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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編5-再会と出会いと三者面談編-

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169/202

第8話『三者面談-大輝編-』

 今日のサクラは朝からずっと上機嫌だ。昨日は美紀さんとひさしぶりに会えたり、今日も朝ご飯や昼ご飯に美紀さんの作る大好物の料理を食べられたりしたからだろう。いつもよりたくさん笑顔を見せ、その笑顔も可愛くて。そんなサクラの側にいるからだろうか。今日は時間の進みがとても早く感じる。

 午後3時10分。

 3時半からの三者面談を受けるため、俺は母さんと一緒に学校に向けて出発する。

 ちなみに、サクラは美紀さんと一緒にお留守番。俺達が面談から帰ってきたら、美紀さんは名古屋へと帰る予定だ。

 今もなお、雨がシトシトと降っている。最近はサクラと相合い傘をするのが当たり前になっているから、一人で傘を差していると結構広く感じるなぁ。


「梅雨の時期に、三者面談のために四鷹高校へ行くのはこれで5年連続かぁ」

「5年連続……ああ、和奏姉さんのときから数えてか」


 和奏姉さんは俺の3学年上だからな。


「そういうこと。梅雨の風物詩って言ってもいいんじゃない?」

「5年続いているから、そう言ってもいいかもな。ただ、これも来年で終わるぞ。俺が留年せずに卒業できたらの話だけど」

「ふふっ、そうね。来年で終わるように頑張らないとね」

「そうだな」


 さすがに、留年することなく高校を卒業したい。留年して杏奈と同級生になりました……なんてことになるのはさすがにまずい。

 家から徒歩数分の距離だし、母さんと話しながら歩いたのであっという間に四鷹高校に到着した。

 終礼が終わってから3時間近く経っているし、今も雨が降っている。だからか、生徒達の声は全然聞こえてこない。生徒の姿も、保護者と一緒に歩いている女子や体操着姿の男子くらいだ。

 俺は母さんと一緒に2年3組の教室がある第1教室棟に入る。うちの高校は校舎全体で空調が効いているので、昇降口に入るだけで快適だ。また、外にいるときは雨音が聞こえていたので、中に入るとさらに静かだ。


「こっちの校舎、懐かしいわぁ。去年の文化祭を除けば、最後に来たのは……和奏が3年生のときの三者面談のとき以来かしら。2学期にもあったから……1年半くらいかな」

「そうか。うちの教室は4階にあるけど、エレベーターで行く? それとも階段にする?」

「階段で大丈夫よ。ここは涼しいから元気出てきたし」

「ははっ、そうか。じゃあ、階段で行こう」


 俺は母さんと一緒に2年3組のある4階まで階段で行く。階段のある空間も涼しいから、4階に上がるのも楽だな。外と同じ蒸し暑さだったら辛かったかも。

 4階に到着し、俺達は2年3組の教室の前へ。

 教室前方の扉の近くには、次の番の人が待つための椅子が2つ置かれている。俺の一つ前……羽柴の番になっているのか、椅子は空席だ。スマホで時刻を確認すると、今は午後2時16分か。もう羽柴の面談が始まっているだろうな。そう思いながら、俺は母さんと一緒に椅子に座った。


