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【ナーロッパではない中世】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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61 証言

「やってくれたな、シャフハウゼンのやつらめっ!」


シュヴァルツブルクに戻り、行われた家族会議。

荒れ狂うテオドールを他所に、ジギスムントとマクシミリアンは冷静であった。


ここでいうシャフハウゼンとは、バーゼル大司教ステファノの実家・豪族シャフハウゼン伯爵家のことを指すが、これには不可解な点が多い。


「早馬を手配してやったシャフハウゼンの家令には、言い含めておいたのであろう、我が領内では始末するなと?」マクシミリアンが、気だるげにテオドールに問うた。


「もちろんです!必ず口頭で伝えるよう厳命したのですが……それをっ!」


「まだ、シャフハウゼンが動いたと決めつけるには情報が少なすぎる。幸い、現場はここからそう遠くない。すでに調査隊を向かわせ、現状の保存に努めるよう伝えているのだから、そう慌てるな。明日には私も現場に向かおう」溜息を漏らしながらも、テオドールをなだめるフェリクス。


「そうだな、決めつけるにはまだ早い。だが……打てる手は出来るだけ先に打っておこう。シャフハウゼンからも調査隊を派遣するよう使いを出し、此度こたびの事件を共に検証した方が良さそうであるな」様々な可能性を考慮しつつ、フェリクスに同意するジギスムントであった。



時を少し戻す。


選帝侯会議の終了後、即日、シュヴァルツブルクを経ったステファノ一向。随員の多くは、農村の代表者であり、また馬の手配もほとんど出来なかった ―― ステファノに却下されたため、大半が徒歩での帰路となるためであった。


当初、シュヴァルツブルクからも随員を加え、贈答品の数々を運ぶ予定であったが、ステファノによる頑なな拒否から、贈答品は直接シャフハウゼン伯爵家に送られることとなった。


ステファノのこの<清貧の行進>は、実際のところ、彼の随員たちからも、かなりの不評であった。


「せっかく辺境伯様が我らの荷物運びから、宿泊施設の手配までしてくれていたというのに、ステファノのやつめ、それを断りやがって」


「ああ、たまんねえな。シュヴァルツブルクでのあの毎日の美食を経験した後で、またこの腐った干し肉と保存食だけでバーゼルまで帰らなきゃならねぇって、本当やってらんねーな」


宿泊施設の確保もできず、こともあろうか、野営での食事であった。ステファノは、この「貧者の行」が、皆と自分との結束をさらに深める経験となると考えていたが、それはむしろ断絶しか生み出さないものであった。


「これはさすがにマズイですな、ステファノ様。そこら中から不満の声が上がっております」


「シュヴァルツブルクでの堕落した生活に、すっかり皆、毒されよってからに。バーゼルに戻ったら、何らかの罰を与える必要があるな。神の怒りに触れる前に」


ステファノをいさめるつもりで吐かれた近習きんじゅうの言葉に、この返答である。近習は溜息をつき、うなだれた。




「―― で、証言が割れているとは、いったいどう割れているのだ?」


ステファノの死亡原因は、「崖からの転落」であった。ステファノの他に、いっしょに二名が落ち、うち一名も死亡。もうひとりも重体で、今なお死線を彷徨さまよっているという。


「それが、ですね……盗賊に襲われたという者、シュヴァルツブルクの騎士たちに襲われたという者、シャフハウゼンからの刺客の仕業で刺客にも見覚えがあるという者、そして……自分たちで勝手に落ちたという者が……」


「はぁ? いったい何だ、それは……どうすれば、そのようなバラバラな証言になる? なぁ、フェリクス。お前はどう思う?」


調査隊との合流には、フェリクスだけでなく、テオドールも同行していた。先行の調査隊は、バーゼルの一行を全員、近隣の村に移動させ、ステファノの遺体も回収していた。だが、現場の保全という指示は、意味自体をあまり理解出来ておらず、状況はあまり芳しいといえるものではなかった。


「で、その中で多数派の意見はどれだ?」

フェリクスが口を開いた。


「多くの者たちは、ステファノとその近くにいた者たちが騒ぎ始めた時点からしか見ておらず、正直、どういう状況だったのかは分からないと……」


「なるほど……で、それは野営での食事の最中に起きたことなのだな?」


「いったい何してやがるんだ、ステファノの野郎は! こちらが帰路の準備も整え、宿まで手配してやっていたのに、それを断りやがって……完全に自業自得ではないか!」


「まあ、いい。これらの不可解な証言に整合性を持たせる説は、ひとつふたつ思いついたから、勝手に落ちたと言っている連中を中心に、何人か呼んできてもらえるかな?」


「はっ!すぐに手配いたします!」


「おいおい、この意味の分からない説明だけで何か思いついたというのか? さすがのお前でも無理がないか?」


フェリクスは、数名の村人から簡単な聴取を行った後 、「しばらく出てくる」とだけ言い残し、事件現場付近の散策へと向かった。



『名探偵フェリクス』―― 次回、謎解き編?


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