三十一話 科学の悪魔(2)
基地へと戻ると補給を任せて、その間、僕たちは一度現在の戦況の確認に向かった。
臨時通信管制質となった第三作戦室へと入ると隊員たちがあわただしく動き回っていた。部屋の巨大モニターには各戦場の映像が映し出されていた。今のところ戦闘エリアは変わっていないようだ。しかし、一か所だけ砂嵐になっていて戦況が全く分からなくなっている。
「おいおい、こりゃあ高橋副隊長のところだけモニタリングできてないじゃないか」
通信ができなかったことも考えると強力な妨害電波を発生させてこちらに情報が渡らないようにしているのだろう。
「武田!これは何とかできないのか?」
小林隊員が大声で武田隊員に呼びかけた。
「無理だ。あらゆる方法試したは試したんだが、どれも成功しなかった」
「じゃあこっちでも副隊長の状況は把握できていないのか?」
「残念ながらな」
「くっそ!じゃあ補給さっさと済ませていかねえと!」
「焦るな小林。補給が終わるまで休むんだ。今のうちに軽く食べておくぞ。エネルギー補給しておかないと乗り切れないぞ」
「そうっすね。わかりました」
『第三作戦室戦闘隊の皆さん!格納庫の待機室に食事が用意されています。すぐ来て食べてください!』
「ちょうどいいタイミングだ。行くぞ」
僕たちはアナウンス通り待機室に向かった。置いてあったのは牛乳とサンドイッチのみ。だが、これからまた戦いに行くまでの短い時間ではこれくらいしか食べられないし、食べ過ぎれば吐き気を覚えるからこれくらいでいいのだ。
サンドイッチを手に取って口いっぱいに頬張ると牛乳で一気に押し流す。ずしんと井の中に入っていった感触を確かに感じ取れた。
補給作業を進める整備員の姿を見る。とても人数が足りているとは言えない状況であろうに各々が連携をとって素早く作業を進めていく。
「おいそこ!急げよ!何とろとろやってるんだ!」
「すみません!」
「あと10分で補給終わらせるんだ!そんなことじゃ間に合わんぞ!」
作業を指揮するのは整備士長の大貫さんだ。今日はいつにもまして顔が怖い。正確性とスピードを求められる状況で非常に厳しい時間の中での補給作業は彼のような人が的確な指示と注意を出すことで可能にしているのだろう。
「あと10分って終わるのか?どう思います?山内隊員」
「大貫さんがああいったんだ。無理やりにでも10分で終わらせるだろう。あの人が時間守らないなんてありえない。絶対やると言ったらやってしまう人だよ」
「そうでしょうね。あの姿を見るとそう思います」
「あと10分って言ってたな。今の間にトイレとか済ませておくんだ」
僕は椅子に座って、反町若菜から渡されたメモリを使うか悩んでいた。無制限にオーバードライブモードを使用できるというのはメリットだが、燃料消費や機体の耐久を考えるとどちらにせよ短時間しか戦えないだろう。それまでに反町隆史を討てるかはわからない。もし討てなければこちらがやられる。そう考えるとこのメモリはまだ使うべきではない。反町の用意しているであろう手段を全て看破してからでなければ。それまでは今のまま連携して戦うほうがいい。
僕は立ち上がってヘルメットを被った。出撃の前に緊張感と集中力を高めるためだ。
「そろそろ、乗り込むか」
「そうですね。整備が終わったらすぐに発進できるようにしないと」
僕たちは自分の機体に乗り込んで、計器類のチェックを行った。
『スターライト間宮機、異常はありませんか?』
オペレーターの女性隊員からの通信だ。
「異常なし。オールグリーンです」
『了解!間宮隊員、発進したら最速で高橋副隊長の救援に向かってください』
「了解です」
『先にウィッシュスターを発進させますしばらく待機』
「了解」
ウィッシュスターが格納庫から発進した。しばらくしてまたオペレーターから指示が来た。
『間宮隊員、お待たせしました。発進どうぞ!』
「スターライト。行きます!」
カタパルトで一気に加速し空中に飛び出す。エンジンを一気にふかして高橋副隊長の元へ急いだ。