「あぁ、歩いて階段も上がったから、体が楽だわ」

「そうだな。この廊下も涼しいし」

「うん。……昨日、文香ちゃんの面談で聞かれたのは学校生活と進路と家での生活についてだったわね」

「そうだったな。きっと、最後のはサクラだからだろうけど、受け入れている側の俺達も訊かれそうだ」

「そうね。学校生活は……大丈夫そうね。全教科80点以上だったし」

「ああ。進路も……いくつか興味のある学部がある。それを先生に伝えるつもりだ」

「うん、分かった。平和な時間になりそうね」

「ああ」


 担任は去年に続いて流川先生だ。先生は穏やかで優しい人だから、平和な面談の時間になるだろう。

 それからは、母さんとサクラや美紀さんのことを中心に雑談する。中に聞こえないように小さな声で。そんな中、

 ――ガラガラッ。

 扉が開く音が聞こえた。そちらを見ると、羽柴とスーツ姿の羽柴のお父さんが教室から出てきた。2人は教室の中に向かって軽く頭を下げると、扉をそっと閉めた。


「おっ、速水。優子さんもこんにちは」

「こんにちは。いつも息子がお世話になっております」

「こちらこそ羽柴君には息子がお世話になっています」

「こんにちは。面談お疲れ様です。羽柴、どうだった?」

「数Bと化学基礎をもっと頑張れって言われたくらいで、他は大丈夫だった」

「1年のときから、速水君には勉強で助けてもらっていると聞いているよ。速水君、ありがとう」

「いえいえ。自分もいい勉強になっています」


 これまでの定期試験でいい点数を取れたのは自分一人の力ではなくて、サクラや羽柴達と一緒に勉強したからだと思っている。


「じゃあ、私達はこれで」

「速水、面接頑張れよ。あと、桜井のお母さんにもよろしく伝えておいて」

「ああ。分かった。また明日な」


 羽柴は俺に軽く手を振り、お父さんと一緒に軽く頭を下げて俺達の元から立ち去っていった。一部教科について注意されたそうだけど、とりあえず面談が終わって良かった。この後、家に帰ってお父さんとアニメを観るのかな。お父さんもアニメ好きだそうだから。

 ――ガラガラッ。

 再び、教室の扉の開く音が。

 教室から流川先生が姿を現す。先生は俺達の方を見ると、微笑みながら軽く頭を下げた。


「速水君とお母様、来ていますね。中にどうぞ」


 俺と母さんは教室の中に入る。

 教卓近くの4つの机が向かい合わせの形でくっつけられている。1年の頃も三者面談のときはこんな感じの教室だったな。流川先生の指示で、俺と母さんは窓側に向かって隣同士に座る。

 流川先生は俺の正面の座席に座った。


「本日はお時間を作っていただきありがとうございます。今年も速水君の担任を務めます流川愛実です。よろしくお願いします」

「大輝の母の優子です。今年も息子をよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。では、三者面談を始めましょう。まずは中間試験の結果からですね」


 流川先生は机に置かれているクリアファイルから1枚のプリントを取り出し、俺達の前に置いた。そのプリントを見ると、中間試験が実施された各教科の俺の得点と平均点、あとはクラス順位と学年順位も記載されている。俺……クラス2位で学年6位なのか。


「見ての通り、速水君は全教科で80点以上。現代文や日本史、英語科目では満点近い点数を取れています。素晴らしいです」

「息子から事前に点数は聞いていましたが、こうして一覧で見ると本当によく頑張っているなって思いますね」

「そうですね。それに、羽柴君や文香ちゃん達から『速水君に勉強を教えてもらった』『速水君のおかげで何とかなった』と聞いています。人に分かりやすく教えられるほど勉強を理解しているのは素晴らしいです。これからも、この調子で勉強を頑張ってください」

「はい、分かりました」


 まずは期末試験も中間と同程度の点数は取れるように頑張ろう。そんな中で、時にはサクラ達の助けになれればいいと思う。


「速水君は部活には入っていなくて……マスバーガーのバイトね。先生もたまに行くけど、速水君はよく頑張っているよね。最近はどう?」

「楽しく仕事をしています。あと、4月からは1年の小鳥遊杏奈さんの指導係になって」

「小鳥遊さんって、あの小柄な金髪の女の子よね」

「はい。仕事を教えるのは杏奈が初めてですので、仕事の教え方や後輩への接し方とかを学ぶ機会になってます。最初は先輩として立ち振る舞えるか不安もありましたけど、杏奈や先輩方のおかげで何とかなりました」

「それなら良かったわ。あと、先輩としての不安分かる。学生時代のバイトのも、この仕事も初めて後輩ができたときは不安だったなぁ。特にこの仕事の方」

「そうだったんですね」


 流川先生は落ち着いた雰囲気の先生だから、そういう不安は抱かないイメージはあった。何だか意外だ。


「バイトの方も順調で良かった。ただ、バイトに集中して勉強が疎かになる子も何人も見てきたから、速水君も気をつけてね」

「分かりました」


 バイトを始めた頃は、疲れもあって勉強を疎かにしがちだったなぁ。あとは、Blu-ray BOXとか高価なものを買うためのお金を稼ぐために、シフトを多めに入れたときも。勉強とバイトのバランスは考えていかないと。


