第10話『日焼け止めを塗ってほしい』
午前10時過ぎだけど日曜日なのもあって、海の家の近くを中心に既にビーチパラソルが立てられたり、レジャーシートが敷かれたり、サマーベッドが置かれたりと確保されている場所が多い。海水浴場の中心部で、7人で一緒にゆったりできる場所を確保するのは難しそうだ。
少し外れまで行くと、確保されている場所はまばらになってきた。なので、このあたりに今日の俺達の拠点を作ることに決めた。中心部よりは落ち着いた雰囲気だし、海水浴場の端にある岩場や遥か遠くにある富士山も見えていい場所だと個人的には思う。
俺と羽柴が持ってきたビーチパラソルを砂浜にしっかりと立て、そのことでできた日陰にサクラと杏奈が持ってきたレジャーシートを敷いた。ビーチパラソルもレジャーシートも結構大きいので、7人全員がレジャーシートに入っても大丈夫そうな日陰の空間が完成した。
水着に着替えてからずっと日差しに当たっていたし、ビーチパラソルを立てたのもあり、レジャーシートに入ると結構涼しい。風が吹くと特に。これなら、海やビーチで遊んでもゆっくりと休めそうだ。
また、水着に着替えてからようやくゆっくりできるのもあって、
「ねえ、みんなで写真撮らない? 海水浴に来た記念に。それに、和奏先輩と百花さんから写真撮ってほしいって言われていたし」
と小泉さんが提案。俺達は快諾して、みんなのスマホで水着姿のみんなの写真をたくさん撮影した。写真はこの7人がメンバーのグループトークにアップされた。
実際に見る水着姿もいいけど、写真で見る水着姿もいいものだ。サクラと俺が写っている写真をスマホに保存しておく。
また、みんなが和奏姉さんと百花さんに写真を送っていたので、俺も水着姿の写真をLIMEで2人に送った。二乃ちゃんは2人の連絡先を知らないので、姉の一紗が送っていた。
「ねえ、ダイちゃん」
「うん?」
「背中と脚の裏側に日焼け止めを塗ってほしいな。お願いしてもいい?」
サクラはいつもの可愛い笑顔でそんなお願いをしてくる。
背中や脚の裏側に日焼け止めを塗ってほしい……か。背中は自分じゃ塗りにくいもんな。だから、脚の裏側を含め、背面を恋人の俺に塗ってほしいと思ったのだろう。それに、小さい頃は海に遊びに来るとお互いの背面を日焼け止めを塗り合いっこしたことがあったし。
「いいぞ、サクラ」
「ありがとう!」
サクラは嬉しそうな笑顔でお礼を言った。
「いいわねぇ、文香さん。私にも塗ってほしいわ……」
「あたしも文香先輩が羨ましいですけど、大輝先輩の彼女ですからね」
一紗はサクラに羨望の眼差しを向けている。そんな一紗のことを杏奈は苦笑いをしながら見ている。一紗なら俺に日焼け止めを塗ってほしいと言うと思っていたよ。
「背中や両脚くらいなら、ダイちゃんに塗ってもらってもいいよ。私が許可する」
「えっ、いいの?」
一紗の表情がぱあっと明るくなる。
「うん。もちろん、ダイちゃんがよければだけど」
「どうかしら、大輝君!」
一紗の視線がサクラから俺に移る。杏奈も俺に塗ってほしい気持ちがあるのか、杏奈も俺の方に視線を向けてくる。
「まあ、サクラがいいって言うなら、背面に日焼け止めを塗ってもいいぞ」
「分かったわ。じゃあ、文香さんの後にお願いしてもいいかしら?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとう!」
水着のことを褒めたときと同じくらいに、一紗はいい笑顔になっている。俺に日焼け止めを塗ってほしい気持ちが相当強かったことが窺える。
「あ、あたしもいいですか? 一紗先輩の後でいいので……」
「いいぞ、杏奈」
「ありがとうございますっ」
杏奈はニコッとした笑顔でお礼を言った。
「ねえ、お姉ちゃん。大輝さんに塗ってもらう前に、あたしの背中に日焼け止めを塗ってほしいな」
「ええ! お姉ちゃんに任せなさい!」
「あたしは杏奈ちゃんにお願いしようかな。いいかな、杏奈ちゃん」
「もちろんいいですよ、青葉先輩」
一紗は二乃ちゃん、杏奈は小泉さんの背中に日焼け止めを塗ることになったか。一紗は特にやる気になっている。
サクラは持参した大きめのトートバッグから、ピンク色の小さなボトルを取り出し、俺に渡してくる。
「これが日焼け止めだよ」
「分かった」
