいですよね、一紗先輩。海でゆったりするのも魅力的ですね……」

「一紗以外は迷っている感じだね。ビーチボールで遊びたくなったらいつでも来ていいからね」


 小泉さんが快活な笑顔でそう言うと、小泉さんと羽柴と二乃ちゃんはビーチボールを持って、波打ち際まで向かった。


「さてと、まずは何で遊ぼうかな」

「昔は家族で海水浴に来ると、まずは水をかけ合うことが多かったよね」

「……そういえば、そうだったな。海に入った直後だし、水をかけ合うのも結構楽しかったよな」


 俺に向かって楽しそうに海水をかけたり、海水が顔にかかってはしゃいでいたりするサクラのことをよく覚えている。和奏姉さんと3人でも水をかけ合ったっけ。

 サクラも昔の海水浴を思い出しているのか、楽しそうな笑顔になる。


「楽しかったよね。じゃあ、今回も水をかけ合おうか」

「おっ、いいな。やろうか」

「うんっ!」


 サクラはニコッとした笑顔で返事する。その姿は小さい頃に海に来てテンションが上がっているときのサクラの笑顔と重なる。


「じゃあ、私はその様子をフロートマットに乗りながら見ようかしら」

「いいですね。あたしは浮き輪に座って2人を見ましょうかね」

「ええ。一緒に見ましょう。……大輝君、文香さん、2人で楽しんで」

「楽しんでください」

「うん、分かったよ」

「分かった」


 サクラと俺がそう言うと、一紗と杏奈は優しい笑顔を向けてくれる。もしかしたら、今日はこれまでみんなと一緒だったから、サクラと俺が2人きりで遊べるように気を遣ってくれたのかもしれない。


「行こう、サクラ」

「うんっ」


 俺はサクラと手を繋いで、海に向かって歩き始める。

 まさか、サクラと一緒に砂浜を歩ける日がまた来るとは。サクラと海水浴をするのは中1以来だし、中2から高1までは距離があったから、こうしていられることがとても嬉しい。

 波打ち際でビーチボールを使って楽しそうに遊んでいる羽柴、小泉さん、二乃ちゃんの横を通って、サクラと俺は海に入る。


「あっ、ほんのちょっと冷たさも感じるね」

「そうだな。気持ちいいな」


 晴れて気温が高くなっているから、海水温も高いのかと思っていたら、サクラの言うようにほんのちょっと冷たさを感じる。穏やかな波が脚に当たって気持ちがいい。


「気持ちいいねっ」


 サクラはニコッと笑いかけてくれる。ピンクのビキニ姿も相まって物凄く可愛くて。この海水浴場には水着姿の女性がたくさんいるけど、一番可愛いのはサクラだな。

 サクラとまた海に入れるなんて。嬉しすぎて、夢のようだ。舌を軽く噛むと確かな痛みが感じられた。

 少しだけ沖の方に歩く。その中で小さな波が何度も体に当たって。たまに、ちょっと高い波も来て。それがとても気持ちいい。


「じゃあ、ここら辺で水をかけ合おうか」


 俺の太もものあたりまでの深さのところまで来たとき、サクラはそう言った。

 そうだな、と俺が言うと、サクラは俺の手を離して、俺よりも沖の方へ向かう。サクラの着ているビキニのボトムスが全て海水に浸かるかどうかという深さのところで、俺の方に振り向いた。