「次は進路についてですね。今のところ、速水君は進路についてどう考えてる?」

「今のところは大学進学を考えてます。1年の頃から変わらず、日本文学や日本史を大学で学びたい気持ちがあります。あと、春休み中に遭遇したサクラのバッグの窃盗未遂と一紗への暴行事件をきっかけに、法律にも興味を持つようになりました」

「速水君が犯人をその場で捕まえて、警察の事情聴取を受けたものね。より多くの分野に興味を持つことはいいことです。来月から夏休みが始まりますし、夏休み中にオープンキャンパスに行ってみるといいでしょう。特別講義や、教授・在学生の話を聞くのはいい刺激になると思いますよ」

「分かりました」


 もし、サクラ達と志望分野や興味のある分野が同じなら、サクラ達と一緒にオープンキャンパスに行ってみたいな。


「進路については以上です。あと、これは文香ちゃんにも訊いたことだけど、春休みから彼女と一緒に住んでいて……どう?」

「とても楽しいです。サクラのいる生活にも慣れてきました。あと、以前からサクラが好きなので、引っ越してきたときから幸せを感じていて。サクラと付き合い始めてからはその想いがより強くなってます」

「そうなのね」


 ふふっ、と流川先生は笑顔で可愛らしく笑っている。


「文香ちゃんが言った言葉とあまりに似ていたから、思わず声に出して笑っちゃった」

「そうでしたか」


 サクラも俺と同じようなことを流川先生に話していたのか。この生活で感じていることの想いが重なっているのがとても嬉しい。頬が緩んでいく。


「私から見ても、文香ちゃんは家での生活をとても楽しんでいるように見えます。大輝と付き合うようになってからは本当に幸せそうで。あと、文香ちゃんの試験の結果も聞きましたが、彼女もまずまずの点数を取れています。文香ちゃんの御両親と話して、引き続きうちで住んで大丈夫だということになっています」

「そうですか。学校でも文香ちゃんは楽しそうにしていますし、私も大丈夫だと思っております」

「はい。これからも、近くにいる大人の一人として、文香ちゃんの面倒を見ていきます」

「分かりました。速水君も一緒に住む恋人として文香ちゃんをよろしくね」

「はい」


 サクラが家に住むようになってから2ヶ月半。この間に、サクラとはわだかまりがなくなり、恋人として付き合うという大きな変化があった。

 これからも、サクラと恋人という関係は変わることなく、もっと仲を深めていきたいと持っている。もちろん、サクラに幸せだと思ってもらいながら。


「では、私から話したいことは以上です。速水君とお母様から何か質問や話したいことはありますか?」

「俺は特にありません。母さんは?」

「私も……特にないですね」

「分かりました。では、少し早いですが、これで三者面談を終わります。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました。これからも大輝と文香ちゃんのことをよろしくお願いします」


 母さんはそう言って流川先生に向かって、深めに頭を下げる。そんな母さんに倣って俺も頭をしっかり下げた。

 母さんと俺は教室を後にする。扉の近くの椅子には、次の番である福山さんと、お母さんと思われる女性が座っていた。2人に軽く頭を下げて、うちの教室がある4階を後にする。


「平和に終わったね、大輝」

「そうだな。特に問題なく」

「ええ。勉強もバイトも文香ちゃんとの恋愛も頑張ってね」


 いつもの穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、母さんは俺の背中をポンポンと軽く叩いた。

 俺は母さんの目を見て、しっかりと頷く。3つ全てが大切だし、どれもちゃんとできているからこそ、サクラが俺の家に住めているのだと思う。これからも頑張るべきことを頑張っていこう。

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[一言] 更新ありがとうございます 次回で終わってしまうのですね 残念です オープンキャンパス編、夏休み編を お待ちしています 作者様に感謝
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