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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-

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185/202

第6話『夏休み初のバイト』

 7月19日、日曜日。

 今日は午前10時から午後5時まで、マスバーガーというファストフード店でバイトをしている。夏休みなど長期休暇中は、今日のように長めの時間でシフトに入ることもある。

 お昼過ぎにはサクラが一紗、杏奈、小泉さん、二乃ちゃんと一緒に来店してくれる予定だ。今日は5人とも予定がフリーであり、来週の日曜日に海水浴に行くので、5人で水着を買うのをメインに四鷹駅周辺で遊ぶことになったのだ。

 高校の水泳の授業で使うサクラのスクール水着は俺と一緒に買いに行き、試着するサクラを見た上で選んだ。それも良かったけど、今回のようにサクラがどんな水着を買ったのか楽しみにするのもいいなと思う。

 ちなみに、俺はバイトが終わったら、新しい水着を買うつもりだ。

 昼過ぎにサクラ達が来てくれるのを楽しみに、今日のバイトを頑張ろう。

 今日の天気は曇りで、日が暮れる頃に一時雨が降る予報。まだ梅雨は明けていないけど、そこまで悪くない天気だ。それに、何よりも今日は日曜日なので、俺がシフトに入った直後から多くのお客様に接客している。

 隣のレジでは、同じ時間でシフトに入っている大学2年生の合田百花(あいだももか)さんがいる。バイトを始めて1年以上経ち仕事にも慣れたけど、隣に俺の指導係をしてくれた百花さんがいると安心感がある。

 百花さんの隣での接客業務を中心に、ホールでの仕事をしていった。


「百花君。大輝君。正午からのシフトの子も入ったし、2人は昼休憩に入りなさい」


 正午過ぎ。

 萩原聡(はぎわらさとる)店長がそう言ってくれた。

 百花さんと俺は「はい」と返事して、カウンターから離れる。昼休憩と言っていたので、まかないを食べながら長めの休憩を取ろう。

 スタッフの休憩室に行くと、テーブルにチーズバーガーやてりやきバーガー、ポテトなどのまかないが乗ったお皿が置かれている。

 俺は大好物のチーズバーガーとポテト、百花さんはてりやきバーガーとポテトを一つずつ取った。

 また、俺は自分用のアイスコーヒーと百花さんのアイスティーを用意する。百花さんにアイスティーの入ったカップを置き、百花さんの正面の椅子に座った。


「じゃあ、さっそく食べようか」

「そうですね。いただきます」

「いただきまーす」


 俺はチーズバーガーの包み紙を開け、一口食べる。あぁ……バンズとチーズとパティがよく合っていて美味しい。2時間バイトをした後でお腹が空いているから本当に美味しい。小さい頃からマスバーガーではチーズバーガーが一番好きだけど、その地位は揺るがないな。


「チーズバーガー美味しいです」

「良かったね。てりやきバーガーも美味しいよ」

「てりやきも美味しいですよね」

「うんっ」


 笑顔で首肯すると、百花さんはてりやきバーガーをもう一口。う~ん、と可愛らしい声を漏らすのもあってとても可愛い。


「そういえば、7月も19日になったし、大輝君の通っている四鷹高校は夏休みに入ったの?」

「はい。昨日から夏休みが始まりました」

「そうなんだね。1学期お疲れ様」

「ありがとうございます」


 バイト中に百花さんを含めてスタッフの方々とお疲れ様という言葉を交わし合う。ただ、学校のことでお疲れ様って言われることはあまりないので、いつもの「お疲れ様」以上に嬉しい気持ちになる。