「じゃあいくよ! それっ!」


 可愛い声でそう言うと、サクラは俺に水をかけてくる。その水は俺の顔からお腹のあたりまでクリーンヒット。


「おっ、冷たくて気持ちいいな」

「ふふっ。ダイちゃんに当たった」

「見事に当たった。じゃあ、お返しだ。それっ!」


 俺は両手でサクラにめがけて水をかける。

 俺がかけた水はサクラの方に飛んでいき、サクラの顔からお腹にかけてかかった。


「きゃっ! 気持ちいいっ!」


 サクラは言葉通りの気持ち良さそうな笑顔になる。海水で濡れた笑顔は真夏の日差しによって煌めいて。それがとても綺麗で。ドキッとさせられる。


「顔にかかるともっと気持ちいいね!」

「そうだな。じゃあ、もっとかけるか!」

「うんっ! 私もね!」


 それから、俺とサクラは水をかけ合う。

 ただ、水をかけ合っているだけだけど、サクラの楽しそうな笑顔を見ているととても楽しい気持ちになる。

 サクラは高校生になって、とても綺麗な見た目になったけど、サクラの笑顔は昔の面影がちゃんとあって。懐かしくて、童心に返った気分になれる。

 サクラにかけられた海水はほんのりと冷たいから気持ち良くて。顔に何回かかかっているから、目がちょっと痛くて、しょっぱさを感じられて。


「楽しそうにかけ合っていますね」

「いい光景だわぁ」


 気付けば、俺達の近くには一紗と杏奈の姿が。サクラと水をかけ合っていて全然気付かなかった。一紗はフロートマットにうつ伏せの形で乗っており、杏奈は浮き輪の穴に腰を下ろして、両手と両脚を浮き輪に引っかけている形だ。2人とも穏やかな笑顔で俺達のことを見ている。あと、2人とも気持ち良さそうだ。


「海でダイちゃんと水をかけ合うのは久しぶりだからね。凄く楽しいよ!」

「俺もだ。昔のことを思い出すし、楽しんでるよ」

「ふふっ、それは良かったわ」

「ですね」

「一紗ちゃんと杏奈ちゃんはどう?」

「気持ちいいわ。杏奈さんとゆったりできてる」

「あたしもです。小さな波が来て、それでちょっとゆらゆらするのも気持ちいいです。あと、先輩方のイチャつきも見ることができていますから」

「そうね、杏奈さん。まあ、あたしにとっては浮き輪に座っている杏奈さんを見るのもいいけどね!」


 一紗は興奮した様子で杏奈のことを見ている。一紗らしいな。そんな一紗が近くにいても杏奈は楽しそうに笑っている。


「2人も楽しそうで良かったよ」

「そうだね、ダイちゃん。……そうだ」


 サクラは不敵な笑みを浮かべると、俺のところにやってくる。


「……2人に一緒に水をかけない? 昔、和奏ちゃんにやったみたいに」


 俺の耳元でサクラはそう囁く。


「……面白そうだな」


 和奏姉さんとも一緒に水をかけ合うとき、サクラと俺が結託して姉さんに水をかけることがあった。

 サクラと俺は小さく頷き合って、一紗と杏奈の方に体を向ける。


「一紗ちゃん! 杏奈ちゃん! 海水のお裾分けだよ! それっ!」

「それっ!」


 サクラと俺は一紗と杏奈に向かって水をかける。


「きゃっ! 冷たい!」

「冷たいわ!」


 俺達に水をかけられるとは思わなかったのか、一紗と杏奈はちょっと驚いた様子でそう言った。

 作戦通り水をかけられたので、俺はサクラとハイタッチ。


「まさか、先輩方にかけられるとは思いませんでした。気持ちいいですけど」

「気持ちいいわね。大輝君と文香さんに冷たい液体をぶっかけられちゃったわ」


 杏奈は楽しそうな、一紗は恍惚とした笑顔でそう言った。あと、冷たい液体をぶっかけられたって言われるとちょっと厭らしく感じるのは俺だけでしょうか。


「2人が近くにいるからね。ダイちゃんと一緒にかけたいと思って」

「昔は和奏姉さんと一緒にかけたからな」

「ふふっ、そういうことだったのね」

「お二人にかけられると、あたしもかけたくなってきますね」

「そうね」

「じゃあ、4人でかけ合おうか」


 その後は4人で水をかけ合う。

 サクラと2人で水をかけ合うのも楽しいけど、こうしてみんなでワイワイとかけ合うのも結構楽しいな。サクラはもちろん、一紗と杏奈も楽しそうな笑顔になっていて。

 ただ、4人で水をかけ合うことが楽しくて、夢中になっていたからかもしれない。


 ――ザバーン!

