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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

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コートデナールの巨人たち(8)

「ああ……もう!見ていられません!」

 そう言いながら銀色の篭手を装着した手で顔を隠すのは、エルドラドのNPC・ステージ管理者、カラ・フォレストだ。

 コートデナール草原の中心で複雑に絡み合う彼らを見下ろす丘の上で、彼女は右へ左へ落ち着きなく歩きながら、ぶつぶつと文句を口にしていた。

「こうなることは分かっていたのに、どうして私は……。いいえ、自分達だけでと望んだのは彼らです。ですが……、それを許してフィセラ様に相談させたのは私ですし……」

 そうやって、カラは何度目かのため息を吐く。

「せめて、あの2人だけでもが協力してくれれば……」

 カラはイメージした戦場の中へ、記憶の中にあるダークエルフの双子を参戦させようとしたがやめた。

「…………意味の無いことです。ビッグホーン」

 カラは後ろに控えるNPC・ビッグホーンが名を呼ばれたために頭を下げる。


 ゲナの決戦砦にいるキャラではなく、今回のために召喚されただけのキャラだ。

 笛吹き男という支援職系のジョブだと言う理由で召喚され、さらには支援効果の発動するような魔法の行使を禁じられても、文句1つ言わない男である。

 とは言っても、希少職ではあるものの下級職である<笛吹き男>ではこの戦況を変えることは出来なかっただろう。

 最上位職の<パイパーオブハーメロン>であればまた別だが、どちらにせよ彼の役目は単なる合図を送ることだけだ。

 

「では……、アルゴルとナラレへ合流の指示を送ってください」

 吹かれる笛の音。

 その音にかき消されながらカラは呟いた。

「それが出来ればの話ですが…………」


 ジャイアント族は4つに分断され、カル王国軍はそのそれぞれを囲むように馬を走らせる。

 瞬く間に4つの大きな渦がそこに出来上がっていた。

 アルゴルは傷を負った仲間を盾の内側へ引きずりながら叫んでいた。

「これで最後だ!閉じろ!」

 アルゴルを円形の陣の中へ入れて、盾は再び閉じられる。

「隙間を作るな。すぐ近くを人間どもが回ってるんだ。差し込まれるぞ!」

 

 盾に攻撃が当たると乾いたカツンという音が鳴った。

 時折、鈍く低い音もなるがよほど一点に集中しない限りは大丈夫だ。

 問題は、あの3人だ。


 アルゴルは盾を押さえる仲間の後ろを歩きながら、しきりに外を覗いた。

 彼の指示通りに隙間なく並べられた盾を無理やりにずらして隙間から外を見ることさえあった。

「クソ!……先頭にいたあの人間はどこにいる!?」

 そこでみんなはアルゴルが特定の誰かを探していると気づいた。

「先頭って、外の敵はさっきからぐるぐると動き続けてますよ。見分けなんてつきません」

「いいから探せ!」

 その時、アルゴルはまた隙間から外を覗いた。

 そこで見つけた。

 

 先頭にいた騎馬兵の1人であるマクシムだ。


 自分達を囲んで回り続ける数百の騎馬兵。その外に長槍を構える歩兵。

 それがアルゴルたちを囲む渦の形だ。

 その渦と渦の間にマクシムはいた。


 アルゴルは隣の仲間を引き寄せてマクシムを示した。

「奴から目を離すな。動けば俺に教えろ」

 そう言い終わった時、誰かが彼を呼んだ。

「アルゴル!こっちにいるぞ!」

 その声がしたのは、丸い陣形のちょうど反対側からだった。


 大小の傷の手当を行う者。

 誰かの背中に隠れようと、集まった者達の中心にいようとする者。

 息を整えられず、戦いに慣れていない者。

 

 そんな仲間達をかき分けながら、アルゴルは自分を呼んだ者の背中を見つけた。

「どこだ?」と言って、アルゴルが近づいたのは老年の男だ。

 ゴブリンとの戦いで生き残った数少ない1つ上の世代の男である。

「ほら、ど真ん中にいる」

 

