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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
特別編5-再会と出会いと三者面談編-

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163/202

第2話『再会』

 今の俺の席は窓側最後尾のため、たまに雨空を眺めながら授業を受けていく。

 授業の合間の休み時間にスマホを見ると、ニュースアプリの通知で関東地方の梅雨入りが発表されたことを知った。予想通りになったか。

 また、本日最後の4時間目の授業中に、母さんから、


『無事に美紀ちゃんが到着したよ』


 とメッセージが来た。美紀さん、無事に家に着いたか。そのことにほっとした。今頃、母さんと美紀さんはひさしぶりに再会して、楽しくお喋りでもしているのだろうか。

 サクラにも、母さんや美紀さんから同様のメッセージが送られたのだろうか。ふふっ、とサクラの可愛い笑い声が聞こえてきたのであった。



 午後12時半。

 終礼が終わり、俺はサクラ、一紗、羽柴、小泉さんと一緒に教室を後にする。

 部活のある小泉さんとは昇降口。一紗と羽柴とは正門を出たところで別れた。この中で一紗だけは美紀さんと会うため、午後に俺の家に来ることになっている。


「さあ、家に帰ろうか、ダイちゃん」

「そうだな」


 サクラと俺は帰路に就く。

 朝と変わらず雨がシトシトと降っており、空気もジメッとしていて。ただ、お昼という時間帯だからなのか。それとも梅雨入りが発表されたからなのか。朝よりも蒸し暑く感じる。それでも、サクラと俺は相合い傘をして腕を絡ませる。


「お母さん、無事に家に着いて良かったよ」

「そうだな。名古屋からだもんなぁ」


 昨日、名古屋から四鷹までどのくらい時間がかかるのかスマホで調べたら、新幹線を使っても2時間半くらいかかると分かった。遠い場所から美紀さんが無事に来られたので俺も安心している。


「あと少しでお母さんに会えると思うと、楽しみなのと同時にちょっと緊張してきた。今朝、ダイちゃんに安心してって言ったのにね」


 恥ずかしいな、とサクラははにかむ。


「母親と2ヶ月半ぶりに会うなんてこと、初めてだもんな」

「……うん」

「だから、緊張しちゃうのもおかしくないって。ただ、美紀さんもきっとサクラともうすぐ会えることを楽しみにしていると思うよ」


 俺はそう言って、右手でサクラの頭を優しく撫でる。そのことで、サクラの髪からシャンプーの甘い匂いがほのかに香った。

 サクラは視線を俺に向けると、やんわりと微笑んで小さく頷いた。家に帰って美紀さんと再会したら、その微笑みがとても素敵な笑顔に変わると信じている。

 それからも、俺達は自宅に向かって歩いていく。家に到着するまでサクラは微笑みを絶やさなかった。


「じゃあ、家に入るぞ」

「うんっ」


 俺は玄関の扉を開けて、サクラと一緒に自宅の中に入る。その際、俺達は普段よりも大きな声で「ただいま」と言った。

 土間を見てみると、初めて見る女性ものの黒いパンプスがある。おそらく、これは美紀さんのものだろう。


「文香ちゃんと大輝が帰ってきたみたいだね」

「そうね!」


 リビングの方から母さんと美紀さんの声が聞こえてきた。まだ、姿は見えていないけど、美紀さんが来たんだとさっそく実感する。

 声が聞こえた直後、リビングから母さんとミディスカートに半袖のブラウス姿の美紀さんが姿を現した。母さんはいつもの優しい笑顔で、美紀さんは明るい笑顔で俺達のことを出迎えてくれる。そして、美紀さんはニッコリと笑って、小さく手を振ってくる。


「こうして実際に会うのはひさしぶりね、文香。大輝君」

「おひさしぶりです、美紀さん」

「……ひさしぶり! お母さんっ!」


 満面の笑みでサクラはそう言うと、ローファーを脱いで美紀さんのところに駆け寄り勢いよく抱きついた。サクラに抱きつかれた美紀さんは「ふふっ」と笑いながら、左手をサクラの背中に回し、右手でサクラの頭を撫でる。