「百花さんは通っている大学は……まだ春学期でしたっけ」

「そうだよ。それで、来週の半ばから試験期間になるんだ」

「そうなんですか。期末試験頑張ってください」

「ありがとう。まあ、全科目で筆記試験あるわけじゃなくて、中には最終レポートとか最終課題の作品を出したら終わっていう科目もあるけどね」

「百花さんの大学は美大ですから、作品提出で終わる科目もあるんですね」

「うん。……それで、試験期間が終わって8月頭から9月末まで夏休みだよ」

「そうですか。2ヶ月近くあるのはいいですね」

「そうだね。バイトしたり、サークルに行ったり、趣味を楽しんだりするつもりだよ。そのためにも、期末試験とかレポートとか課題とか頑張るよ!」

「頑張ってください。応援しています」


 俺がそう言うと、百花さんは「うんっ!」と元気良く頷いた。


「大輝君って、夏休みは何か予定とかはあるの?」

「バイト以外ですと……来週の日曜日にサクラや杏奈達と一緒に海水浴に行く予定です」

「海かぁ! いいねっ!」


 海水浴が好きなのか、百花さんは明るい笑顔でそう言ってくる。


「その海水浴のために、今日はサクラと杏奈、一紗、小泉さん、一紗の妹の二乃ちゃんっていう子が水着を買いに行っているんです。お昼過ぎにマスバーガーに来てくれることになってます」

「そうなんだ! 杏奈ちゃん達に会うのが楽しみだな。あたしも高校時代は夏休みに友達と一緒に海へ遊びに行ったなぁ。そのために、一緒に水着を買いに行ったよ。楽しかったなぁ」


 そのときのことを思い出しているのか、百花さんは優しい笑顔になっている。

 今の百花さんのように、何年か経って思い出すときに楽しかったと思えるような海水浴にしたいな。


「具体的に決まっている予定は海水浴くらいですが……楽しい夏休みにしたいと思っています。サクラと付き合い始めてから初めての夏休みですし、一緒に暮らしていますから……」

「いっぱいイチャイチャできるね」

「で、ですね。いっぱいできますね」


 昨日、サクラと「イチャイチャもしようね」と決めたのもあり、百花さんにイチャイチャできるねって言われるとかなりドキッとする。体が熱くなっていく。頬も熱くなっているので、きっと赤くなっているんだろうな。

 ゴクゴクとアイスコーヒーを飲むけど、体の中にある熱が全く収まらなかった。


「ふふっ。高2だし、文香ちゃんと付き合ってから初めての夏休みだから、素敵なお休みになるといいね」

「はい」


 百花さんの言う通りだ。高2の夏休みはとても良かったと思えるような夏休みにしていきたい。高2の夏休みも、サクラという恋人ができてから初めての夏休みも今年しかないのだから。

 その後は、百花さんとこれまでの夏休みについて雑談しながら、まかないを食べていくのであった。




 昼休憩が終わった後も、百花さんの隣のカウンターでの接客を中心に業務をしていく。

 お昼過ぎの時間帯に差し掛かっても、来店されるお客様は多い。大変さはあるけど、接客をすれば時間の進みが速く感じられるので、そういう意味ではいいなって思う。それに、サクラ達がこの後来るという楽しみがあるし。

 百花さんと一緒に休憩を1回挟み、午後3時過ぎ。


「ダイちゃん、来たよ。百花さん、こんにちは」


 サクラ達が来店してくれた。一紗達も俺と百花さんに向かって「こんにちは」と言ってくれる。

 サクラは今朝見ているけど半袖の襟付きワンピース、一紗はロングスカートにノースリーブの縦ニット。杏奈はキュロットスカートにノースリーブのブラウス、小泉さんはスラックスに半袖のVネックシャツ。二乃ちゃんは半袖のTシャツの上にキャミワンピースを着ている。みんな夏らしい雰囲気で似合っている。

 サクラは茶色いトートバッグの他に白い紙の手提げを持っている。同じ手提げを一紗達も。今日は水着を買う目的があるので、もしかしたら同じお店で水着を買ったのかも。


「こんにちは。みんな服が似合ってるな」

「似合ってるよね、大輝君。みんなこんにちは」


 挨拶だけでなく、服が似合っていると言ったのもあり、サクラ達は嬉しそうな笑顔で「ありがとうございます」と言った。

 あと、サクラはとても機嫌が良さそうで。そうなっている理由の一つはきっと……サクラの持っている茶色いトートバッグだろう。そのバッグは中1のとき、文香の13歳の誕生日に俺がプレゼントしたバッグで、サクラのお気に入りだ。

 しかし、今年の春休みの終わり頃に、バッグが窃盗犯によって盗まれた事件があった。すぐに俺が犯人を取り押さえたけど。俺が取り押さえるまでの間に、犯人は一紗を突き飛ばして。犯人を現行犯逮捕した際に、バッグが証拠品として警察に押収されてしまった。

