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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに

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拠点攻略の鉄則(2)

 大山に造られた大階段。

 そこを駆け上がる2つの影。

 ぐんぐんと上に登っていくそれは常人の速度ではない。

 <夜と闇の双星>と呼ばれるこの2人には、ただの階段など苦ではなかったのだ。

「マルナ!気を抜くなよ!どこから敵が来るか分からないぞ!」

「わかってます。それよりもこの階段はいったいいつ?」

 ミレの視線はずっと上に向いていた。進む先を警戒しているのである。

 だが、一瞬だけ視線を下げた。

 踏みしめる階段を確認したのだ。

「かなり前から魔王が現れていた証拠だ」

「だとしても、これほどのものは…………」

「ああ、<単独>じゃない。これは<軍>だ。それなら…………、勝機は十分にあるぞ!」

 

 マルナはミレの少し後方にいた。彼女は姉の背中に不安を感じた。

 なぜならば、その勝機というものが確かなものではないからだ。


「軍と共に出現する魔王が、単独の魔王よりも弱いというのは噂に過ぎません!実際に、軍の魔王の方が戦況が長引くのは事実です」

「仲間を連れてこなきゃ戦えねえ奴なんざ、相手じゃねえよ」

 ミレは明らかに冷静ではなかった。

 裏切りによるものか、戦闘を前にした高揚か。

 マルナは姉の背中が離れていくような感覚を覚えた。

 だからこそ、引き留めるためのこの言葉は仕方がないものだった。

「…………あの夜を忘れたんですか?」

「チッ!あんな猿、今の俺たちなら一瞬だ!……思い出させるな」

 ミレがそう言うと、彼女はピタリと止まった。

 数段登れば階段が終わりとなる場所だ。

 背を伸ばせばその先を覗けるだろうが、それはしない。

 ミレと同じように、彼女の後方で足を止めたマルナに声をかけた。

「後ろにいるんじゃねえ。隣に来いよ」

 呼吸に乱れは無い。

 その両の目はまっすぐマルナに注がれ、もう大丈夫だと言っているようだった。

「急いでるようだったので、先に言ってもらおうと思いましたが」

 ミレは冗談を言うマルナにもう一度舌打ちをするが、その顔は明るいままだ。

「同時だ」

「はい」

「気配は?」

「1人」

「セラ……、フィセラか?」

「おそらく、違います」

「そうか。じゃあ、肩慣らしだ」


 2人は同時に最後の階段に足を置いた。

 合図は無かった。

 それでも、2人は全く同じ動きで動いたのだ。

 階段を上り切り、その上の景色をすぐに視界に入れる。

 そのに何がいるのか。何があるのか。

 瞬時に判断し、対応しなくてはいけないのだ。


 大山に出来た平坦な場所。

 階段と同じような石でできた一本道。

 その先にある巨大な門。

 その門の前に立つ、鎧を着た戦士。


 その戦士は後ろにある門の5分の1もない。戦士が小さいわけでは無い。

 門が大きすぎることは分かる。

 それなのに、ミレとマルナは感じ取っていた。

 その戦士が一番巨大だということを。


 2人は階段の終わりと門の中間の地点でまた足を止めた。

「獣人、あれは獅子か?実物見るのは初めてだ。見たことあるか?」

「一緒に旅してきたのにあると思いますか?」

 軽口を交わしてはいるが、2人の足は重く、警戒心は少しも緩んではいなかった。


 巨大にして、荘厳な門。両開きとなるような形で、派手な装飾は無い。

 これほどの大きさは何を意図して作られたのか。

 計り知れない壮大な光景である。

 そして、それを守ろうというように門前に立つ戦士。

 

 全身鎧を纏った門番。

 おそらくはそうなのだろう。

 だが、あまりにもサイズが違いすぎる。

 これを見るものを滑稽さを感じて笑うだろうか。

 否。そんな者はいないだろう。

 

 戦士と相対しようとする彼女達もそうであった。

「感じる重圧だけでフィセラよりも強そうなのは、俺の勘違いか?」

 

 門番の首から上は獅子。

 それ以外は鎧に隠されているが、その鎧も獅子の顔同様に目を引くものだった。

 胸には顔と同じような獅子の顔。両肩にも吼える獅子の顔があり、腕には爪を剥き出しにした獅子の足が絡みつくような意匠になっている。

 太腿には小さな獅子が逆さに抱きつき、膝を獅子の顔が守っている。

 全てが獅子で出来た全身鎧。

 それを装備した獅子の獣人。


 その獅子が口を開いた。

「我が名はレグルス。城門及び城壁、門前広場ステージ管理者である。侵入者よ、貴様らの敵だ」

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