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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編5-再会と出会いと三者面談編-

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164/202

第3話『三者面談-文香編-』

 午後2時10分。

 三者面談の開始時間である午後2時半が近づいてきたので、私はお母さんと一緒に四鷹高校に向けて家を出発する。今も雨が降っていて、下校したときと同じくらいに蒸し暑い。

 ダイちゃんの家に住み始めてから2ヶ月以上経ち、ここから登校することにもすっかりと慣れた。でも、お母さんと一緒なのは初めてだから不思議な感じがする。


「何だか不思議な感じね。大輝君の家から、文香と一緒に学校へ行くなんて」

「私も同じことを考えてた」

「ふふっ。……これが、文香が高2になってからの通学の景色なのね。見慣れた景色だけど、何だか新鮮」

「新年度になったときは私もそう思ったなぁ」


 ダイちゃんの家からダイちゃんと一緒に登校したからかな。

 今は新鮮に感じることはあまりない。それでも、晴れている日は特に周りの景色が輝いて見える。それはダイちゃんの家で暮らし始めてから感じられるようになったことだ。


「今日みたいに、雨の日だと相合い傘ってするの?」

「するよ。今日も登下校のときはダイちゃんの傘で相合い傘したんだ」

「ふふっ、そうなのね。ラブラブねっ。お母さんもよく、雨が降るとお父さんと一緒に相合い傘して大学に通ったっけ」


 明るく笑いながらそう言うお母さん。

 ダイちゃんと相合い傘をするときは私が傘を忘れてしまったり、私から相合い傘しないかと誘ったりと私きっかけが多い。この性格はお母さん譲りなのかも。


「今日から関東も梅雨入りしたけど、ダイちゃんの相合い傘のおかげで去年までよりも好きになれそうだよ」

「良かったわね。そういえば、梅雨の時期、文香はあまり元気がないことが多かったもんね」

「うん」


 雨が降っていると髪がまとまりにくいし。この時期の暑さは、湿気が多いせいで肌にまとわりついて。それが嫌だった。

 ただ、雨が降ってダイちゃんと同じ傘に入ることで、2人きりの空間にいられるような気がして。腕を絡ませるとダイちゃんの優しい温もりが感じられて。今日も蒸し暑かったけど、ダイちゃんの温もりを感じるのは癒やしで。ダイちゃんからいい匂いもするし。だから、そんな時間を味わうことが自然と多くなる梅雨が去年までよりも好きになれそう。

 お母さんと話しながら歩いていたので、あっという間に四鷹高校に到着した。

 終礼が終わってから2時間近く経っていて、今も雨が降っている。だから、校門をくぐっても結構静かで。周りを見渡すと、生徒と保護者のペアが2組と、部活を一旦抜けて三者面談に向かうのか猛ダッシュで走っている体操着姿の男子生徒くらい。普段とは違う学校の時間が流れているんだなって実感する。

 お母さんと一緒に、2年3組の教室がある第1教室棟の校舎に。

 校舎に入った瞬間、涼しくて快適な空気に包まれる。そのことに、お母さんは柔らかな笑みを浮かべ「あぁ、涼しい~」と言葉を漏らす。そんなお母さんが可愛かった。

 階段を使って2年3組の教室のある4階へ。

 三者面談なのもあり、普段と違ってとても静かだ。各教室の扉の近くには順番待ちの人のための椅子が置かれ、そこに座っている生徒と保護者もいる。うちのクラスは――。


「いないね」

「そうね。じゃあ、あたし達が座っても大丈夫かしら?」

「私の前の青葉ちゃんは2時15分開始なの。今は……午後2時18分。だから、座っても大丈夫だよ」

「そう。それなら座ろっか」


 私とお母さんは、扉の近くに置かれている椅子に腰を下ろす。

 三者面談の順番を待つこの時間は緊張することが多い。ただ、今回は担任の先生が去年に続いて愛実先生であること。中間試験は理系科目を含めてどれも平均点以上取れていること。そのため、今はあまり緊張していない。


