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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
続編-ゴールデンウィーク編-

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101/202

プロローグ『新しい日々』

続編-ゴールデンウィーク編-




 4月20日、月曜日。

 今週も学校生活が始まる。ただ、いつもの月曜日よりも「新しい日々の始まり」という感覚が強い。


 なぜなら、俺・速水大輝(はやみだいき)は10年以上の幼馴染でクラスメイトの桜井文香(さくらいふみか)と、昨日から恋人として付き合い始めたからだ。


 俺にとっては8年。文香……サクラにとっては10年胸に抱き続けていた恋心を実らせた形となる。

 サクラと出会ってから、ここまで至るには色々なことがあった。楽しいことはもちろん、辛かったことも。


 一番の出来事は、中学2年の春、俺がサクラのいる場で、サクラについて酷い言葉を言ってしまったこと。そのせいで、サクラと3年もの間わだかまりができてしまった。


 時間が解決してくれた部分もあって、挨拶するようになったり、一緒に登下校するようになったり、少しずつ距離が縮まっていった。それでも、かつてのような関係には程遠くて。思えば、わだかまりがあった期間は、お互いの呼び方が「サクラ」「ダイちゃん」というあだ名でなく、下の名前だった。


 そんな中、今年の春休み。御両親の都合でサクラが俺の家に引っ越し、同居することに。


 サクラと一緒に過ごし始めたことで、サクラとの関わりが深くなっていった。

 そして、窃盗事件でサクラのバッグを盗んだ犯人を捕まえたことをきっかけに、幼馴染として再び仲良くなれた。

 しかし、俺もサクラも告白する勇気はなかなか出なかった。幼馴染であり、同居もしているので、失敗したらどうなってしまうかと恐れてしまったから。

 高校2年生になり、俺は同じクラスになった麻生一紗(あそうかずさ)と、高校とバイトの後輩である小鳥遊杏奈(たかなしあんな)から告白された。サクラという想い人がいるので、彼女達の告白は断った。

 ただ、失敗を恐れずに、好きな気持ちを伝える彼女達から勇気をもらい、俺からサクラに告白。サクラが俺の告白をOKしてくれ、サクラとの交際がスタートしたのだ。


 本当に、付き合い始めるまで色々なことがあったなぁ。左斜め前方にある席に座っているサクラを見ながら回顧した。


 それにしても、サクラは本当に可愛くて綺麗な女の子だ。恋人になったからか今まで以上にそう見える。たまに、俺の方をチラッと見て、目が合って微笑む姿なんて最高以外に言い表しようがないくらいに最高。だからか、今日の授業中は黒板よりもサクラの方を多く見ているかもしれない。


「……みくん。速水君」

「……は……は、はい」


 現代文の先生に名前を呼ばれたので、体がピクッと震えた。俺は教科書を持って先生を見る。


「次、速水君。読みなさい」

「あ……ああ、はい」


 一応、返事をして俺は席から立った。えっと……どこから読むんだ? サクラのことに集中してしまって全然分からない。


「……25ページ。3行目の頭からだ」


 俺の返事の仕方で、どこまで読んでいたのか分からないと察したのか、前の席に座っている親友・羽柴拓海(はしばたくみ)が小さな声で助けてくれる。俺はちょこんと頷いて、無事に朗読を始めることができた。

 これからは授業を聞くのを疎かにしないように気をつけなければ。




「さっきはありがとな、羽柴。ささやかだけどお礼だ」

「サンキュ」


 昼休みになってすぐ、俺はさっきフォローしてくれたお礼に、スクールバッグにいつも入れているソーダ味のタブレット菓子を羽柴に一粒あげた。

 羽柴は俺があげた菓子を口に含むと、持ち前の爽やかな笑みを浮かべる。


「ソーダ味美味いな。このシリーズの甘い味のやつはどれも当たりだ」

「さすがは甘党。俺も好きだけど」

「お前もなかなかの甘いもの好きだもんな。まあ、これからも速水を助けたら、礼に1粒か2粒くれよ」

「ははっ、喜んで」

「ダイちゃん、羽柴君。今日も一緒に食べようよ」


 サクラは自分の席から、少し大きめの声でそう言ってくれる。笑顔で手招きする姿が可愛らしい。


「分かった。今行くよ」

「おう」


 俺は弁当箱の入ったランチバッグと水筒を持って、羽柴と一緒にサクラ達のところへ向かう。

 2年生になってから、俺はサクラと一紗、羽柴、サクラの親友の小泉青葉(こいずみあおば)さんと一緒にお昼ご飯を食べるのが習慣となっている。もちろん、そのときはサクラと隣り合って。たまに、杏奈がうちの教室に遊びに来ることもある。


