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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編5-再会と出会いと三者面談編-

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170/202

エピローグ『笑顔で帰っていった。』

 ダイちゃんと優子さんが学校に出発した後、私はキッチンの食卓でお母さんとアイスティーを飲みながらゆっくりした。その際、食事のときのように向かい合わせで座るのではなく、椅子をくっつけて隣同士に座って。

 今日の学校のこととか。ダイちゃんは三者面談大丈夫なのかとか。学生時代のお母さんや優子さんの三者面談はどんな感じだったのかとか。学校絡みの話題でお母さんと話が盛り上がった。それがとても楽しくて。だから、


「ただいま」

「ただいま~」


 ダイちゃんと優子さんが帰ってくるまであっという間に感じて。2人の声を聞いて、お母さんがもう少しで帰っちゃうんだと実感する。2人への「おかえり」の声もお母さんより小さかった気がする。

 ダイちゃんと優子さんがキッチンまでやってきた。2人は落ち着いた笑みを浮かべている。


「ダイちゃん、優子さん、おかえりなさい。三者面談はどうでしたか?」

「平和な面談だった。中間試験の結果が良かったからかな」

「勉強だけじゃなくて、進路や普段の生活についてもしっかり答えていたものね。担任の先生も去年から続いて流川先生だったし、穏やかな面談だったわ」

「さすがはダイちゃんだね。面談お疲れ様でした」


 ダイちゃんは勉強がかなりできるし、バイトもちゃんとしている。この4月からは杏奈ちゃんという後輩ができて、仕事のやり方をきちんと教えるほど。だから、平和で穏やかな面談になるのは納得だ。


「あと、俺の一つ前の順番が羽柴で。面談直前に彼と会って、美紀さんによろしくとのことでした」

「そうだったのね。大輝君と優子も面談お疲れ様。……じゃあ、あたしはそろそろ帰ろうかな。夕方の新幹線に乗る予定だから」

「じゃあ、忘れ物がないかどうかチェックしないとね」

「そうね。文香も手伝ってくれる?」

「うんっ」


 私は自分の部屋やリビング、2階の洗面所など、今回お母さんがよくいた場所を見て、忘れ物がないかどうかチェックする。見たところ……お母さんの私物が置かれてはいなかった。そのことに安心した。

 一通りチェックし終えて、私はお母さんの荷物が置かれている自分の部屋に向かう。


「お母さん。家の中を見たけど、特に忘れ物はなさそうだったよ」

「ありがとう。バッグの中を見たけど大丈夫だと思う」

「それなら良かった」

「……じゃあ、そろそろ帰りますか」

「……うん。私、四鷹駅まで送っていくよ。荷物、持つね」

「ありがとう」


 お母さんのバッグを持ち、私はお母さんと一緒に部屋を出て、玄関へ向かう。

 玄関に行くと、優子さんと制服から私服に着替えたダイちゃんがいた。


「サクラ。俺も四鷹駅まで美紀さんを送るよ。だから、駅までバッグは俺が持ってもいいか?」

「……うん、いいよ。ありがとう」


 そう言い、私はダイちゃんにお母さんのバッグを手渡す。

 ダイちゃんは優しい笑みを浮かべてバッグを受け取る。その瞬間、体がやけに軽くなったような気がした。


「じゃあ、あたしはこれで帰るわ。2日間、お世話になりました」

「いえいえ。楽しい2日間だったよ、美紀ちゃん」

「あたしも楽しかったわ。速水君によろしく伝えておいて」

「ええ。桜井君にもよろしく伝えてね。あと、体調には気をつけて」

「優子もね」


 そう言うと、お母さんは優子さんのことを抱きしめる。

 優子さんはいつもの優しい笑みを浮かべお母さんを抱きしめ、頭を撫でていた。そのことにお母さんは嬉しそうで。こういう光景を見ると、2人は中学生から30年以上の親友なんだって実感する。

 私もお母さん達のように、大人になっても友達と仲良くい続けて大切にしたいな。そう考えた際に思い浮かんだのは青葉ちゃん、一紗ちゃん、杏奈ちゃん、羽柴君、そしてダイちゃんだった。まあ、ダイちゃんとはいずれ夫婦になりたいけどね!

