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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編6-星空に願う夏の夜編-

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171/202

プロローグ『試験明けの予定』

特別編6-星空に願う夏の夜編-




 6月23日、火曜日。

 梅雨入りしてから2週間ほどが経った。梅雨入りした直後から、雨が降って蒸し暑く感じる日が多かったけど、最近は蒸し暑さに拍車が掛かってきている。6月も下旬になり、あと1週間ほどで7月になるからだろうか。季節の確かな進みを実感する。

 今日もこの時期らしく、朝から雨がシトシトと降り、空気はジメジメとしている。恋人のサクラと相合い傘をして登下校するからまだいいと思えるけど、そうじゃなかったら早く梅雨明けしてくれとお願いしていただろう。雨乞いならぬ晴れ乞いだろうか。


「ねえ、ダイちゃん。数Ⅱの問4が分からないんだけど、教えてもらってもいいかな?」

「あたしも教えてほしいな、速水君」

「俺、その問題の答えを出せたけど自信ないな。だから、解説聞いてもいいか?」

「ああ、いいぞ」


「一紗先輩。古典の問題で分からないところがありまして。訊いてもいいですか?」

「いいわよ! どの問題かしら?」


 放課後。

 俺は自宅でサクラ、一紗、杏奈、羽柴、小泉さんと一緒に勉強会をしている。来週の火曜日から1学期の期末試験が始まるからだ。

 俺達の通っている都立四鷹高校では、校則によって定期試験1日目の1週間前から試験終了まで、部活動が原則禁止になると定められている。つまり、今日から部活動ができなくなるのだ。これにより、学校全体で定期試験のムードになり始める。

 中間試験前も、この6人で勉強会を開くことが多かった。不安科目のある一紗、羽柴、小泉さんも勉強会のおかげか、中間試験では赤点を取らずに済んだ。なので、期末試験でも一緒に試験対策の勉強会をすることになったのだ。

 また、今日のように、平日の放課後の勉強会では、最初にその日に出た課題をみんなで片付けることが恒例だ。課題を終わらせられるし、授業の復習になるし、分からない箇所は誰かに訊けるし……とメリットが多い。

 ちなみに、座っている場所は俺から時計回りに羽柴、杏奈、一紗、小泉さん、サクラだ。サクラとは隣同士に座っている。


「だから、これが答えになるんだ」

「なるほどね。そういうことなんだ。理解できたよ。ありがとう、ダイちゃん」

「あたしも分かった。速水君は教え方上手だよね」

「上手いよな、小泉。合っててほっとしたけど、理解が深まったぜ」


「それで、こういう現代語訳になるのよ」

「なるほどです。一紗先輩、古典が得意なだけあって分かりやすいです。ありがとうございますっ」

「ふふっ。杏奈さんにそう言ってもらえて嬉しいわ。文系科目と英語科目ならどんどん訊いてね!」


 今日は不安に思っている人が多い数学Ⅱの課題が出たので、俺は教え役に回ることが多い。教えることは理解が深まることに繋がる。だから、俺の定期試験の点数は安定しているのかもしれない。

 また、後輩の杏奈に勉強を教えることもあるけど、今のように古典といった文系科目や英語科目は、かなり得意な一紗が教えることも。一紗は杏奈が大好きなので、杏奈が質問すると幸せな様子になることも。

 みんなで協力して課題に取り組んでいるので、充実した勉強会の時間になっている。


「……で、答えはこう導けるんだ」

「そういうことなのね。分かったわ、大輝君。これで、私も数Ⅱの課題が終わったわ」

「お疲れ様。2年生みんな数学Ⅱの課題は終わったか。杏奈は古典の課題って終わったか?」

「終わりました。今は物理基礎の課題をしています」

「そうか。みんな一科目は課題が終わったし、まだ一度も休憩していないから、ここで休憩するか」

「いいね、ダイちゃん。私は賛成」


 サクラがすぐに賛同の意を示してくれた。それもあってか、一紗や杏奈などここにいる全員が休憩することに賛成。勉強会は一度中断して、休憩の時間に突入した。

 休憩の時間になったので、俺は1階のリビングからクッキーとオレンジマシュマロを持ってくる。みんなにはアイスティーやアイスコーヒーを出しているのでちょうどいいだろう。