 左側にいた男・マクシムと同じような位置にその者もいた。

 中央を破ったニコラである。

 ニコラもまた、ジャイアント族を囲む列には加わらずにいた。

 

「なぜ動かない?時間稼ぎか?ここで時間を使って何になる?」

 老年の男は自陣が劣勢にあることを解っているようだった。

 それでも尚冷静さを保っている様子にアルゴルは安堵した。

 手も足も出せず負ける段階ではない。そう感じたのだ。

「……分からない。目を離すな」

 アルゴルは老年の男の返事を待たずにまた移動し始めた。


 先ほどまでと同じように周囲を確認して歩きながら、独り言を呟いた。

「閉じ込められたのは俺たちだ。だが、この盾の厚さは変わらない。あの男たちでなくては破れないはず……、なぜ追撃しない?逃がさぬために囲んでいるようだが、無駄に体力を消耗するだけだ。その内に俺たちは回復できる。別の手があるのか……」

 アルゴルは<何か>を探そうと盾から顔を出した。

 するとすぐに炎の玉が飛んできた。

 だが、それは彼めがけてではなく、ちょうどその近くを狙ったものだった。

 アルゴルは慌てる様子もなく盾に隠れて何も無かったかのようにまた歩き始める。

「外からの攻撃はまだ続くだろう。盾はその内に破られるだろうがまだ十分に保つ。いや……この状況は奴らが作ったもの……、ならこうして俺たちが閉じこもっているのも向こうの狙い通りのはず。奴らにとって嫌なことは……、そうか、それを妨害するための……」

 アルゴルが1つの結論を出そうとした瞬間、笛の音が草原に鳴った。

 それはアルゴルとナラレを指名した、合流を意味する音であった。

「ああ、やろうか!」


 アルゴルが背中の剣に手を伸ばそうとしたその時、彼の視線はなぜかすぐ近くの盾の隙間へ吸い込まれていた。


「…………なんだ?」

 隙間から見える光景は今まで見えていたものと変化はほとんど無かった。

 数え切れない騎馬兵や歩兵が入り混じる草原。緑の大地は踏み荒らされ茶色の土が見えている。

 アルゴルの勘が訴えていたのは、その光景の奥、最後尾の歩兵たちの動きだった。


 なんだあれは?

 弓?

 俺たちの使うサイズと同じか、それ以上の……。

 どこから?

 いやそんなことはどうでもいい!

 あれだ!

 あの弓があるからだ!


 地面に据えられた巨大な横向きの弓。

 すでに装填されている鉄の矢はまっすぐにアルゴルを狙う。

 アルゴルの視界ではそれは点だ。

 その点が、ある轟音の後に飛んできた。

 2つの盾の隙間を通った点はアルゴルを正確に狙ったが、当然アルゴルは頭を引いてそれを避ける。

「しまった!」

 密集した巨人たちの中へ入ってきた矢。アルゴルに当たらずとも、高確率で誰かに命中するだろう。

 それに気付いた彼が矢を掴み取らなければの話だが。

 アルゴルは手の上の矢に目を落とした。

「螺旋?なんだこの捩じれた矢は?……出血を狙ってか、抜いても止血は出来ないだろうな」

 アルゴルは、眼前まで矢が迫っり放心中の仲間に「後で投げていいぞ」と言いながら矢を渡した。

 

 そうすると、盾にいくつかの攻撃が当たった。

 今の巨大な弓のような装置が他にもあるのだろう。その証拠に、さきと同じ矢が盾を半分貫通していた。

 盾の後ろにいた巨人に触れるほど深く入ってきたわけではない。

 幸運にも少しこちら側へ飛び出る程度だった。

 その飛び出た矢は、盾を押さえる上で少し邪魔だったようだ。

 巨人の1人がその矢を押し戻そうとしている。

 その行動を止める者はいない。

 