「きゃっ!」


 海に入ってから一番高い波が押し寄せ、沖の方に背を向けていたサクラが波に飲み込まれてしまった。


「わわっ! 高いですっ!」

「今日一番の大きな波ね!」


 フロートマットに乗っている一紗と浮き輪に乗っている杏奈は波に乗って砂浜の方に流れていってしまう。大きめの波だけど、2人ともバランスを取って海に落ちることはなかった。2人は大丈夫そうだな。良かった。

 ただ、問題はサクラだ。沖の方に振り向くと……サクラの姿が見えない。


「サクラ! 大丈夫か! 俺の声、聞こえるか!」


 波に飲み込まれたことで気を失っていないといいけれど。

 とりあえず、サクラが立っていた場所まで行ってみるか。そう思いつつ沖の方に向かって歩き始めたときだった。


「大丈夫だよ、ダイちゃん」


 サクラは顔を海面から出して、俺に笑顔を見せながらそう言った。この様子なら無事そうだな。サクラの姿を確認できて安心した。ほっと胸を撫で下ろす。


「良かった。サクラの姿が見えなくなったから焦ったよ」

「大きな波が来て、飲み込まれたからちょっとビックリしちゃった。でも、ダイちゃんの声が聞こえて気持ちが落ち着いたよ」

「そっか。良か……えっ」


 サクラはその場で立ち上がり、海面から上半身が出る……のだが。サクラのビキニが脱げており、胸が丸見えになってしまっている! 俗に言うポロリである!


「サクラ! 胸!」

「胸? ……きゃあっ!」


 胸がポロリしてしまっていることに気付いたサクラは、顔を真っ赤にして、慌てて両手で胸を隠す。


「まさか水着が脱げちゃうなんて……」


 ううっ、とサクラは恥ずかしそうにしている。頬を中心に顔が真っ赤だ。

 サクラの胸が少しでも隠れるように、俺はサクラの目の前まで向かい、サクラをそっと抱きしめる。


「きっと、さっきの波に飲み込まれたときに脱げたんだろうな」

「……そうだろうね。脱げちゃうのは初めてだよ……」

「……俺も脱げちゃう人を見るのは初めてだよ」


 漫画やアニメとかで水着が脱げるハプニングシ―ンを見たことはあるけど。まさか、実際に遭遇するとは思わなかった。しかも、俺の恋人で。

 周りを見てみると……サクラの水着と思われるビキニのトップスは見当たらない。さっきの波で流されてしまったのだろう。あと、周りの様子からして、サクラの胸を見た人はいなさそうだ。良かった。

 また、砂浜の方を見たときに、フロートマットを持った一紗と浮き輪を持った杏奈がこちらにやってくるのが見えた。


「さっきの波は大きかったですね!」

「スリルがあったわね。2人は大丈夫……って、どうして大輝君が文香さんのことを抱きしめているのかしら?」


 俺達のところにやってきた一紗がそんな質問をしてくる。


「さっきの波のせいでサクラの水着が脱げたんだ。それで、少しでも胸を隠せるように抱きしめているんだよ」

「そうだったのね。ポロリしてしまったのね」

「大変じゃないですか! 一紗先輩、すぐに探しに行きましょう!」

「そうね」

「2人とも、お願いします……」


 サクラは弱々しい声でそう言う。一紗と杏奈にも知られたからか、さっきよりも顔が赤くなっているように見える。耳まで真っ赤だ。


「任せて。大輝君は引き続き文香さんを抱きしめていて。恋人の胸を守るのよ」

「ああ、分かった」


 周りの人にサクラの胸が見られないように、俺がガードしなければ。

 一紗と杏奈は周りを見ながら、砂浜の方に向かって歩いていく。まあ、今も定期的に波があるから、砂浜の方に水着が流れている可能性は高そうだ。


「水着、見つかるかな……」

「きっと見つかるさ。一紗と杏奈が探しに行ってくれたし。波打ち際には小泉さん達もいるんだから。水着が戻ってくるまでは俺が側にいてサクラを守るから」

「……ありがとう」


 そうお礼を言うと、サクラの真っ赤な顔にようやく笑みが戻る。そして、サクラは両手を俺の背中の方に回して、体を密着させてくる。胸も直接当たっているので、サクラの体の柔らかさが物凄く感じられて。ドキドキしてきた。