 クッキーとマシュマロを持ってくると、羽柴と小泉さんを中心にみんな美味しそうに食べてくれる。出した人間として、みんなを見ていると嬉しいし、心が温まる。そう思いながらオレンジマシュマロを一つ食べると、普段よりも美味しく感じられた。


「ねえ、文香」

「うん、なあに? 青葉ちゃん」

「期末試験が明けてすぐの日曜日に、金井(かない)市で七夕祭りがあるから、今年もあたしと一緒に行く? それとも、速水君と付き合い始めたから、速水君とデートで行く予定があったりする?」

「まだ全然決めていないよ。2週間近く先のことだし」


 サクラは落ち着いた笑顔で答える。


「金井市の七夕祭りか。前はサクラと一緒に行っていたな」

「そうだね。4年前まで行っていたね」


 小さい頃は速水家と桜井家の家族みんなで、小学校の高学年からはサクラや友達、和奏姉さんとだけで、隣の市の金井市で開催される七夕祭りに行っていた。屋台で色々なものを食べたり、短冊に願いごとを書いて笹に飾ったりしたっけ。

 ただ、中学2年の初日の出来事の影響で、サクラと一緒に行ったのは4年前の中学1年のときが最後。七夕祭り自体も、中学2年のときに当時のクラスメイトの男子の友達数人と行ったのが最後だ。


「金井市の七夕祭りですか。これまでに家族や友達と何度か行きました。去年も受験生でしたけど、気分転換に友達と行きましたね。大きな公園で開催されるので、規模が結構大きいですよね」

「私も友達や妹の二乃と一緒に行ったことがあるから覚えているわ。去年も文芸部の友達と一緒に行ったわ」

「俺は中学までに何度か行ったな。去年はバイトがあったし、一昨年は予備校に行っていたから……中2が最後かな」

「俺も中2が最後だよ。去年は羽柴と同じでバイトがあったし、一昨年は一日ずっと高校受験の模試があったから」

「みんなも行ったことがあるんだね」

「そうだな。杏奈の言うように、規模の大きなお祭りだからな」


 それに、金井市は隣の市だし、会場の最寄り駅まで四鷹駅から10分くらいで行けるからな。7月上旬という開催時期もあり、夏休み前に夏の気分を味わえるのもありそうだ。


「七夕祭りの話をしたから、この6人で祭りに行きたくなってきたわ! みんなとそういったイベントに行ったことがないし、私の浴衣姿を大輝君に見せたいわ!」


 一紗は興奮気味にそう言ってくる。


「それいいね、一紗! あたしもみんなで行きたい!」


 話のきっかけとなった小泉さんは一紗の意見に大賛成している。そんな小泉さんの目はキラキラと輝いていて。


「いいですね! あたしも行ってみたいです!」

「ひさしぶりに行ってみるのもいいか。期末終わってるし。それに、お祭りの屋台って甘いものが結構あるからな」

「私も行きたいな。この6人でお出かけしたことはあまりないし。それに、ダイちゃんと4年ぶりに一緒に行ってみたいし……」


 杏奈と羽柴、そしてサクラも七夕祭りに行くことは賛成か。

 また、サクラは俺絡みの理由もあるからか、頬をほんのりと赤くして俺を見ている。凄く可愛いな。2人きりだったらキスしていたくらいに可愛い。


「ダイちゃんはどう?」

「……俺も行きたいな。一昨年と去年は行っていないし。それに、サクラと付き合い始めたし、4年ぶりに一緒に行きたい。それに、期末が終わっているから、お祭りを思いっきり楽しめそうだ」

「そうだね!」

「速水君も賛成だね。じゃあ、みんなで一緒に七夕祭りに行こう!」


 小泉さんのその言葉に、俺達はみんな笑顔で頷いた。

 七夕祭りか。一紗の言うように、この6人で一緒にイベントに行ったことは全然ないからとても楽しみだな。あと、サクラは小さい頃からお祭りのときは浴衣を着る。サクラの浴衣姿がどんな雰囲気なのかも楽しみだ。

 それから少しして、勉強会を再開する。

 七夕祭りという試験明けの楽しみができたからだろうか。みんな、休憩前と比べて課題に集中したり、分からないところを積極的に訊いたりしていたのであった。

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