 こうして、2ヶ月半ぶりにサクラと美紀さんは再会を果たした。2人が抱きしめ合っている光景を見ると、微笑ましいと同時に感動の気持ちも。


「あぁ、お母さんの匂いだ。懐かしい。それに温かくて気持ちいい……」

「ふふっ。お母さんも文香の匂いを懐かしく思うわ。文香の笑顔を直接見られて、抱きしめることができて嬉しいわ」

「……私も嬉しいよ。名古屋から来てくれてありがとう」

「いえいえ。大切な娘の三者面談のためだもの」


 美紀さんはそう言うと、それまで頭を撫でていた右手も背中の方に回して、背中をポンポンと優しく叩く。本当に心が温まる光景だ。気付けば、頬が緩んでいるのが分かった。

 サクラは美紀さんの胸元に顔をスリスリしている。この様子からして、ひさしぶりに美紀さんと会うことの緊張はなくなったかな。


「たまに連絡はしているけど……どう? この家での生活は」

「毎日とても楽しいよ。ダイちゃんと優子さん、徹さんがいるから安心できるし。それに、ダイちゃんとは仲直りできて、恋人になれたし」

「それは良かったわ」

「お母さんはどう?」

「文香が生まれてから、文香のいない生活は初めてだからね。最初は寂しかった。でも、以前住んでいた名古屋だし、てっちゃんと2人だから新婚な感じで楽しんでいるわ」

「そっか。良かったっ」


 美紀さんも名古屋での生活を楽しんでいるようで良かった。まあ、美紀さんは哲也おじさんのことが大好きだし、文香や母さんから2人のラブラブなエピソードは何度も聞いたことがある。


「大輝君はどう? 文香と一緒に住み始めて」


 美紀さんは明るい笑顔を浮かべながら俺に問いかけてくる。俺に話が振られるとは思わなかったので、ちょっとビックリしてしまう。サクラと母さんも俺に視線を向けてくるので、少し緊張する。


「毎日楽しくて幸せですよ。小さい頃から好きなサクラと一緒に暮らせているんですから。わだかまりがなくなって、恋人になれましたし。あまりにも幸せで、今でも夢じゃないかと思うほどです」


 文香本人と母さんがいる場だけど、正直な想いを美紀さんにちゃんと伝える。こうして、言葉にすると何だか照れくさいな。

 ただ、俺がちゃんと話したのが良かったのか、サクラはうっとりした様子で「ダイちゃん……」と呟く。


「文香ちゃんが一緒に住むようになってから、大輝はそれまで以上にいい顔を見せることが多くなったものね」

「そうなんだ。文香と仲直りして、恋人になったことも含めて良かったわ。あと、大輝君。改めて文香のことをよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 俺は美紀さんに向かって深めに頭を下げた。

 こうして挨拶することで、これからもサクラと仲良く付き合っていき、ちゃんと一緒に暮らしていこうと気持ちが引き締まるな。サクラの両親はもちろんのこと、俺の両親にも一緒に暮らして大丈夫だと思ってもらい続けるようにしないと。


「ところで、2人とも。恋人としての仲はどう? 同棲しているんだし、結構進んでいるんじゃない? 四鷹に来たし、せっかくだから大輝君から聞いてみたいな。文香とは普段からたまに連絡取り合ってるし」

「俺ですか?」


 美紀さんはサクラへの抱擁を解くと、ニッコリとしながら俺の目の前までやってくる。


「どこまで進んだかな?」


 上目遣いで俺を見つめながら、俺にそう問いかけてくる美紀さん。サクラを産んだ人だけあって凄く可愛いな。あと、さっきまでサクラを抱きしめていたから凄くいい匂いもして。ちょっとドキッとしてしまう。

 サクラとどこまで進んだ……か。サクラ本人と母さんのいる前で何てことを訊くんだか。サクラとは肌を重ねる仲……と直接言ってしまってはまずい気がする。ただ、文香から進展具合を既に聞いている可能性もあり得るので、変に嘘をつくのもまずいかも。

 サクラをチラッと見ると……顔がかなり赤くなっている。今のサクラを見たら美紀さんはすぐに察しそう。


「一緒に住んでいますからね。サクラとは……恋人らしいことを色々していますよ。かなり進んでいますね。ですから、付き合い始めたときよりも、サクラを好きな気持ちがより強くなっています」


 美紀さんの目を見ながら、俺はそう言った。直接的な表現は避けつつ、サクラとは結構進んだ関係になっていると正直に伝えた。これが一番いいのかは分からないが。

 再びサクラをチラッと見ると、依然として顔は赤いままだけど、嬉しそうな笑みが浮かんでいる。


「……そっか」


 俺の言葉に納得したのだろうか。美紀さんは持ち前の明るい笑顔を見せ、小さく頷いた。


「付き合い始めてから1ヶ月半経っているし、一緒に住んでいるもんね。分かったよ。文香をより好きになっているって知れて嬉しいわ。これからも文香をよろしくね」

「はい」

「文香ちゃんと大輝のことは、徹君と私が近くで見守っているから安心して」

「よろしくね、優子」

「うん。……さあ、2人が帰ってきたからお昼ご飯にしましょう。冷やし中華よ。あとは麺を茹でるだけだから、大輝はすぐに着替えてらっしゃい」

「ああ」


 俺は母さんの言う通り、自室に行って制服から私服に着替える。

 着替え終わってから数分ほどで、俺はサクラと母さん、美紀さんと4人で冷やし中華を食べることに。今日は蒸し暑かったので、麺や具材の冷たさと酢醤油のさっぱりさがとてもいい。

 美紀さんが名古屋に引っ越してからの2ヶ月半について話しながら、俺達は昼食の時間を楽しんだ。

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