「文香。今までよりも落ち着いているわね」

「担任が今年も愛実先生だからね。それに、中間の成績もまあまあだったし」

「理系科目も平均点は取れていたもんね。あと、流川先生は優しくて可愛らしい先生だものね。今年も流川先生が担任だって知ったときは安心したなぁ」


 落ち着いた笑みを浮かべながらそう言うお母さん。私も愛実先生が担任だって分かったときは安心感があったなぁ。お母さんの目を見ながら小さく頷いた。

 ――ガラガラッ。

 教室の扉が開く音が聞こえた。そちらの方に振り向くと、練習着姿の青葉ちゃんと、スラックスに半袖のブラウス姿の青葉ちゃんのお母さん・仁実(ひとみ)さんが教室から出てくるところだった。2人は教室の中に向かって軽く頭を下げ、扉をゆっくり閉める。


「三者面談お疲れ様、青葉ちゃん。どうだった?」

「中間で危ない教科があったからね。そこは注意されたかな。それ以外は平和だったよ」

「そうだったんだ」


 青葉ちゃん、理系科目はかなり苦手だからなぁ。中間試験は勉強会をしたのもあり、赤点を何とか回避できていた。

 青葉ちゃんが面談の内容を赤裸々に話したからか、仁実さんは青葉ちゃんの隣で苦笑い。


「美紀さんおひさしぶりです!」

「ひさしぶり、青葉ちゃん。元気そうで何よりだわ。仁実さんもおひさしぶりです」

「おひさしぶりです、美紀さん。今のお住まいは名古屋なんですよね。長距離の移動でお疲れでは?」

「2時間半ほどかかりましたが、疲れはあまりないですね。東京駅までは新幹線でしたし、通勤や通学ラッシュを過ぎていたので四鷹駅までも快適に来られました」

「それは良かったです」

「……それじゃ、あたしは部活に戻りますね」

「頑張ってね、青葉ちゃん」

「うんっ。文香も面談頑張ってね。美紀さんともここで会えて良かったです。失礼します」


 青葉ちゃんは持ち前の明るい笑顔でそう言うと、私達に軽く頭を下げて小走りで立ち去っていった。今日は雨が降っているけど、テニス部の練習を頑張ってほしい。

 青葉ちゃんは部活があるけど、仁実さんはこの後フリーなので、ダイちゃんの家に来る予定になっている。仁実さんには昇降口で待ってもらうことにした。

 ――ガラガラッ。

 再び扉の開く音が聞こえ、中から愛実先生が姿を現した。


「文香ちゃん、来ているわね。お母様も。中へどうぞ」


 穏やかに笑いながら、愛実先生はそう言った。

 私とお母さんは愛実先生についていく形で教室の中に入る。

 教卓に近い4つの机が向かい合わせの形でくっつけられていた。流川先生の指示で、私とお母さんは隣同士に座る。ちなみに、愛実先生は私の正面の席に座った。


「本日はお時間いただきありがとうございます。今年も担任となりました流川愛実です。よろしくお願いします。お足元の悪い中、名古屋からお越しいただきありがとうございます」

「いえいえ、大切な面談ですから。本日はよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします。では、さっそく三者面談を始めましょう。まずは勉強を中心に学校生活について話しましょう」


 そう言うと、愛実先生は机に置かれているクリアファイルから1枚のプリントを取り出し、私達の前に置いた。プリントを見ると……中間試験の各教科の得点と平均点が記載されている。あとはクラス順位と学年順位も。


「これは中間試験の結果と平均点です。文香ちゃんは国語科目と英語科目、日本史中心にいい点数ですね。数学Bや化学基礎も平均点は取れていますね」

「頑張っているわね、文香」

「ありがとう」


 お母さんと愛実先生に褒められて嬉しい。


「中間はある程度の点数を取れているけど……ついていけてない教科はある?」

「今のところは大丈夫です。分からない箇所については、ダイちゃんや友達に教えてもらっていますし」

「速水君はかなり成績がいいものね。分からないことについて、誰かに質問して理解できているなら良かったわ。では、勉強は引き続きこの調子で頑張ってください。理系科目を伸ばせるともっといいね」

「はいっ、分かりました。頑張ります」


 期末試験では、数学Bと化学基礎を勉強する時間を増やした方がいいかな。中間より少しでも点数を伸ばすためにも。今度、ダイちゃんにコツを訊いてみようかな。


「部活……手芸部の方はどう?」

「コンクールに向けた作品作りを始めました。楽しく作っています。たまに、部員との雑談が盛り上がって、そっちがメインになっちゃうこともありますが」

「ふふっ。そういうことあるわよね。作品作り頑張ってね」

「はいっ」

「部活の方も順調って分かったから、学校生活についてはこれで終わりにしましょう。次は進路ですね。今の時点ではどう?」

「大学進学を考えています。日本文学や先生の授業が面白いので日本史も学んでみたい気持ちがあります。あとは、部活で作品のデザインを考えるのも楽しいので、デザイン関連を学べる学部にも興味があって。すみません、色々言ってしまって」