「それじゃ、いただきまーす!」

『いただきます』


 小泉さんの号令で、俺達はお昼ご飯を食べ始める。

 弁当箱の蓋を開けると……玉子焼きやハンバーグなど、今日も俺の大好物のおかずがいくつも入っている。嬉しいな。

 サクラのお弁当箱にも、もちろん同じおかずが入っていて。こういうことでも、サクラと一緒に暮らしているのだと実感できる。サクラが玉子焼きを食べるので、俺も玉子焼きを一つ食べる。


「……美味い」

「甘くて美味しいよね、ダイちゃん」


 笑顔でそう言うサクラがとても可愛らしい。そのおかげか、玉子焼きの甘味が何割か増した気がする。

 サクラとこうして同じものを食べて、美味しいと言い合えるのは幸せだ。いつまでもこうしていられる関係でありたい。


「そういえば、大輝君。現代文の授業で音読するのを当てられたとき、授業に集中していなかったでしょう。返事がおかしかったから」

「私もそれは思った。羽柴君がダイちゃんに話しかけているようだったし」

「速水君らしくないなとは思ったよ。まあ、その原因はおおよそ見当がついてるけど」


 そう言うと、小泉さんはニヤリと笑い、俺とサクラのことを交互に見る。きっと、小泉さんが考えている『原因』は正解だろう。

 それにしても、3人とも現代文の音読のときのことに気づいていたのか。ちょっと体が熱くなってきた。


「サクラのことばかり見てて、授業に集中できてなかった。今までも可愛いと思っていたけど、恋人になったからかもっと可愛く思えてさ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、教室で言われると恥ずかしいな……」


 はにかむように笑うサクラ。その顔も可愛いなぁ。


「先生に呼ばれて我に帰った感覚があったから、変な感じの返事になったんだ」

「俺も小泉達と同じようなことを覚えて、読み始める場所をこっそりと教えたんだ」

「羽柴のフォローのおかげで、現代文の先生に怒られずに済んだよ。俺とサクラの席の位置関係がちょうどいいから、授業中にも見やすくて。これからはちゃんと授業に集中しなきゃいけないって思ったよ」


 このまま授業に集中できないままだと、成績も下がり始めてしまうだろうし。


「午前中、ダイちゃんの視線は結構感じてた。それは嫌じゃないし、授業を聞くのに支障がない程度には見ていいと思うよ。私もたまにダイちゃんの方をチラッと見て、癒されているし。今日も何度か目が合ったよね。ダイちゃんと目が合うと嬉しいの」

「その言葉が嬉しいよ、サクラ。分かった」


 何て可愛らしい考えを持った恋人なのでしょう。今のサクラの言葉が嬉しくて、キュンとなった。気づけば、右手でサクラの頭を優しく撫でていた。サクラは柔和な笑みを浮かべて俺を見つめる。

 サクラを見習って、これからはたまにサクラのことを見て癒されよう。サクラと目が合ったらラッキーだと思うことにするか。そう決めるだけで、今後の授業を受ける気力が湧いてくる。


「2人を見ているからか、今食べた唐揚げが甘く感じたよ」

「奇遇だな、小泉。俺もこの辛口カレーパンが甘口かと思ったぜ」

「2人の甘い世界ができていたものね。……私も授業中に大輝君のことをチラッと見るけど、本当に癒されるわ。授業に集中しているときの大輝君の顔はかっこよくてキュンとするの」

「それ凄く分かるよ、一紗ちゃん!」


 サクラと一紗は笑顔で頷き合う。

 今までに授業中に遠くの方から視線を感じるときがあり、一紗の席の方を見ると何度か一紗と目が合ったこともある。一度、目が合ったら一紗は凄く嬉しそうな顔を見せてくれたっけ。そのときはさすがに一紗に目を奪われた。もちろん、それはサクラと付き合う前の話だ。


「あと、優しく微笑む大輝君も見るときがあるわ。それはきっと、文香さんと目が合ったときなのでしょうね」

「確かに、目が合うとダイちゃんは微笑んでくれることが多いね」


 そのときはサクラも微笑んでくれることが多い。その顔が可愛くて、また見てみたいと思いサクラをチラチラと見てしまうこともある。

 一紗はいつもの上品な笑みを浮かべ「ふふっ」と笑う。


「やっぱり。そんな大輝君の顔も好きだし、これからもたくさん見ていきたいわ。2人とも、いつまでも仲良くね」

「もちろんだよ、一紗ちゃん」

「ああ」


 誰から言われても、俺達は今のように答えるだろう。ただ、俺に告白してフラれた経験のある一紗が「いつまでも仲良く」と言ってくれることがとても嬉しかった。

 サクラとは恋人同士になったけど、今までと変わらず和気藹々とした昼休みの時間を楽しんだ。

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