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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編6-星空に願う夏の夜編-

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176/202

第5話『七夕祭り-中編-』

 その後も綿菓子やベビーカステラなど、甘いものを中心に食べ物系の屋台を廻っている。どれも美味しいし、サクラとは必ず一口交換をしているので凄く満足感がある。

 また、高校のクラスメイトや中学時代の友人と会うことが何度もあって。地元ではないけど、人気のお祭りだと旧友と再会できていいな。

 会場に来たときにはまだ少し明るさが残っていた空も、今はすっかりと暗くなっている。ただ、そのことで、会場の中は提灯や屋台のみの灯りに照らされるので、よりお祭りらしい雰囲気になっている。


「ねえ、一紗、杏奈ちゃん、羽柴君。いくつか屋台を廻ったし、そろそろ2人に提案してみてもいいかな」

「いいと思うわ」

「この6人での時間も楽しめましたしね」

「俺もいいと思うぜ」

「どうかしたの? みんな」

「何かあるのか?」


 今の会話からして、一紗と杏奈、羽柴、小泉さんの4人で何か考えていることがあるみたいだ。

 4人を代表してか、小泉さんが笑顔で俺とサクラに一歩近づく。


「実は、ある程度6人で廻ったら、文香と速水君に2人きりの時間を作らないかって4人で話していたの。2人は今年の春に付き合い始めたし、このお祭りには4年ぶりに一緒に来たみたいだから」

「そうだったのか」

「ダイちゃんと私にデート気分を味わってほしいって考えてくれたんだね」


 試験勉強期間で七夕祭りのことが話題になったとき、この6人で一緒に行こうと決めた。だから、6人で一緒に楽しめれば俺はそれで満足に思っていた。4年ぶりにサクラと一緒にお祭りを楽しめるから。それに、中1までも家族や友達と一緒に廻っていたし。

 ただ、今の小泉さんの話を聞くと……サクラと2人きりでお祭り会場の中を廻ることに興味が出てくる。


「俺は……サクラと2人きりでデート気分を味わいたいと思ってる。サクラはどうかな?」

「……私もっ」


 サクラはニッコリと笑いながらそう言うと、俺の手を繋ぐ力を強くしてくる。そんな反応にとても嬉しい気持ちになる。


「じゃあ、みんなのご厚意に甘えて、一旦、サクラと俺は別行動させてもらうよ」

「ダイちゃんとお祭りデートしてくるね」

「うんっ」


 小泉さんは持ち前の快活な笑顔で頷く。


「楽しんでね、大輝君、文香さん」

「デート楽しんでくださいね!」

「楽しんでこいよ」

「みんなありがとな」

「ありがとう!」


 サクラと俺のために2人きりの時間を作ってくれるなんて。みんな優しいな。そういった人達が友達や後輩で、俺達は恵まれていると思う。

 今は午後7時20分。なので、午後8時に短冊コーナーの近くに集まると約束し、サクラと俺は4人と別行動をすることに。こうして、お祭りデートが始まった。


「まさか、青葉ちゃん達が私達のデートの時間を作ろうって考えてくれていたなんてね」

「そうだな。全然想像していなかったよ。サクラと久しぶりにこのお祭りに来られたから、みんなと一緒でも楽しかったし。もちろん、サクラと2人きりになれて嬉しいぞ!」

「ふふっ、分かってるよ。それに、私も同じ気持ちだから」

「サクラ……」

「みんなが用意してくれた2人きりの時間を楽しもうね!」

「そうだな」


 40分ほどだけど、サクラとのお祭りデートの時間をたっぷりと楽しみたい。


「サクラはどこかお目当ての屋台はあるか?」

「屋台がいっぱいあるからね……。とりあえずは歩いてもいいかな? それで、良さそうなところがあったら『行きたい!』って言うよ」

「分かった」


 とりあえずは会場の中を歩くというのも乙な過ごし方だろう。非日常の場所をサクラと一緒に歩いているから、俺にとっては今の時点でかなり楽しい。

 周りを見ると……俺達のように手を繋いだり、腕を組んだりして会場内を歩いているカップルらしき人達は何組もいる。デート目的でこのお祭りに来ている人は結構いるんだろうな。一年に一回のイベントだし、屋台で色々と楽しめるし、願いごとも書けるし。


