第20話『お土産とお土産話』
4月30日、木曜日。
昨日の遊園地デートのおかげなのか。それとも、今日と明日が終われば5連休がやってくるからなのか。午前中の授業があっという間に終わった。
昼休み。
チャイムが鳴ってから2、3分ほどで杏奈がやってきた。実は今朝、LIMEのグループトークに『お昼ご飯を一緒に食べたいです。パークランドでお菓子を買ってきたので、そのときに渡したいです』とメッセージをくれたのだ。
俺とサクラも、杏奈に乗じてお土産のクッキーを昼休みに渡すことにし、それを杏奈達に伝えておいた。
今日は杏奈も一緒に6人でお昼ご飯を食べ始める。昼食での話題はもちろん、昨日のパークランドのことだ。
「文香達から聞いたけど、昨日は杏奈ちゃんもパークランドに行っていたんだね」
「はいっ! クラスの友達とどこか遊びに行こうって話になりまして。みんな遊園地が好きなのでパークランドへ行ったんです」
「そうなのか。速水と桜井に会えるとは。パークランドは何度か行ったことあるけど、あそこって結構広いよな」
「広かったです。ですから、先輩方が来ていることを知っていたとはいえ、会えたのはとても嬉しかったですね。文香先輩があたしに声をかけてくれましたし」
「杏奈ちゃんの綺麗な金髪が視界に入ったから、もしかして……と思ってね。座っている場所とか、杏奈ちゃん達が歩く方向が違えば、ダイちゃんが最初に気づいたんじゃないかな」
「そうかもな。杏奈の金髪は本当に綺麗だし」
「見つめられてそう言われると、照れてしまいますね」
えへへっ、と杏奈は頬を赤らめながらも嬉しそうに笑った。
「杏奈さんの金髪は薄暗いお化け屋敷の中でもとても美しく見えたわ。お化け屋敷で杏奈さんの姿を見つけたときは、嬉しすぎて杏奈さんのところへ走っていったわ! 大きな声を上げちゃったし」
そのときのことを思い出しているのか、一紗は興奮気味に話す。そんな一紗とは対照的に杏奈は顔色がちょっと悪くなっているけど。お化け屋敷で会ったときの2人の様子が容易に想像できるな。
「本当にあのときは驚きましたよ。お化け屋敷に幽霊姿の一紗先輩がいるんですから。あと、黄色い声を上げて、友達と一緒にいるあたしのところへ走ってきたのはやっぱり素だったんですね」
「あのときは素の麻生一紗になっていたわ。杏奈さんのおかげで再び精力が漲って、バイトが終わるまで全力で幽霊を演じきれたわ!」
今の一紗も精力が漲っているように思えるけど。
「幽霊姿の一紗先輩を見た瞬間に、大輝先輩と文香先輩がオススメした理由はこれだったんだって悟りましたよ。それまでは、園内で美人の幽霊さんがいるって話を何度か小耳に挟んだので、それがオススメした理由なのかなって思っていましたが。お化け屋敷に初めて並びましたし。……あっ、もしかして、その『美人の幽霊』さんって一紗先輩のことだったんですか?」
「そうみたいね。大輝君と文香さん曰く、昨日になって突然SNSで話題になったみたいだから。体調不良の友人に代わりにやったバイトだから、幽霊姿の私を見られたのは昨日だけね」
「なるほどです。昨日限定っていうのは、何だか幽霊らしいかもです。一日お客さんを驚かしたから成仏した感じがして」
納得した様子でそう言う杏奈。
思い返すと、幽霊姿の一紗はとても美しかった。黒いロングヘアが幽霊らしい雰囲気を醸し出していたし。昨日だけ見られたと一紗本人が言うと、あの姿が儚く思えてくる。
「昨日限定だって本人が言うから、あたしもその姿を見てみたかったな」
「麻生は和装が似合いそうだから、どんな感じなのか興味があるな」