サクラはヘアゴムでセミロングの茶髪をまとめた後、レジャーシートの上でうつ伏せの状態になる。背中や脚の裏側が綺麗だから、後ろ姿でもサクラの水着姿にドキッとさせられる。あと、髪をまとめたのは背中に日焼け止めを塗りやすくするためか。
サクラから受け取ったボトルから、右手に日焼け止めの液体を出す。ほんのちょっと冷たさを感じる。
「じゃあ、背中から塗り始めるぞ」
「うん。お願いします」
素直に上から下に向かって日焼け止めを塗っていくか。
サクラの肩甲骨のあたりに両手を乗せる。その瞬間にサクラの体がピクッと震える。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと冷たかったから、体がピクッとなっちゃった」
「そっか」
特に痛みがあるというわけじゃなくて良かった。
サクラの背中に日焼け止めを塗り始める。
まさか、またこうしてサクラに日焼け止めを塗る日が来るとはなぁ。
サクラの肌はスベスベだから日焼け止めが塗りやすいな。気持ちいいのか、サクラはたまに「あっ」とか「んっ」などと甘い声を漏らしていて。それもあって、サクラと肌を重ねているときのことを思い出してドキドキしてしまう。
「気持ちいいよ、ダイちゃん」
「良かった」
「……ダイちゃんにまた日焼け止めを塗ってもらえるなんてね。幸せだよ」
サクラは俺の方に顔を向けて恍惚とした笑みを見せてくれる。その笑顔が艶っぽくてドキッとさせられる。
「俺も同じことを思ったよ。サクラに日焼け止めを塗れて幸せだ」
「そっか」
ふふっ、とサクラは声に出して笑った。
今はサクラの腰のあたりを塗っている。お風呂に入るときなどにサクラの腰をたくさん見ているけど、こうして触れるとサクラはしっかりとくびれがあるのだと分かる。
サクラ以外からも女性の甘い声が聞こえてくる。なので、そちらの方を見ると……サクラの隣でうつ伏せになり一紗に日焼け止めを塗られている二乃ちゃん、その隣でうつ伏せになって杏奈に塗られている小泉さんが気持ち良さそうにしている。また、二乃ちゃんに日焼け止めを塗れて嬉しいのか一紗はニヤニヤしている。
「3人並んでうつ伏せになっていると、マッサージ店とかリラクゼーション店みたいに見えてくるな。こういう場面、漫画やアニメで見たことある」
と、羽柴は自分の体の前面に日焼け止めを塗りながら、楽しそうにそんなことを言った。漫画やアニメで見たことがあるって言うところが羽柴らしい。
「確かに、羽柴の言う通りだな」
サクラも二乃ちゃんも小泉さんも同じ方向にうつむいているし、みんな気持ち良さそうにしているから。
腰まで塗り終わったので、今度は脚の裏側を塗っていく。
「あぁ、脚気持ちいい。家から2時間近くかけて移動したからかな。羽柴君がマッサージ店みたいだって言っていたから、ダイちゃんにマッサージされているみたい」
「ははっ、そっか。電車では座っていたけど、長時間かけて移動することってあんまりないもんな。気持ちいいなら良かったよ」
「うんっ」
両脚に日焼け止めを塗っているだけだけど、うつ伏せになって脚を伸ばしているのもあって結構気持ちいいのかもしれない。
背中や腰も綺麗だったけど、両脚もとても綺麗だ。そう思いながらサクラの両脚に日焼け止めを塗っていった。
「……よし、これで終わりだ」
「ありがとう、ダイちゃん。あとでダイちゃんに日焼け止めを塗るからね」
「ああ、ありがとう」
俺がそう言うと、サクラはニコッと笑いかけてくれた。
一紗と杏奈の背中や脚にも日焼け止めを塗ることになっているから、それが終わったらサクラに塗ってもらおう。
「文香さん、終わったのね。二乃に日焼け止めを塗り終わったし、さっそく塗ってもらっていいかしら?」
「ああ、いいぞ」
「楽しみだわ」
一紗はワクワクとした様子で水色のボトルを渡して、さっきサクラがうつ伏せになっていた場所でうつ伏せになる。ちなみに、一紗もヘアゴムで長い黒髪をまとめた状態だ。なので、一紗の白くて綺麗な背中全体が露わになっている。
「あぁ、文香さんのいい匂いがするわ」
「さっきまで私がいたからね」
ふふっ、とサクラは上品に笑いながら、体の前面に日焼け止めを塗っている。その姿が結構艶っぽく感じられた。あと、俺に背面を塗ってもらったからか、ヘアゴムを外していつもの髪型に戻っている。