「ううん。むしろ、学びたいことや興味があることが複数あるのはいいことよ」

「お母さんもそう思う」


 思ったことをそのまま言ってしまったけど、お母さんと愛実先生からそれでいいと言ってもらえてほっとする。


「文学、歴史、デザインと具体的に候補が出ているから、大学のオープンキャンパスに行ってみるといいわ。講義を受けたり、教授や学生の話を聞いたりするのはいい参考になると思うわ。夏休み中に開催される大学が多いよ」

「分かりました。夏休み中にいくつか行ってみようと思います」


 それを通して、進路を具体的に決めていければいいな。

 もし、ダイちゃんや青葉ちゃん達が、同じ大学や学部に興味があったら、一緒にオープンキャンパスに行きたいな。


「進路についてもこれでOKね。あと、文香ちゃんとは……今の生活についても話したいかな。御両親は名古屋に住んでいて、文香ちゃんはこの四鷹で幼馴染の速水君の家に住んでいる。この生活はどう? 慣れてきた?」

「慣れてきました。最初は両親がいないのを寂しく思いましたけど、定期的に連絡を取っていますし。それに、大好きなダイちゃんと一緒に住めることが幸せで。付き合ってからは特に。毎日がとても楽しいです」

「それは何よりだわ。学校では速水君と楽しそうにしているものね」

「電話やメッセージで文香とは定期的に連絡を取っています。文香が速水君の家で楽しく過ごせているんだって分かります。ちゃんと学校生活を送っているようですし、引き続き速水君の家でお世話になろうと思っています」

「そうですか。速水君はしっかりしていますもんね。あと、確かお母様は彼の御両親と学生時代からのご友人なんですよね」

「ええ。主人共々。ですから、文香と離れていても安心できます」


 お母さんは落ち着いた笑みを浮かべながらそう言った。

 きっと、優子さんや徹さんはもちろんのことダイちゃんも、そして私のことも信頼してくれているから、お母さんは離れていても安心できると愛実先生に言えるのだろう。これからも、お母さんとお父さんに私が四鷹にいても大丈夫だと思えるように、勉強や部活、ダイちゃんとの交際を頑張っていこう。


「そうですか。分かりました。私も引き続き、担任教師として文香ちゃんのことを見守っていきます」

「ありがとうございます。これからも娘のことをよろしくお願いします」

「はい。では、私から話したいことは以上です。文香ちゃんやお母様が何か話したいことはありますか? まだ少し時間がありますので遠慮なく」

「私は特にありません。お母さんは?」

「お母さんも特にないわ」

「分かりました。では、これで三者面談を終わります。本日はありがとうございました」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました。失礼します」


 私とお母さんは愛実先生に頭を下げて、教室を後にする。

 無事に三者面談が終わったよ。きっと平和な面談になると思っていたけど、実際に終わると安心感がある。

 教室を出ると、次の順番の清水君と父親と思われる男性が椅子に座っていた。私達は「こんにちは」と言って軽く頭を下げ合い、仁実さんが待つ昇降口に向かい始める。


「三者面談無事に終わって良かった」

「そうね。直接会うのが2ヶ月半ぶりだから、流川先生に話す文香がとても大人に見えたわ」

「そうかな?」

「うん。先生からの質問にしっかりと答えていたから。あと、文香や優子とは定期的に連絡しているけど、文香を速水家に住まわせてもらって良かったって改めて思ったわ」


 笑顔でそう言うと、お母さんは私の頭を優しく撫でてくれる。そのことで伝わってくるお母さんの温もりはとても優しかった。

 スマホの電源を入れると、ダイちゃんからLIMEでメッセージが届いていた。一紗ちゃんと母親の純子さん、杏奈ちゃんと母親の香苗さんが家に到着したらしい。


『面談終わったよ。仁実さんも一緒に3人で帰るね』


 と、ダイちゃんにメッセージを送った。一紗ちゃんと杏奈ちゃん達に会えるのが楽しみだなぁ。杏奈ちゃんのお母さんとは初めて会うし。

 昇降口で仁実さんと落ち合い、私達は3人でダイちゃんの家に帰るのであった。

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