三十四話 決戦(2)
大きく反町の周囲を旋回し、計器の確認を行う。
20㎜は約半分を撃ち切った。ミサイルは残り2発のみ。
燃料にはまた余裕があるが、機体の状態は万全とは言えない。
いくら機体強度を上げているとはいえ、オーバードライブの異常な機動でダメージが徐々に蓄積されてきているようだ。
『間宮隊員、次はどう攻める?』
「武装も半分以上使い切ってしまいました。時間も余裕がないので、機体の限界ギリギリの機動で勝負をかけます」
『わかった。我々も援護をするが、君が動きやすいよう立ち回る。遠慮なくやるといい』
アレックスが指示を出して反町から援護機が離れた。
僕は反町の背後にまわり込んだタイミングでスロットルを全開にするとスティックを両手で力強く掴む。
一気に加速性能、最高速度が跳ね上がり操縦桿はかなり重い。両手でも制御が難しい。体にかかるGも凄まじく、体がシートに押し付けられて体から軋むような音が耳に伝わってくる。
とても攻撃に移行できる状況ではなく、反町の側面を通り抜けてしまう。
急制動をかけて方向を変えると反町は面食らったようにこちらを見ている。流石にこれほどの動きをするとは予想していなかったらしい。
しかし、それでも冷静なのは変わっていない。すぐさまこちらに攻撃を仕掛けてくる。
即座に急加速して回避すると、急制動をかけて方向転換。
反町はこちらの動きを追いきれていない。僕が急加速を再びかける瞬間に目をこちらに向けたのだ。
これならばなんとかなるかもしれない。
繰り返される急加速と急制動で体にかかる負荷が尋常ではない。このままでは機体より先にこちらがダメになってしまう。
反町がこちらの動きに慣れるような時間はない。勝負を決めるのなら今だ。制動距離はこの数回で把握できた。なんとかできるだろう。覚悟は既にできている。
反町の顔がこちらを向く。その瞬間、操縦桿を思い切り引き、一気に加速した。反町の顔スレスレを通り抜けて一気に上昇する。次第に機体から軋む音と何かが破裂するような音が聞こえてきた。コクピット内にはアラートが鳴り響いている。
限界を超えた機体をなんとか操作して反町の姿を一瞬確認する。目標めがけて一気に降下し反町の丁度死角につけた。
見えづらかったが反町の口は開いている。各部スラスターを微調整して、横滑りのような形で反町の顔の前へと姿を現す。
反町はこちらに気がついたようだがもう遅い。僕は特殊弾頭ミサイルを撃ち込み、その場から離脱する。
既に期待は限界、いつ空中分解してもおかしくない状態だ。残されたミサイルの信管を無効化して廃棄すると、既に破壊尽くされた町へと機体を向けて脱出した。
パラシュート降下する中、僕は無線を使用した。
「こちら間宮。体内へ特殊弾を撃ち込むことに成功しました!」
『よし!よくやってくれた!すぐに安全地帯へ避難してくれ!』
「了解。安全地帯へ避難します」
僕は瓦礫の少ない地点へと降下してパラシュートを降ろして、反町を見上げた。
大きな体を震わせて、唸り声をあげていた。体の色が白色に変化していき、灰のような塵が舞っている。
全身の細胞が死滅していくのだ。体が持たなくなってきているのだろう。今なら確実にトドメがさせる。
遠くから光が見える。
轟音と共に閃光が走った。
反町の体には風穴が空き、その体は崩壊していく。
反町隆史という悪魔が倒された瞬間だった。