「じゃあ、一紗。塗っていくよ。肩から脚の方へ順番に塗っていくからな」
「ええ、お願いするわ」
俺は水色のボトルから日焼け止めの液体を手に出して、一紗の肩のあたりから塗り始める。その際、一紗は「んっ」と甘い声を漏らし、体がピクッと震える。
「大丈夫か?」
「ええ。素肌に大輝君の手が触れているのが気持ち良かっただけ」
「一紗らしいな」
サクラのときも塗り始めた際に体がピクッと震えたから、てっきり日焼け止めの冷たさにビックリしたのかと。そうだ、一紗はこういう女の子だった。
一紗に日焼け止めを塗っていく。
サクラの背中も綺麗だけど、一紗の背中も綺麗だな。黒い水着を着ているのもあり、一紗の方が肌が白い印象がある。スベスベとした肌触りだ。
あと……うつ伏せの状態だけど、胸の一部分が見えている。胸が大きいからこういう形で見えるのだろうか。俺から見える範囲ではあるけど胸なので、この部分は塗らないでおこう。まあ、一紗の場合は塗ってしまっても喜びそうだけど。むしろ、「もっと塗って!」と催促してきそうだ。
「あぁ、気持ちいい。大輝君にいっぱい素肌を触ってもらえて幸せ。興奮してきた」
はあっ、はあっ……と一紗の息がちょっと荒くなっている。興奮するところも一紗らしい。一紗から伝わってくる熱が強くなってきた。あと、心なしか、一紗の肌の血色が良くなってきたような。
「お姉ちゃん、本当に幸せそうだねっ」
気付けば、二乃ちゃんが一紗のすぐ近くに来ていた。幸せだと言う一紗を見てか二乃ちゃんはニコニコしていて。体つきはサクラや小泉さんにも負けず劣らずの大人っぽさがあるけど、笑顔は幼さも感じられて中1なんだなと思わせる。
「ええ、至福のひとときよ」
「そっか。……こんなに幸せそうなお姉ちゃんはなかなか見ません。さすがは大輝さんですね!」
「ははっ。俺は日焼け止めを塗っているだけさ。ただ、一紗に至福だと思える時間を与えられて嬉しいよ」
「ありがとう、大輝君」
「ありがとうございます、大輝さん」
一紗は顔だけをこちらに振り向き、笑顔を見せてくれる。二乃ちゃんも俺に笑いかけてくれて。さすがは姉妹だけあって笑顔がそっくりだ。
いえいえ、と言って、俺は日焼け止めを塗り続ける。
「おっ、気持ちいいな」
「良かった。あと、女子と違って、男子の背中ってちょっとゴツゴツしているね」
羽柴と小泉さんのそんな会話が聞こえてきたので、そちらを見てみると……羽柴が小泉さんに日焼け止めを塗ってもらっていた。去年は俺が日焼け止めを塗ったけど、今回は俺はサクラと一紗と杏奈に塗るからな。だから、羽柴は小泉さんに頼んだのかも。クラスメイトだし、一番快活だから頼みやすかったのかもな。
サクラのようにくびれがはっきりとある腰のあたりも塗り終わり、一紗の両脚も塗っていく。一紗も脚がとても綺麗だなぁ。
「文香さんの言う通り、脚を塗ってもらうと気持ちいいわね」
「でしょう?」
サクラはニコッとした笑顔で言う。ドヤ顔のようにも見えて。だから結構可愛い。
「……よし。これで塗り終わったぞ」
「ありがとう、大輝君。大輝君に体の背面を直接いっぱい触られて、とても気持ち良くて幸せな時間だったわ……」
一紗はゆっくりと起き上がると、俺に恍惚とした笑顔を向けてきた。こういう感想を言うところもまた一紗らしい。
「良かったね、お姉ちゃん!」
二乃ちゃんはニコッとした笑顔でそう言う。すると、一紗はニッコリとした笑顔で「うんっ!」と首肯した。
「そりゃ良かった。……はい、日焼け止め」
俺は一紗に日焼け止めの入った水色のボトルを返した。これで一紗も終わったな。
「じゃあ、最後は杏奈だな」
「お願いしますっ」
元気良く言うと、杏奈は白くて小さなチューブを俺に渡してきて、さっきまで一紗がうつ伏せになっていたところにうつ伏せの状態になる。
ちなみに、杏奈はショートボブなので、サクラや一紗のように髪をまとめることはしていない。いつもの髪型でも杏奈の背中全体ははっきりと見えている。
「肩のあたりから順番に塗っていくよ、杏奈」
「はい、お願いします」
俺はチューブから日焼け止めを出す。杏奈の日焼け止めはクリームタイプか。
杏奈の肩のあたりから日焼け止めを塗り始める。サクラと一紗と同じく、最初に触れたときに杏奈は体がピクッと震える。