 ただアルゴルだけが叫んだ。

 盾の隙間を縫って放たれた一発。それを放った者ならば、矢が開けた穴にもう一度矢を入れることなど造作もないはずだ。

「やめろ!抜くな!」

 ちょうどその時、矢を押し出そうとしていた巨人が自らの拳で矢を叩いた瞬間だった。

 矢は向こう側へ落ちていき、隙間から光が差す。

 ほんの一瞬だけ。

 こすれる音もなく、何かを折る音もなく、捩じれた黒い矢は蛇のように穴から頭を出した。


 矢は静かに巨人の脇腹に直撃する。

 アルゴルの注意があったからか、周囲の仲間はすぐに動いた。

 あの矢が飛んでくる方向へ盾をさらに重ね、すぐに穴も塞いだ。

 腹に矢が刺さった男はうめき声を上げているが、暴れるようなことは無い。

 それどころか、自分で引き抜こうとさえしている。


 その時、また笛の音が鳴った。

 音色が伝える指示は先ほどと同じ、合流せよ、である。


 アルゴルは数秒、カラがいる方向へ視線を送る。

 だがすぐに視線を戻した。

 その頃にはもうあの巨人の腹に刺さった矢は地面に転がっており、えぐられたような傷には包帯が力強く押し当てられていた。

 それと同時に名前を呼ばれるのは治癒を行える魔術士だ。


 この時にも外からの攻撃が止むことは無い。

 あの弓矢が盾に突き刺さる音も続いていた。


 アルゴルの首筋に血管が浮き出る。

 周囲の目は矢傷の手当を受けるあの巨人に向けられていたため気付く者はいなかったが、怒りの形相を浮かべるアルゴルがそこにいた。


 そして、またあの笛が鳴る。

 だが、もうそこに彼はいなかった。

 盾に囲まれた小さな砦の中に彼はいなかった。

 彼は、その上にいた。 

 

 

 カル王国軍精鋭隊王都守備隊隊長ジャン・パルはコートデナール草原を馬で駆けていた。

 と言っても、同じ場所を周回し続けため、草の根から掘り起こされてもはや美しい緑の大地の姿はどこにもない。

 この土を踏み続ければすぐに硬くなるだろうが、今は羽毛のように柔らかいのだろう。

 

 そんなことを考えながら、ジャン・パルは声を張り指示を下していた。

「大弓班が攻撃し始めた!魔術士は大弓班側の盾に集中して攻撃しろ!魔力が切れたならポーションを使え!惜しむな!」

 彼の言う通り魔術士にはポーションが与えられていた。

 そのため、彼らについては心配はしていなかった。

 より心配なのは、通常の騎馬兵の方だ。

「第2班との交代はまだ先だ。矢を射続けろ!槍を繰り出せ!」

 馬と兵士の熱気と、巻き上がる土と草の匂いがジャンの顔を歪ませる。

 それでも、声を落とすことは無い。

「盾を破る必要は無い。我らの役目は奴らに盾を構えさせ続けることだ!盾の内に押しとどめることだ!」

 その時、ジャンの目の前の盾が揺れた。

 よく観察すると、同じような揺れがある方向でも起きていた。

「大弓の当たる方向がざわついているな。1000年前の矢がまだ使えるかどうか怪しかったが、成功のようだな」

 ジャンはより注意深く盾を観察し始めた。

「盾が動きに注意しろ!開いたらそこへ矢でも剣でも投げ込んでやれ!巨人の姿が見えたら槍で串刺しにしてやれ!いいなぁ!?」

 

 おおお!という声が上がりジャンは満足そうに頷く。

「体力が尽きてから交代では万が一に動けん。そろそろか」

 ジャンが外の兵士に合図を送ろうとした時、少し先を走る兵士の色が変わった。

 兵士の装備が黒色に変わったのは、ある濃い影の下を通ったからだとすぐに気づいたが、その頃にはジャンは影の真下に入ってしまっていた。

 ジャンは頭を上げたが、うまく上を見られない。

 ヘルムの後ろ側がつっかえて、斜め上を見るのが精いっぱいだった。

 

 もし彼がこの戦いを生き残れたなら、ある進言を軍本部ヘ行うだろう。

 ヘルムの可動域について。

 頭上から英雄級の巨人が振って来る状況を考慮するべきである、と。

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