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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
続編-ゴールデンウィーク編-

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124/202

第23話『シスター再び-後編-』

「ただいまー!」

「ただいま」


 家の中に入ると、サクラが作ったハヤシライスの美味しそうな匂いがしてくる。バイトが終わった直後だから、5時過ぎの今からお腹が空いてくるなぁ。サクラが作ったから、きっと美味しいに違いない。

 玄関に和奏姉さんのバッグを置くと、体が結構軽くなった感じがした。


「おかえり。和奏、大輝」

「2人ともおかえり。和奏もバイトがあったのよね。2人ともお疲れ様」


 リビングから父さんと母さんが出てきた。前回から1ヶ月ちょっとだけど、一人暮らしの娘が無事に帰省して2人とも安心した様子だ。特に父さん。


「ただいま、お父さん、お母さん」

「確か、5日の夕方までこっちにいるんだよな?」

「そうだよ」

「そうか。ゆっくりしていきなさい」

「うんっ! あと、こっちにいる間は女子高生達とたくさん戯れるつもりだよ。そういえば、フミちゃんと青葉ちゃんは? フミちゃんのお部屋かな?」

「やっぱり、和奏ちゃんの声がするよ」

「聞き間違いじゃなかったね」


 2階からサクラと小泉さんの声が聞こえてきた。玄関が開閉する音や、俺達の話し声に気づいたのだろう。

 それから程なくして、2階からサクラと小泉さんが降りてきた。


「おかえり! ダイちゃん、和奏ちゃん!」

「2人ともおかえりなさい。あと、お邪魔してます。今夜はお世話になります」

「2人ともただいま」

「ただいま! 青葉ちゃん、ゆっくりしていってね!」


 和奏姉さんはサクラと小泉さんのことをぎゅっと抱きしめる。2人とも、姉さんに抱きしめられて嬉しそうだ。何て微笑ましい。


「ねえ、青葉ちゃん。今日は私とフミちゃんと一緒にお風呂に入らない? 青葉ちゃんとは一度も入ったことないから」

「いいですね! 文香もそれでいい?」

「もちろんだよ!」

「じゃあ決まりね! 楽しみだなぁ」


 女子同士だし、お風呂で交流を深めるのはいいことじゃないだろうか。

 きっと、明日も和奏姉さんは一紗と杏奈と一緒にお風呂に入りそうだ。うちのお風呂では4人入るのはさすがに無理だと思うので、サクラとは一緒に入らないだろうけど。

 夕食までの間は、サクラの部屋で4人で過ごすことになった。もちろん、部屋までも俺が荷物を運ぶことに。


「姉さん、荷物はここに置いておくよ」

「ありがとう、大輝」

「いえいえ」

「……あぁ、フミちゃんのいい匂いがする。もうすっかりとここがフミちゃんの部屋になったね」

「ふふっ、そうですか。今までたくさん遊びに来ていたのもあって、早い段階でこの部屋で過ごすのに慣れました」

「それは良かった」


 和奏姉さんは優しい笑みを浮かべて、サクラの頭を撫でる。そのことでサクラは「えへへっ」と柔和な笑顔になって。懐かしいな、この風景。


「……あっ、そうだ。和奏姉さんにパークランドに行ってきたお土産があるんだ。ちょっと待っていてくれ」


 俺は自分の部屋に行き、勉強机に閉まってある、いちごキャンディーが入ったパークランドの紙袋を取り出す。サクラの部屋に戻り、和奏姉さんに渡した。


「サクラと俺から。キャンディーだよ」

「それって、杏奈ちゃんがあたし達にお土産でくれたのと同じやつ?」

「そうですよ。和奏ちゃん、昔からここのいちごキャンディーが好きでしたよね」

「うんっ! ありがとう!」


 パークランドの紙袋からキャンディーの袋を取り出すと、和奏姉さんは目を輝かせて「懐かしい~」と呟く。


「これこれ! ほんのりピンク色のキャンディー! さっそくみんなで食べようか」

「あっ、和奏ちゃん。私とダイちゃんは自分達のお土産に買ったキャンディーも残っていますから……」

「いいよいいよ。たくさんあるんだから。お土産を買ってくれたお礼だよ。青葉ちゃんにもあげるね」


 そう言って、和奏姉さんはキャンディーの袋を開封し、俺達の前にそれぞれ一つずつキャンディーを置く。その際、小泉さんは明るく、サクラはちょっと申し訳なさそうに「ありがとうございます」と言った。俺も姉さんにお礼を言う。


「じゃあ、ひさしぶりのキャンディーいただきまーす!」

「和奏先輩、ありがとうございます! いただきます!」

「じゃあ、私も。いただきます」

「……いただきます」


 個別包装されている袋を開け、俺はいちごキャンディーを口に入れる。甘酸っぱくて美味しいなぁ。ただ、自分達のお土産で買ってきたものよりも、杏奈がお土産でくれたものや今食べている方がより美味しく感じる。