「そういうところも好きだよ、ダイちゃん」


 そう言い、サクラは俺にキスしてくる。

 4人で水をかけ合ったり、サクラは波を被ったりしているので、サクラの唇からは塩気を感じる。海でキスできるのは嬉しいけど、まさかサクラの胸のポロリがきっかけになるとは思わなかった。

 数秒ほどしてサクラから唇を離す。すると、目の前には恍惚とした表情で俺を見つめるサクラがいる。海水で濡れているし、何よりもビキニのトップスが脱げたサクラと抱きしめ合っているので物凄く艶っぽく感じる。


「ちょっとしょっぱさも感じるキスだね」

「ああ。でも、海でのキスらしくていいな」

「そうだね。……ただ、こうしてダイちゃんを抱きしめてキスすると、かなりドキドキするね。お風呂やえっちのときにしてるからかな……」

「……そうだな。俺も結構ドキドキしてるよ」

「そっか。ダイちゃんもか」


 ふふっ、とサクラは声に出して笑う。大変な状況だけど、笑っているサクラが可愛いと思う自分がいる。

 ドキドキしていると言うだけあって、触れているサクラの体から心臓の鼓動がはっきりと伝わってくる。サクラの体の温もりも。


「ふーみかー!」


 砂浜の方から小泉さんの声が聞こえてきた。

 砂浜の方に顔を向けると、小泉さんと一紗と杏奈がこちらに向かってくるのが見える。また、小泉さんはピンク色のものを持っている。あの色合いからして、サクラが着ていたビキニのトップスの可能性が高そうだ。


「これ、文香の?」


 俺達のところに来ると、小泉さんはそう言って、右手に持っているピンクの布地をサクラに渡した。

 サクラはぱあっと明るい笑顔になり、


「そう! これこれ!」


 と、普段よりも高い声でそう答えた。サクラのビキニだったか。それもあって、小泉さんと一紗と杏奈は嬉しそうな様子に。


「青葉ちゃんが持ってきたってことは、青葉ちゃんが拾ってくれたの?」

「うん。二乃ちゃんと羽柴君と波打ち際で遊んでたらそれが流れ着いてきて。文香のビキニっぽいトップスだなぁと思って拾ったの。そうしたら、一紗と杏奈ちゃんが『文香の水着が脱げた』って聞いて。じゃあ、きっと文香のだって」

「そういうことだったんだね。……青葉ちゃんが拾ってくれたのは嬉しかったけど、二乃ちゃんと羽柴君にも脱げたのがバレちゃったか」


 サクラははにかみながらそう言った。


「青葉ちゃん、拾ってくれてありがとう。一紗ちゃんと杏奈ちゃんも探してくれてありがとね」

「いえいえ。拾えて良かったよ」

「すぐに見つかって良かったわ」

「そうですね」

「ダイちゃんも私の胸を守ってくれてありがとう」

「いえいえ。さあ、水着を着よう」

「うんっ」


 その後、サクラの胸が見えないように、俺、一紗、杏奈、小泉さんはサクラの周りに立つ。

 サクラはビキニのトップスを着ていく。まさか、海でサクラが水着を着るところを見ることになるとは思わなかったな。


「よし、これでOK。みんなありがとう」


 水着を着終わったサクラはとても安心した笑顔でそう言った。これで、サクラの水着が脱げたことは一件落着だな。本当に良かった。

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