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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
続編-ゴールデンウィーク編-

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130/202

第29話『ありのまま』

 夕食は予定通り鶏塩鍋。母さんと俺で作った。

 鍋だから一人増えても変わらないという理由で羽柴を誘い、彼も一緒に食べることに。

 泊まりに来た一紗と杏奈のことや、午後に見たアルバムやホームビデオを主な話題にして、和やかで楽しく夕食の時間が進む。小さい頃の俺が可愛かったと一紗と杏奈が何度も言うので、俺は恥ずかしいけど。

 速水家の人間とサクラはもちろんのこと、一紗と杏奈、羽柴も美味しそうに食べてくれる。作った人間として、これ以上に嬉しいことはない。

 また、一紗は持ち前の大食いを発揮して、俺よりも食べている。小泉さんと競わせたいと思うほどにモリモリと食べてくれる。

 そんな小泉さんから、夕食中にLIMEのグループトークにメッセージが届いた。向こうの夕食はポークカレーとのこと。たくさん練習してお腹が空いたから、小泉さんは5杯食べたらしい。小泉さんの胃は四次元なんじゃないか?

 一紗を筆頭に、サクラも和奏姉さんも杏奈もたくさん食べてくれたので、用意していた鍋の具はもちろんのこと、締めのラーメンも完食してくれた。


『ごちそうさまでした!』


 食卓にいる8人全員でそう言って、夕食が終了した。


「大輝君! お母様! とても美味しい夕食でした!」

「本当に美味しかったですよね、一紗先輩。美味しい夕食を作っていただきありがとうございました」

「俺まで美味しい夕食をありがとうございました」


 一紗、杏奈、羽柴はお礼の言葉を言う。杏奈は俺と母さんに向かって頭を下げる。杏奈に倣ってか一紗と羽柴も。


「いえいえ。みんなが美味しく食べてくれて俺は嬉しいよ」

「お母さんも。2人ともたくさん食べてくれて嬉しかったわ」

「一紗ちゃんは凄かったですよね。和奏ちゃんもなかなかでしたが」

「大輝も作った夕ご飯だからね。昨日の青葉ちゃんに負けないくらいの食べっぷりだったよ。競わせたらいい勝負になるかも」


 和奏姉さんは俺と似たようなことを考えるんだな。さすがは俺の姉。


「じゃあ、俺はそろそろ帰ります」

「分かった」


 羽柴がそう言うので、俺は彼を玄関まで見送ることに。


「いやぁ、楽しい午後の時間だった。和奏さんからは漫画やラノベとかの特典をたくさんもらえたし」

「もらったときは本当に嬉しそうだったよな。俺も楽しかったよ」

「そうか。桜井っていう恋人もいるんだし、麻生や小鳥遊と変なことはするんじゃないぞ。いや、むしろしそうなのは麻生の方か。速水の家に泊まるから興奮しそうだし」

「そうだな。気をつけておくよ」


 サクラと和奏姉さんがいるから大丈夫だと思うけど。杏奈も一紗に比べたら、変なことをする可能性はかなり低いだろう。


「じゃあな、速水」

「ああ、またな」


 羽柴は小さく手を振って、家を後にした。

 キッチンに戻ると、食事が終わったけど今も談笑が続いている。


「羽柴、帰っていったよ」

「そうか。お風呂は母さんと大輝が夕食を作っている間に準備しておいたから、今すぐに入れるよ。昨日と同じように、若い人達が先に入りなさい」

「分かったよ、お父さん。……昨日、フミちゃんと青葉ちゃんと3人で入ったんだけど、うちのお風呂だと一緒に入るのは3人が限界だと思う。だから、私は……一度も入ったことのない一紗ちゃんと杏奈ちゃんと一緒に入りたいんだけど。大輝達はどうかな?」


 やっぱり、今日は一紗と杏奈と一緒に入ろうとしているんだな、和奏姉さんは。


「……って、俺にまで同意を求めるのか。一紗達がよければ、俺はそれでいいんじゃないかと思う」


 俺がそう言うと、和奏姉さんは口角を上げて頷いた。


「和奏ちゃんの言うように、昨日の感じだと、この4人で入るのは広さ的に厳しいと思いますね。一緒に入るなら3人までがいいかと」

「なるほどです。機会がそうそうないという意味でも、和奏さんとは一緒に入りたいですね」

「私もお姉様と入れる機会は滅多にないから、一緒に入りたいわ。杏奈さんとも入りたいし。ということは、お姉様の案で決定ね」


 うんうん、と一紗はとても納得した様子で頷いている。しかし、杏奈はちょっと怪訝な表情に。


「和奏さんはもちろんいいですよ。ただ、一紗先輩は……あたしが素肌を晒したことで興奮して、厭らしいことをしないかどうか心配です」


 やはり、一紗のことで心配していたか。

 一紗は「こほん」とわざとらしく咳き込むと、真面目な表情になって杏奈を見る。


「……しないわよ。文香さんから、ここに泊まる条件として杏奈さんに厭らしいことをしないと約束したんだし」

「……約束がありましたね」

「まあ、あたしも一緒に入るからさ。何か嫌だなって思うことがあったら、遠慮なくあたしに言って。あたしが杏奈ちゃんを守って、一紗ちゃんに注意してあげるから」

「……分かりました。では、和奏さんと一紗先輩と一緒に入りましょう」

「ありがとう! 杏奈さん!」


 一紗、今日で一番と言っていいくらいに喜んでいるぞ。あまりにも嬉しすぎて、杏奈に何か変なことをしてしまわないかちょっと不安になるけど、和奏姉さんが一緒に入るからきっと大丈夫だろう。