「そうそうこの味! 懐かしくて美味しい~!」


 ひさしぶりにいちごキャンディーを味わえたからか、和奏姉さんはとても嬉しそう。そんな姉さんの笑顔はとても可愛らしい。

 和奏姉さんの言葉に賛同しているのか、小泉さんとサクラも笑顔で頷いている。


「美味しいですよね! このいちごキャンディー!」

「そうだね、青葉ちゃん」

「美味しいよな。昔、帰りの車の中で3人でキャンディーを食べて、家に到着するまでの間に一袋全部食べたのを思い出したよ」

「あったね! 帰ったときに、食べ過ぎだってお母さんと美紀さんに怒れたっけ」

「ありましたね」


 大半をサクラと和奏姉さんが食べて、俺は2粒くらいしか食べていなかったのに、俺まで怒られたんだよな。食べたことには変わりないから、黙って説教を受けたけど。


「さすがに幼馴染同士なだけあって、こういうお菓子にも思い出があるんですね」

「東京パークランドには、文香ちゃんと家族ぐるみで何度も言っていたしね。ちょっと大きくなってから、私達3人だけで行ったこともあったよね」

「ありましたね、和奏ちゃん」

「3人だけでも行ったことがあったな」


 そのときは、家族ぐるみで行ったとき以上に、サクラと和奏姉さんに主導権を握られていたけれど。もちろん、俺の行きたいアトラクションにも行かせてくれたので、3人で行くのも嫌だとは思わなかった。


「あたしも小さい頃から何度もパークランドには行っていますし、文香とも去年一緒に行きました。あたしは絶叫系がかなり好きですけど、和奏先輩はどんなアトラクションが好きですか?」

「あたしも絶叫系は大好きだよ! フミちゃんも好きだから、昔はよく一緒に大輝を連れ回していたよね」

「2人でダイちゃんの手を引っ張って」

「何だか想像できますね。それに、高1の頃、文香の家に遊びに行ったときに、何度かアルバムを見せてもらって、小さい頃の速水君の姿も知っていますし」


 小泉さんは俺のことをじっと見ながらそう言う。アルバムで俺の幼き日の姿を知っているのか。何だかちょっと恥ずかしい気分に。

 パークランドはもちろんのこと、家族ぐるみでお出かけや旅行をしたときは、写真や動画をたくさん撮っていたからなぁ。この部屋にはもちろんのこと、サクラの御両親が暮らす名古屋の家にも、小さい頃の様子を収めた写真や動画があるのだろう。


「あたしにとって、パークランドは小学生までの大輝とフミちゃんと一緒に行った場所ってイメージが強いな。だから、カップルになった2人がデートで行った話を聞くと、何だか感慨深い気持ちになるね。2人は久しく一緒に行っていなかったし」


 和奏姉さんがそう言う気持ち、分かる気がする。

 俺もデートした日、東京パークランドに到着した時点で、ひさしぶりでしかもサクラと2人きりだから感慨深い気持ちになった。


「そして、そういう仲良しエピソードを聞くと、お姉ちゃんは気になってくるの。大輝とフミちゃんの同棲生活について」

「ほえっ。ど、同棲。間違ってませんけど、そのワードを言われるとドキドキしちゃいます」


 サクラは頬を赤くしながらそう言うと、俺のことをチラチラと見てくる。そんな反応も可愛いけど、あらぬ誤解を招いてしまいそうだ。


「あたしも気になりますね。2人ともいますし」


 小泉さんはニヤニヤしながら俺とサクラのことを交互に見る。段々と頬が熱くなってきた。俺もサクラみたいに頬が赤くなっているだろうな。


「2人の様子からして、ラブラブな生活を送っていそうですね、和奏先輩」

「みたいね。そうだね……何を訊こうかな」

「……訊かなくてもいいんだぞ、姉さん」

「寝るときって、どっちかの部屋のベッドで一緒に寝たりするの?」


 さっそく質問してきたよ。訊かなくてもいいと言ったのに。

 サクラの方を見ると、サクラと目が合う。依然として頬が赤いサクラはゆっくりと頷いた。


「一緒に寝ることが多いな」

『おおっ』


 和奏姉さんと小泉さん、声を揃えて反応したぞ。息ピッタリだなぁ。


「どっちかのベッドで寝ることが多いの? それとも、文香と速水君の気分次第?」

「気分次第だよな、サクラ」

「そ、そうだね。昨日はダイちゃんのベッドで寝て、パークランドへデートに行った水曜日は私のベッドで一緒に寝たよ」

「へぇ、そうなんだぁ。気分次第でどっちのベッドでも寝るってことに、2人の仲の良さが伺えますね、和奏先輩」

「そうだね。2人のベッドの大きさはセミダブルだし、きっと身を寄せ合って、お互いの体温を感じながら気持ちよく寝ているんでしょうね。ベッドの中で、おやすみとおはようのキスとかしているかも」


 見事に当たっているから、何だか気恥ずかしくなってしまう。それまで、頬中心にある強い熱が全身へと広がっていくのが分かる。

 サクラも顔の赤みがさっきよりも強くなっている。和奏姉さんの言うことが正しいからか、サクラはコクコクと頷く。


「なるほどね。……このままだと、2人の頭がパンクしそうだから、この辺で止めにしておきましょうか」

「そうですね、和奏先輩。ラブラブなのは分かりましたし。2人とも、答えてくれてありがとう。もうこれ以上は訊かないから安心して」


 良かった、これ以上追求されることがなくて。サクラもほっと胸を撫で下ろしていた。

 それから、夜ご飯の時間になるまで、新年度になってからの学校生活のことなどについて駄弁るのであった。

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