「ダイちゃんと2人きりで七夕祭りを廻れるなんて。夢みたい。小さい頃からダイちゃんのことが好きだし。カップルを見ると、私もダイちゃんといつかは2人で廻れるかなって思っていたから」

「そうだったんだな。それを聞くと、4人の提案を受け入れて良かったってより思うよ」

「……さっき、ダイちゃんがみんなに『2人きりでデート気分を味わいたい』って言ってくれたとき、凄く嬉しかったよ。ありがとね、ダイちゃん」


 サクラはとても嬉しそうに言うと、俺の頬にキスしてきた。ちゅっ、と音がした直後、サクラは「えへへっ」と可愛く笑って。もう、このままサクラと手を繋いで歩いているだけでも十分な気がしてきたな。


「輪投げも得意なんだね、悠真君!」

「射的ほどじゃないけどな。結衣の欲しいものが取れて良かった」

「えへへっ、ありがとう」


 男女の睦まじそうな会話が聞こえてきた。声がした方をチラッと見ると、浴衣姿の黒髪の女性が嬉しそうな様子で甚平姿の金髪の男性の腕を抱きしめている。俺達と変わらないくらいの年齢かな。見たところ、あの2人は俺達と同じでカップルなのだろう。


「輪投げか……」

「ダイちゃん、輪投げ得意じゃなかった? お菓子の詰め合わせとか取ってくれたよね」

「色々取ったなぁ。……輪投げ、行ってみるか?」

「いいね! これまでは食べ物系の屋台だけだったし。欲しいものがあったら、ダイちゃんに取ってもらおうかな」

「ああ、いいぞ」


 輪投げは数年ほどやっていないけど。

 それから少し歩くと、輪投げの屋台を見つける。

 3段式の台には、お菓子、おもちゃ、動物のぬいぐるみ、人気アニメのミニフィギュアなどの景品が多数置かれている。景品の中身は少し変わっているけど、全体的な雰囲気は昔と変わらないな。だから、懐かしい気分になり、サクラのために景品をゲットして、サクラに喜んでもらったことを思い出す。

 輪投げは3回で100円か。値段設定は変わらないな。昔はこの100円分で1つは景品を取れたけど、数年のブランクがあるからなぁ。


「サクラ。何か欲しい景品はあるか?」

「……あの、黒猫の寝そべりぬいぐるみがほしいな」


 そう言い、サクラは台の方を指さす。その先にあるのは、一番上の台にうつぶせに寝そべっている黒猫のぬいぐるみ。大きさは俺の両手に収まるくらいのサイズだろうか。サクラが抱きしめたらちょうど良さそうかも。


「あの黒猫の寝そべりぬいぐるみだな。分かった」

「お願いしますっ」


 そう言い、サクラは財布から100円を取り出し、俺に渡してきた。こうすると、輪投げを託された気持ちになるな。昔のように100円でぬいぐるみを取って、サクラにかっこいいところを見せたい。