 お母さんと優子さんは抱擁を解くと、互いの顔を見つめ合って笑い合っていた。


「またね、優子。遅くても2学期の三者面談にまたお世話になるわ」

「うんっ。じゃあ、大輝君と文香ちゃん。美紀ちゃんを駅までよろしくね」

「分かったよ、母さん」

「いってきます」


 私はお母さんとダイちゃんと一緒に玄関を出る。

 外に出るとジメッとした蒸し暑い空気が体を包み込む。そして、相変わらずの梅雨空。今も雨が降っているから、


「ねえ、お母さん。相合い傘しない? 今回はこれで最後だし」


 と、お母さんに相合い傘を誘う。ダイちゃん相手だとワクワクするけど、お母さん相手だと何だか気恥ずかしい。

 お母さんはニッコリ笑いながら「ふふっ」と笑って、


「いいわよ。じゃあ、お母さんの傘で相合い傘しようか」

「うんっ」


 お母さんとダイちゃん、私は四鷹駅に向かって家を出発する。お母さんと私は相合い傘をして。ダイちゃんと相合い傘するときと同じく、お母さんの腕を組んで。


「文香、体や服は濡れてない?」

「大丈夫だよ。腕組んでお母さんとくっついているし。お母さんは大丈夫?」

「大丈夫よ。……もしかして、大輝君と相合い傘をするときはこうして腕を組んでいるの?」

「うん、そうだよ。ダイちゃんとくっつきたいし、雨に濡れたくないし」

「ふふっ、そうなの」

「サクラのおかげで、去年までと比べて梅雨の登下校が楽しくなりました」

「その気持ち分かるわ。てっちゃんと付き合い始めて、相合い傘するようになってから、あたしも梅雨の登下校が楽しくなったから」


 そのときのことを思い出しているのかな。お母さんはちょっとうっとりした様子で笑っている。今でも、買い物や食事に行くとき、お父さんと相合い傘をしていそう。


「それにしても、文香と相合い傘をしていると、小さい頃に文香と一緒に雨の中スーパーへ買い物に行ったときのことを思い出すわ。濡れないように、文香にはカッパを着させていたけど」

「何となく覚えてる」

「大輝君とも、小さい頃に相合い傘をしたわよね」

「そんなことありましたっけ?」

「あったわよぉ。家で遊んでいたら急に雨が降ってきて。あたしも優子に返したいものがあったから、大輝君の家まで送っていったのよ。シャツの裾を掴む大輝君、可愛かったわぁ」