「ちなみに、寝るのはフミちゃんも一緒に4人でね。客間にもふとんがあるから、それを敷けば4人で寝られると思うよ」

「分かりました。楽しみにしています。じゃあ、今日は私と2人でお風呂に入ろうか、ダイちゃん」

「そうだな。じゃあ、一番風呂は和奏姉さん達が……」

「大輝君、ちょっと待って。提案があるのだけれど」

「どんなことだろう、一紗」

「大輝君と文香さんが一番風呂に入るのはどう? そうすれば……私達が入ったときに、2人とも一緒に入るような気分になれそうだから」

「なるほど……」


 一紗の言うことも……分からなくはないかな。それも本当かもしれないけど、一番の理由は俺とサクラの入ったお湯に浸かりたいことじゃないか? 一紗は俺とサクラを見ながらちょっとニヤけているし。


「……こればかりは杏奈と和奏姉さんの意見次第だな。特に杏奈。どうだろう?」


 男性の入った湯船に入るのは抵抗感や嫌悪感を抱くかもしれない。春休みの帰省時にも一緒に入浴した和奏姉さんは大丈夫そうだけど、杏奈は嫌がる可能性はある。


「うちでは最初に入ることも多いですが……大輝先輩と文香先輩であれば、お二人の後でもかまいません」

「お姉ちゃんは大丈夫だよ!」

「そうか。2人がこう言うなら……一番風呂をいただくか、サクラ」

「そうだね。じゃあ、私達が最初に入りますね」

「ゆっくり入ってきてね」


 和奏姉さんのその言葉に一紗も杏奈も頷いているので……お言葉に甘えて、サクラとゆっくり入浴することにしよう。

 自分の部屋で替えの下着や寝間着など必要なもの用意し、サクラと一緒に1階の洗面所へと向かう。

 いつも通り、俺達は互いに背を向けた状態で服を脱ぎ始める。


「まさか、私達が一番風呂に入るとは思わなかったよね」

「ああ。一紗がそう提案した一番の理由って、俺達の入ったお湯に浸かりたいからことだよな」

「私も同じことを思った」


 ふふっ、とサクラの楽しげな声が聞こえてくる。サクラも同じ考えだったのが嬉しくて、俺も声に出して笑った。

 和やかな雰囲気の中、着ていた服を全て脱ぐ。普段通りに腰にタオルを巻こうとしたときだった。


「……ねえ、ダイちゃん」

「うん?」

「……付き合い始めてから何度もお風呂に入っているし、そろそろ……全てを見せてもいいかなって私は思えてきたんだけど。ダイちゃんの姿も……見てみたいし。それに、昔、和奏ちゃんと3人で入ったときは隠さないことも多かったし」

「それは小さい頃の話だからなぁ。それに、俺達が恥ずかしいって言えば、和奏姉さんも隠していることは許してくれると思うけど」

「多分そうだと思うけど、予行演習も兼ねて。ダイちゃんは……どう?」


 俺にしか聞こえないような小さな声で、サクラはそう問いかけてくる。内容が内容だけに体が段々と熱くなってくる。

 今までは見られては恥ずかしい場所をタオルなどで隠したり、時には目を瞑ったりして対応していた。

 正直、高校生になって成長したサクラの姿の全てを見てみたい。それに、2人きりのこの状況であれば、サクラに自分の姿を全てさらけ出してもいいと思える。


「……分かった。いいよ。一度、見せ合ってみよう」

「ありがとう。じゃあ、とりあえず……振り返って、お互いの姿を見てみようか。それで大丈夫そうならそのままで。恥ずかしかったら隠そう」

「分かった。じゃあ、俺が『せーの』って言ったら、振り返ろう。俺は服を脱いでいるけど、サクラはどうだ?」

「私も脱いでる。じゃあ、ダイちゃんが言ったタイミングで振り返ろっか」

「分かった。じゃあ……いくぞ。せーの!」


 勇気を出して、俺は背後に振り返る。

 すると、そこには綺麗な姿をしたサクラがこちらを向いて立っていた。凄くドキッとしたし、このままでは理性がぶっ飛びそうなので、すぐに視線をサクラの顔を向ける。


「……ほえっ」


 サクラは顔を真っ赤にしてそんな可愛らしい声を漏らすと、視線を俺の目に向けた。


「小さい頃とは違うね、ダイちゃん。大人になった」

「……サクラこそ」

「……どうもです」


 そう言うと、サクラははにかんだ。


「凄くドキッとして緊張もするけど……嫌じゃないよ。見るのも。見られるのも」

「……俺もだ」


 こう言っていいのかは分からないけど、お互いの体を見たことで一つ壁が取れた感じがする。


「ただ……は、恥ずかしいから、今日はこのくらいにしよっか」

「そ、そうだな」


 俺は再びサクラと背を向ける状態になり、手に持っていたタオルを腰に巻く。こうすると、いつも通りな感じがして気持ちが落ち着くな。


「こ、こっちに向いていいよ」


 ゆっくりと振り返ると、そこにはタオルで前面を隠したサクラがいた。


「……入ろっか」


 サクラのその言葉に首肯すると、サクラは何も言わずに俺の手を引いて浴室に連れて行ってくれた。

 お互いの体を見たことの緊張や恥ずかしさもあって、今までよりもサクラを見る回数は少なかった。サクラと言葉を交わす回数も少なくて。

 それでも、サクラと一緒に湯船に浸かると、今まで以上に気持ち良くて開放感も感じられた。気持ちいいのかサクラも笑顔になって。その姿はとても可愛かった。

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