 ただ、犯人の裁判が無事に終わったので、期末試験後の半日期間の頃にサクラに返却されたのだ。


「サクラがそのバッグを持っている姿をまた見られて嬉しいよ」

「うんっ。私もまたこれを持ってお出かけできて嬉しい」


 えへへっ、とサクラは声に出して笑う。本当に可愛いな。

 可愛かったり、綺麗だったりする女子が5人で来たからか、店内にいる多くのお客様がサクラ達に視線を向けている。まあ、本人達は気にしていないようだけど。


「おっ、杏奈君達じゃないか。こんにちは」


 萩原店長が姿を現した。サクラ達がいるので優しい笑顔になっている。サクラ達は店長に向かって明るい笑顔で「こんにちは」と言う。


「あと、キャミワンピースの子は初めましてだよね」

「私も初めて見る顔だね」

「この子が一紗ちゃんの妹の二乃ちゃん?」

「そうです」

「そっか。可愛い子だね。初めまして。相田百花です。近くにある日本美術大学に通っている2年生です」

「萩原聡です。このマスバーガー四鷹駅南口店の店長をしております」

「初めまして、麻生二乃です! 中学1年生ですっ! よろしくお願いします!」


 大学生のお姉さんとダンディーなおじさん相手だけど、二乃ちゃんは元気な笑顔で挨拶をした。


「中学1年生なんだ! 可愛いけど、大人っぽい雰囲気もあるから高校生かと思ったよ」

「そうですかっ。今年の3月までは小学生でした」


 二乃ちゃんはニコニコしながらそう話す。中学1年生だから、今年の3月まで小学生だったのは当たり前だけど……大人っぽい雰囲気の持ち主だからちょっと信じられない気持ちも。この雰囲気は姉の一紗と似ていると思う。

 二乃ちゃんが大人っぽく思われて嬉しいのか、一紗はニコッとした笑顔を見せる。可愛いな。


「大輝君から聞いたよ。来週の日曜日に海へ遊びに行くから、そのためにみんなで水着を買いに行ったって」

「そうです。オリオの水着売り場に行って、みんな新しい水着を買いました!」


 杏奈が元気良く答える。みんなも笑顔になっていることからして、みんな気に入った水着を買えたようだ。


「水着を試着したみんなの姿を見られてとてもいい時間だったわぁ……」


 一紗はうっとりとした様子でそう言う。試着したサクラ達の水着姿を見て興奮している一紗のことが容易に思い浮かぶよ。杏奈と二乃ちゃんの水着姿を見たときは特に興奮していたんじゃないだろうか。


「一紗、試着したあたし達のことをスマホで撮っていたし、一番楽しんでいたよね」

「そうだったね、青葉ちゃん」

「試着するあたし達を見るお姉ちゃん可愛かったです。ただ、お姉ちゃんが写真を撮ってくれたおかげで、何が一番いいか決められました」

「そう言ってくれて嬉しいわ」

「みんな、素敵な水着を買えたよね。私も買えたよ、ダイちゃん。この手提げに入ってる」

「そうなんだ。買えて良かったな」


 写真を撮っていれば見比べられるから、いいなと思える水着を選びやすいのだろう。あと、嬉々とした様子で水着を試着したサクラ達を撮る一紗の姿も頭に容易に思い浮かぶ。


「ダイちゃん。どんな水着を買ったかは海水浴でのお楽しみでいい?」

「いいぞ。サクラ達がどんな水着を買ったのか楽しみだ。海水浴がより楽しみになったよ」

「ふふっ。ダイちゃんが可愛いって思ってくれたら嬉しいな」

「期待していてね! 大輝君!」

「大輝先輩に可愛いと思ってもらえたら嬉しいです」

「一緒に行く速水君と羽柴君に似合っているって言われたら嬉しいな」

「そうですね、青葉さん」


 みんな、弾んだ声でそう言った。俺や羽柴が一緒に行くから、俺達が似合っていると思ってもらえそうというのも、新しい水着を選ぶ基準の一つになっていたのかも。特に俺の恋人のサクラや、俺に好意を抱く一紗や杏奈は。