「……そう言われると、あったような気がしてきました」


 そう言いながらダイちゃんは微笑んでいる。

 お母さんのシャツを掴む小さい頃のダイちゃんか。……想像したら何かキュンときちゃった。

 そういえば、私も小さい頃にダイちゃんの家で遊んでいたら、急に雨が降ってきて、優子さんと相合い傘をして前住んでいた家まで送ってもらったことがあったなぁ。

 3人で雨絡みの思い出話に花を咲かせたのもあり、四鷹駅まではすぐだった。南口から駅の中に入り、改札近くまで行く。


「ここまでで大丈夫よ。2人とも送ってくれてありがとう」

「いえいえ。むしろ、ここまで見送りたかったし」

「名古屋までは長い道のりですから、せめて四鷹駅までは楽でいられればと思いまして」

「ありがとう、2人とも。……文香。体には気をつけてね。大輝君と仲良く暮らすんだよ」

「……お母さんもね」


 私はそう言うと、お母さんのことをぎゅっと抱きしめて、顔を胸に顔を埋める。お母さんの温もりや柔らかさ、甘い匂いを感じると寂しい気持ちが少しずつ収まっていく。

 抱きしめていると、背中から温もりを感じるようになり、ポンポンと軽く叩かれているのが分かる。きっと、お母さんによるものだろう。

 胸から顔を離して見上げると、そこには私を優しく見つめるお母さんがいた。


「ありがとう、文香。また会おうね」

「……うんっ!」


 お母さんの言葉に少し大きめの声で返事して、しっかり頷く。

 お母さんはニッコリ笑って私の頭を優しく撫でてくれる。その姿は私が小さい頃から変わらない。

 このままお母さんを感じていたいけれど、今のままではお母さんは名古屋に帰れない。だから、お母さんへの抱擁を解いて、二、三歩後ろに下がった。


「大輝君。これからも文香のことをよろしくね」

「分かりました」


 ダイちゃんは落ち着いた笑みを浮かべて、お母さんにそう言う。そんなダイちゃんはとても大人っぽくて、頼もしく見える。

 ダイちゃんの返事に満足したのか、お母さんは口角を上げてダイちゃんに右手を差し出す。ダイちゃんはお母さんと握手を交わした。


「美紀さん。荷物です」

「ありがとう、大輝君。助かったわ」


 お母さんはダイちゃんからバッグを受け取る。


「またね、文香、大輝君。名古屋にいつでも遊びに来ていいからね」

「うんっ。そのときは連絡するよ。またね、お母さん」

「また会いましょう」

「うん、また会おうね!」


 お母さんはいつもの明るい笑顔になり、ゆっくりと改札に向かって歩き出す。改札を通ると、私達の方に振り返って大きく手を振ってきた。

 お母さんの姿見えなくなるまで、私とダイちゃんはその場で手を振り続けた。お母さんとまた会えるのはいつになるんだろうと思いながら。夏休みになったら、ダイちゃんと一緒にお母さんとお父さんの家に遊びに行くのもいいかもしれない。


「……じゃあ、帰るか」


 お母さんが見えなくなってすぐ、ダイちゃんはそう言ってくる。そんなダイちゃんの顔にはとても優しい笑みが浮かんでいた。


「そうだね、帰ろう」


 私達は帰路に就く。

 四鷹駅を出て、今度はダイちゃんの傘でダイちゃんと一緒に相合い傘をする。いつものように、ダイちゃんと腕を組んで。


「2ヶ月半くらい離れて暮らしているのにね。たった2日一緒にいただけで、お母さんが帰るのが寂しいよ。もう、高校2年生なのに」

「……寂しく思うのは全然悪いことじゃないって俺は思うよ。むしろ、美紀さんのことが好きで大切に想っている証拠じゃないか?」


 依然として優しい笑顔を見せながら、ダイちゃんはそう言ってくれた。ダイちゃんのその言葉は私の心に温かく響いていく。


「ありがとう」


 ダイちゃんにしか聞こえないくらいの声でお礼を言う。すると、ダイちゃんは柔らかな笑顔でしっかりと頷いてくれた。そんなダイちゃんと一緒にお母さんを見送りに来て良かったと思う。一人だったらどうなっていたことか。

 こうして一緒に帰っていると、お父さんとお母さんが名古屋に引っ越して、和奏ちゃんも一人暮らししている千葉に帰っていったあの日のことを思い出すなぁ。あの日はダイちゃんがバイトを終わるのを待って、バイト上がりのダイちゃんと一緒に帰ったんだよね。かなり寒かったことと、繋いだダイちゃんの手がとても温かかったことをよく覚えている。あの日もダイちゃんと一緒に帰って良かったって思ったな。

 ダイちゃんの恋人になれて、ダイちゃんと住めていることに幸せを感じる。ダイちゃんと一緒にいれば、お母さんとお父さんが側にいない寂しさと上手く付き合っていけそうだ。

 それからも、私はダイちゃんと寄り添い、ダイちゃんと同じ歩幅で、ダイちゃんと一緒に住んでいる家に向かって歩き続けた。




特別編5-再会と出会いと三者面談編- おわり

これにて、この特別編は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

感想やレビューなどお待ちしております。

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