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【ナーロッパではない中世】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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70 ランダウの合戦

「―― それでは皆様、私はこのへんで失礼させていただきます」

フェリクスは椅子から立ち上がり、

「ああ、そうだ。フランカ王国軍の侵攻の機に合わせ、私を領地から引き剝がした張本人には、こちらからも後日審問の招請があるかとは思いますが、御覚悟のほどを」

と今回の陰謀に関わった幾人かの司教を見下し、最後にロドリーゴ枢機卿を一瞥した。


「わ、我々がフランカ王国と内通しており、彼奴きゃつらを手引きしたとでも申すつもりか!」

ひとりの司教が立ち上がり、テーブルを叩く。


「私が何も知らぬ孺子こぞうとお考えのようですので、こちらからもそれなりのお返しをご用意させていただきましょう」

フェリクスの不穏な言葉に、幾人かの司教が顔を見合わせ、最後にロドリーゴの方を見つめた。



結局のところ、フェリクスがシュヴァルツヴァルトに帰着する頃には、すでにフランカ王国との戦闘は終結していた。


エティエンヌからの情報通り、行軍には、侵攻を推進したとされるヴォードラン伯爵、フロワサール伯爵家、ベルナール子爵が参加。そして、その総大将として、フランカ王家の第二王子アンリの名もあったことが、皆を驚かせた。


アンリは、王位継承権第二位の王子であった。

アンリの母・ロザリアの実家、オルターヌ侯爵家の家格は、第一王子のジェラールのそれよりも高い。さらに、オルターヌ侯爵家は、侵攻を推進した三家とも仲が深かった。むしろ、今回の侵攻は、侯爵家が裏で糸を引いているという噂もあった。


戦があっけなく終わった原因は、装備の違いだけではなかった。無論、シュヴァルツヴァルト軍が用いた新型兵器の数々は、フランカ王国軍を心胆寒しんたんさむからしめた。だが、それはあくまでも止めの一撃でとしてであった。アンリたちを驚愕させたもの。―― それはジラール伯爵家の反旗であった。


シュヴァルツヴァルト辺境伯領とライン川を挟み、東西で隣接するジラール伯爵領。此度の侵攻軍は、両家の内通を理由に、ジラール伯の領地替えも画策していたが、これはあくまでも戦略上の観点から見た憶測でしかなかった。侵攻の橋頭保きょうとうほと出来る伯爵領を最初から自領にすることにより、シュヴァルツヴァルト征服後の領地運営を円滑に行うことが目的であった。―― オルターヌ侯爵家としては。


しかし、その噂がジラール伯セドリックを追い詰めた。今後、さらに発展していくことが明白なシュヴァルツヴァルトとの交易の地の利を奪われるくらいなら、フランカ王国から本当に離反した方が良いのではないか?と、セドリックは真剣に悩んだ。病気の療養を理由に、領地替えについての王家会談を先延ばしにし、裏では密にジギスムントと連絡を取ることとなった。―― 寝返るのに最良のタイミングを計るために。


マクシミリアンとテオドールが策定した「フランカ王国軍の理想の行軍ルート」をジラール伯に与え、伯に王国軍の侵攻ルートを誘導もさせた。結果、王国軍はランダウ近郊で、後背からジラール伯軍に急襲され、さらに事前に伏兵まで用意していたシュヴァルツヴァルト軍からの包囲殲滅作戦を受けることとなった。


一万五千名にも及ぶ王国軍に対し、ジラール伯軍が三千、シュヴァルツヴァルト辺境伯軍が六千ほどであったが、そこは戦術と戦略、兵器の差により、寡兵かへいであるシュヴァルツヴァルト・ジラール連合軍が、あっという間に王国軍を瓦解させた。無論、ジラール伯軍にも、新型兵器の供与が事前に行われていたところにもよる。


このランダウの合戦により、ヴォードラン伯ドミニクが、戦死。フロワサール伯ルシアンが逃走し、第二王子のアンリとベルナール子爵ドミニクが捕虜となった。王国軍の死者は二千七百名に及び、重軽傷者は四千名近くにまで上ったという。一方、連合軍の死者は合わせて四百名にも及ばず、大勝と言える数字となった。―― あくまでも数字上は。


些細な数の死者の中には、フェリクスの兄ハインツが含まれていた。



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