「写真で良ければ見せましょうか? 幽霊の格好になったとき、お化け屋敷の若い女性スタッフが記念にって私のスマホで写真を撮ってくれたから」
「見たい見たい!」
明るい笑顔でそう言うと、小泉さんは右手をピシッと挙げる。一紗の幽霊姿を相当見たいことが伺える。
「分かったわ。じゃあ、LIME私達のグループトークに送るわね」
そう言うと、一紗はブレザーのポケットからスマホを取り出す。
『プルルッ』『プルルッ』
それから程なくして、複数のスマホがほぼ同時に鳴る。
さっそく自分のスマホを確認すると、一紗からこの6人のグループトークに写真が送られたという通知が届いた。
グループトークを開き、一紗から送信された写真をタップすると、幽霊服姿の一紗が微笑みながらピースしている写真が表示される。
写真を撮影した場所はスタッフの控え室だろうか。明るい場所で写っているので、昨日、お化け屋敷で会ったときとは違った雰囲気だ。怖さは全然なく、幽霊のコスプレをした綺麗で可愛らしい女性って感じ。……昨日のことを思い出すためにも、スマホに保存しておくか。
「うわあっ、一紗とっても綺麗だね!」
「やっぱり麻生はこういう感じの服が似合うなぁ」
昨日、パークランドに行かなかった小泉さんと羽柴は絶賛している。それが嬉しいのか、一紗は2人のことを見ながら笑みを浮かべた。
「2人ともありがとう。昨日、お化け屋敷で会った3人はどうかしら?」
「この写真のおかげで、お化け屋敷で会った一紗ちゃんの姿を鮮明に思い出すよ」
「そうだな、サクラ」
「写真の一紗先輩は幽霊のコスプレした人って感じですね。これなら怖くないですけど、昨日のお化け屋敷での一紗先輩は怖かったですよ。……色々な意味で」
「私もお化け屋敷で一紗ちゃんと会ったときは怖かったよ」
素早く俺の後ろに隠れるほどだったからな。素が出ていたとはいえ、お客さんを怖がらせられたのだから、あのバイトは一紗に合っていたんじゃないだろうか。
それからも、昨日のパークランドでの話をしながらお昼ご飯を食べていく。杏奈も友人も絶叫系が苦手な人はいなかったそうで、杏奈達も絶叫系アトラクションに結構乗ったらしい。
そして、みんながお昼ご飯を食べ終わった頃、
「それじゃ、お土産のお菓子を食べようか」
「そうですね。先輩方は何のお菓子を買いましたか? あたしはキャンディーなんですけど」
キャンディーか。昨日の夜に自分達用に買ったものを舐めたけど、甘酸っぱい苺味で美味しかった。サクラも美味しそうに舐めていた。
「私達はクッキーだよ。6枚入りがあったから、みんなで1枚ずつ食べようって売店で買ったの」
「なるほどです。クッキーは自分用に買いましたけど美味しかったです」
「私達も自分用に買ったけど美味しかったよね!」
「あれは美味しかったな」
クッキーの甘さもちょうど良く、香ばしさも感じられてとても美味しかった。うちの両親も美味しいって言っていたな。
「おぉ、クッキーとキャンディーか! 嬉しいぜ!」
さすがは大の甘党。羽柴は目を輝かせながら、机の上に置かれたクッキーの箱とキャンディーの袋を見ている。そういえば、この前のサクラとの放課後デートのときにも行ったパンケーキ屋さんで、注文したパンケーキがテーブルに置かれたときも同じような感じだったな。
その後はみんなで俺とサクラからのお土産のクッキーと、杏奈からのお土産のキャンディーを楽しむ。
甘いもの好きなのもあり、みんなどちらも美味しそうに食べている。特に羽柴が幸せそうに味わっているのが印象的で。俺達からはクッキー1枚だけど、みんなにお土産を買ってきて良かったと思えた。