 みんな可愛かったり、美人だったりするから、買った水着はきっと似合っていることだろう。海水浴が本当に楽しみだ。


「もしよければ、百花先輩も一緒に行きませんか?」


 杏奈がそう問いかける。サクラ達女子4人は「いいね」と賛同している。


「ありがとう、杏奈ちゃん。だけど、その日は大学の試験期間中だから辞退するよ。その頃だと、最終課題の締め切りが近い科目もあるし」

「そうですか。分かりました。百花先輩の通う大学もこれから試験があるんですね。試験や課題を頑張ってください」

「ありがとう。あと、海水浴に行ったら写真撮ってきてほしいな。杏奈ちゃん達の水着姿がどんな感じなのか気になるし。大輝君もね」

「はい、分かりました!」

「分かりました。……実は和奏姉さんにも誘ったのですが、姉さんも百花さんと同じような理由で辞退して、水着姿の写真を撮ってきてほしいと言ってきました」

「ふふっ、そうなんだ」


 百花さんは楽しげにそう言った。

 実は千葉県にある大学の近くで一人暮らししている和奏姉さんにも海水浴に行かないかと誘ったのだ。ただ、百花さんと同じく、姉さんの通っている大学も試験期間中のため、姉さんは海水浴に行くことを辞退した。その代わり、海水浴での写真を撮ってきてほしいと言ってきたのだ。2人とも期末試験とか課題を頑張ってほしいな。


「君達のやり取りを見ていると懐かしい気持ちになるね。学生時代の夏休みに、付き合っていた頃の妻と一緒に海水浴デートをしてね。そのとき、妻が新しい水着を買って、文香君達のようにどんな水着かは当日のお楽しみと言っていたよ。晴天の下で私に見せてくれた水着姿の妻は、海水浴場にいるどの女性達よりも可愛くて美しかった。スタイルも良くてね。まあ、それは今も変わらないけどね」


 そのときのことを思い出しているのか、萩原店長はとても柔らかい笑顔になっている。店長の愛妻家ぶりがよく分かるな。あと、今の店長は昼休みに高校時代のことを話してくれた百花さんと重なる部分がある。

 どの世代でも、夏休み中に海水浴に行くことは、遊びやデートの定番なのかもしれない。


「みんな海水浴楽しんできてね!」

「楽しんできなさい」


 百花さんと萩原店長が優しい笑顔でそう言ってくれた。そんな2人の言葉に、俺達6人は「はい」と返事した。


「そろそろ注文しようか。いつまでもここにいたら他のお客さんの迷惑になっちゃうし」

「そうね、文香さん」


 その後、俺がサクラと一紗と杏奈に、百花さんが小泉さんと二乃ちゃんに対して接客する。

 ここでバイトしている杏奈と一緒に来店したので、杏奈の社員割引でみんなの代金は30%の割引となった。これについてみんな喜んでいた。


「お待たせしました。アイスコーヒーMサイズとポテトMサイズになります」

「ありがとう、ダイちゃん」


 俺は最後に接客したサクラに、アイスコーヒーとポテトが乗ったトレーを渡した。


「ダイちゃん。この後もバイト頑張ってね。百花さんも頑張ってください」

「ありがとう、サクラ」

「ありがとう、文香ちゃん」

「サクラ、みんなとごゆっくり」

「うんっ」


 サクラは俺と百花さんに笑顔で手を振って、みんなが待っているテーブル席へと向かっていった。サクラは小泉さんの隣の席に座った。


『いただきまーす』


 サクラが席に座ってすぐに、みんなは購入したドリンクやフードを楽しんでいく。美味しいのかみんな笑顔で。その姿に癒やされ、これまでのバイトの疲れが取れていく。

 サクラ達は1時間ほど滞在してくれた。たまに、サクラ達と目が合うと笑顔で手を振ってくれることもあって。そういった時間があったから、午後5時までのバイトも難なく乗り越えられた。

 バイト後はオリオに行って、今度行く海水浴で穿く水着を購入した。青のトランクスタイプの海パンだ。サクラ達に似合っていると思ってもらえたら何よりである。

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