「後ろから触れたので、ちょっとピクってなっちゃいました」
「そっか」
俺が訊く前に、杏奈がこちらに振り向いて答えてくれた。サクラと一紗のときに俺が「大丈夫か?」と訊いたから、自分も訊かれると思ったのかもしれない。
引き続き、杏奈に日焼け止めを塗っていく。
今は背中のあたりを塗っている。サクラと一紗に負けないくらいに杏奈の肌も綺麗でスベスベとしていて。今は水着姿だし、素肌に直接触れているのもあって、いつもよりも大人っぽい印象を受ける。
「あぁ、気持ちいいです。文香先輩と一紗先輩が気持ちいいと言ったのも納得です」
「でしょう、杏奈ちゃん」
「大輝君に塗られるの気持ちいいわよね!」
「はいっ」
「杏奈にも気に入ってもらえて何よりだ」
日焼け止めクリーム塗っているだけだけど、気持ち良さをもたらすことができて嬉しいよ。
サクラや一紗よりも小さな杏奈の背中に日焼け止めクリームを塗り終わって、脚に塗り始める。小柄な体格なのもあってか、脚はサクラや一紗よりか細い。杏奈も脚に塗られるのも気持ちいいようで、杏奈は時折「気持ちいい」と呟いていた。
「よし。これで杏奈も終わったぞ」
俺がそう言うと、杏奈は起き上がってこちらに振り向き、
「ありがとうございますっ」
と、いつもの明るい笑顔でお礼を言ってくれた。俺が日焼け止めを塗ったから引き出せた笑顔だと思うと、いつも以上に可愛く思える。そんな杏奈に日焼け止めクリームが入っているチューブを返した。
「じゃあ、次はダイちゃんだね」
「ああ、お願いするよ、サクラ」
「私も大輝君に日焼け止めを塗りたいわ! 私に塗ってくれたお礼に」
「あたしも塗りたいですっ! どこでもいいので!」
一紗と杏奈は右手をピシッと挙げながらそう言ってきた。2人ともやる気に満ちた様子で。2人なら塗りたいと言うと思っていたよ。
「いいよ。じゃあ、私が肩から腰まで塗るから、一紗ちゃんは右脚、杏奈ちゃんは左脚を塗ってくれる? ダイちゃんはそれでいい?」
「ああ、いいぞ」
「分かったわ、文香さん!」
「左脚はあたしに任せてください!」
一紗と杏奈、嬉しそうだ。そんな2人を見て、サクラは「ふふっ」と笑う。
「お願いね。じゃあ、ダイちゃん。ここにうつ伏せになって」
「ああ」
バッグから日焼け止めが入っている青いボトルをサクラに渡して、サクラの指示通り、俺はレジャーシートの上にうつ伏せの状態になる。
ついさっきまで杏奈がうつ伏せになっていたからほんのり温かい。また、これまでにサクラと一紗と杏奈がうつ伏せになったから、彼女達の甘い残り香が感じられて。そのことにドキッとする。
「じゃあ、ダイちゃん。塗り始めるよ」
「ああ。お願いします」
その直後、肩のあたりに何かが触れ、ほんの少し冷たさが感じられるように。俺は最初から気持ちいいと思えるけど、背後からだし、サクラ達が体を震わせるのも納得かな。
また、右脚、左脚の順番で触られる感覚に。きっと、一紗と杏奈も塗ってくれているのだろう。
「どうかな、ダイちゃん」
「凄く気持ちいいよ。3人にやってもらっているから贅沢な感じもする」
「ふふっ、そっか。良かった」
「そうね。大輝君を気持ち良くさせられていると思うと、私も気持ち良くなってくるわ」
「一紗先輩らしいですね。大輝先輩を気持ち良くできて嬉しいです」
「3人ともありがとな」
まさか、恋人や友達や後輩の女子から同時に日焼け止めを塗られる日が来るとはな。本当に気持ちいいから夢のような時間だ。日焼け止めを塗られるのがこんなに気持ちいいと思ったのは初めてだ。
「大輝さん、気持ち良さそうですね」
「そうだなぁ。女子3人に日焼け止めを塗られてる奴を見るのは初めてだぜ」
「あたしもだよ。ハーレムみたいに見える。面白いから写真撮っておこっと」
二乃ちゃん達のそんな声が聞こえたので、そちらを見てみると……二乃ちゃんと羽柴と小泉さんが面白そうな様子でこちらを見ていた。小泉さんに至ってはスマホで俺達の写真を撮っている。
「青葉さん! 今の写真送ってちょうだい!」
「いいよ。一紗ならそう言うと思った」
一紗と小泉さんのそんなやり取りに、俺達7人は笑いに包まれる。
それから少しの間、サクラと一紗と杏奈によって癒やしの時間を過ごすのであった。