 屋台のおじさんに100円を渡して、話を3つ受け取る。完全に輪にくぐったら景品ゲットできるルールとのこと。頑張ろう。


「よし。久しぶりに輪投げを頑張るぞ」

「頑張って、ダイちゃん!」

「おう」


 俺は右手で輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに狙いを定める。

 ぬいぐるみは一番上の台にあってちょっと遠いから、少し回転をかけた方がいいな。昔の感覚を思い出しながら、一投目を放った。

 俺の右手から放たれた輪は、回転をかけながら黒猫のぬいぐるみにめがけて飛んでいく。

 しかし、ぬいぐるみの顔に直撃し、真ん中の台に落ちた。


「惜しいなぁ」

「でも、目的のものに当たって凄いよ! 私だったら届かないか、明後日の方向に飛んでいくもん!」

「そう言ってくれると、失敗したけど嬉しくなるな」


 サクラが笑顔で言ってくれるし。

 久しぶりの輪投げだけど、目的の景品に輪が当たったのは大きい。昔の感覚はこの右手が覚えていたのだと分かったし。

 2つ目の輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに再び狙いを定める。

 一投目は顔に直撃した。ということは、さっきよりも少し強めに投げるか。それを心がけながら、二投目を放った。

 先ほどと同じように、右手から放たれた輪は回転をかけながらぬいぐるみにめがけて飛んでいく。

 しかし、力が強すぎたのか、黒猫のぬいぐるみの少し上を通過。ぬいぐるみにかすりもせず、屋台のテントにぶつかってぬいぐるみの上に落ちる。ただ、輪が通ったのではなく、胴体の上に乗っているのでこれもダメだ。


「強く投げすぎたなぁ」

「テントに当たったけど、それでも輪がぬいぐるみの上に落ちて凄いよ!」


 サクラは興奮気味にそう話してくれる。サクラは褒め上手だなぁ。サクラのおかげで、2連続で失敗してもそこまでショックはない。

 次が3投目か。サクラのお金で輪投げをしているし、できれば次の輪で猫のぬいぐるみをゲットしたい。

 3つ目の輪を持ち、黒猫のぬいぐるみに狙いを定める。

 2投目は力が少し強すぎた。だから、輪がぬいぐるみを飛び越えて、テントにぶつかってしまった。二投目と一投目の中間の強さで。それを心がけて三投目の輪を放った。

 これまでと同じく、俺の放った輪はぬいぐるみにめがけて飛んでいく。

 輪はぬいぐるみのほんの少し上を飛ぶ。ただ、輪が過ぎようとした瞬間に落ち始め、黒猫のぬいぐるみに通る形となった。


「やった! やったねダイちゃんっ!」


 普段よりも甲高い声でそう言うと、サクラは凄く嬉しそうに拍手してくれる。そんなサクラを見て嬉しい気持ちと同時に、昔のように100円のうちに景品をゲットできたことの安堵の気持ちを抱いた。


「おっ、今年は上手い奴が次々現れるなぁ。おめでとう、兄ちゃん」

「ありがとうございます」


 屋台のおじさんから、黒猫のぬいぐるみが入った紙の手提げを受け取った。

 上手い奴……もしかして、さっきすれ違った甚平服姿の男性も、俺と同じように100円で景品を取ったのかな。彼女と思われる女性との会話からして、輪投げをした直後だったようだし。


「はい、サクラ」

「ありがとう、ダイちゃん!」


 俺が手提げを渡すと、サクラはキラキラと輝かせた目で手提げからぬいぐるみを取り出して、ぎゅっと抱きしめる。昔と変わらず本当に可愛いな、俺の彼女。


「昔と変わらず上手だね!」

「ありがとう。ひさしぶりだったけど、100円で景品を取れて良かったよ」

「凄いよ、ダイちゃん! ちゃんと取れるのはもちろんだけど、狙いを定めて投げる姿もかっこよかったよ!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」


 彼女にかっこいい姿を見せられて良かったよ。彼氏として何よりだ。


「サクラ。ひさしぶりにゲットできた記念に写真撮ってもいいか? ぬいぐるみもサクラも可愛いし」

「もちろんいいよっ!」


 その後、俺は自分のスマホで、ゲットした黒猫のぬいぐるみを抱きしめるサクラを撮影する。

 浴衣を着てからのサクラの笑顔はたくさん見てきたけど、今の笑顔が一番可愛く思える。俺の輪投げでその笑顔を引き出せて、写真に収められたことを嬉しく思った。

読んでいただきありがとうございます。

お気づきの方もいるかもしれませんが、この話に出てきた悠真と結衣は『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』のキャラクターです。

もしよければ、読みに来てみてください。Nコードは N3283FX です。

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