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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに

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饗宴(5)

 ミレは剣を振り抜いた。

 そのまま、カーニヴォルの肩を踏み台にして後方へ退避する。


 切れなかった……?

 刃が入った瞬間に、感触が変わったぞ!

 骨?分からん!

 くそが!


「気をつけろ!まだ動くぞ!」

 ミレはカーニヴォルを見ずに反撃の気配を察知して空中で身をよじった。

 すると、つい今までミレの体があった場所を拳が高速で通り過ぎていく。

 そうして地面に直地すると、ミレはまたすぐに体を動かす。

 今度が追撃の拳はなかったが、動き続けなければそれは来る。

 彼女は距離を取りながら、カーニヴォルの様子を鋭く観察する。

「……首が特別固いのか?いや、そんなはずない。刃が体に触れればわかる。あの瞬間、確かに<断頭>で首を撥ねられたはずだ。能力……、スキルか!?」

 

 ミレが自分の失敗と、敵の能力の1つを伝えようと、息を大きく吸った瞬間。

 少し早くカーニヴォルが動いた。

 6つの腕を広げたのだ。

 それもそれぞれを違う方向へ目いっぱい伸ばしている。

 何をしようとしているのかは、すぐに分かった。

「マルナ!捨てろ!引っ張られるぞ!」

「わかってます。……もったいない」

 マルナは持っていた投げナイフで、自分の腕につなげていた鉄線を切断し、ナイフも捨てた。

 

 それを合図にしてカーニヴォルは回った。

 突如、回転し始めたのだ。

 マルナが放った投げナイフは地面へ落ちる前に、カーニヴォルの方向へ引き寄せられた。

 カーニヴォルは自分の周囲に張り巡らされた鉄線を自分の体に巻き付けるよう、蜘蛛の巣のような鉄線を集めていたのだ。

 天井、地面、壁。いたるところに杭のように差し込まれた投げナイフが簡単に引き抜かれていく。

 その中心には、小型の竜巻のように回り続けるカーニヴォルがいる。


 ミレ達は巻き上がるナイフや鉄線に巻き込まれないよう、さらに距離をとった。

「姉さん?ピンピンしてますよ!?何が、「終わらせてやる!」ですか!」

「うるせぇ!てめぇも小細工ばっかしないで本気でやれ!なんで俺だけ正面戦ってんだ!?」

「はあ?あなたの作戦でしょう!」

 ミレとマルナは、いまだ回転しているカーニヴォルはさみながらそんな喧嘩をしていたが、同じタイミングで意識を再びカーニヴォルに向けた。


 ビタンッと時を止めたように、カーニヴォルは回転を停止させる。


「止まったぞ!もう喧嘩をやめろ!」

 動きが止まる前にそれを察知していた二人へ、シオンが少し遅れてから声をかけた。

「……わかってる。目を離すな」

 すでに言い合いをやめているミレは、静かにそう返事をした。


 だが、そうした彼女らの警戒に反してカーニヴォルの動きは緩慢としたものだった。

 ゆっくりと手のひらを肩や頭、ほかの腕に持っていき、何かを引き剝がすような動きをしている。

 手のひらが肩から離れていくと、バチンバチンと音が鳴る。


「あ~~!鉄線をそういうちぎり方すると、再利用できないんですが……」

 マルナがガクリと肩を落とす。その視線は一瞬たりともカーニヴォルが離れないままだ。

「どっちにしろ3度目は効かねえよ。気にするな」

「……そう、ですね」


 カーニヴォルは話をする2人に顔を向けていた。

 話をしているからじゃない。

 ここにいる4人の中で最も警戒をするべきだと感じているからだ。

 だからこそ、今、確実に無力化するべき相手も自ずと見えてくる。


「来るぞ!」

 ミレはカーニヴォルの下半身に力が入るのは皮膚の下の筋肉から気づいた。

 そして、次の動きも想像できた。

 カーニヴォルはミレ達の方へ出された足、その前足に力を入れてのだ。

 それが意味するのは、ミレ達の反対側へ動きだすということである。

 ちょうどシオンがいる方へだ。

「そっちだ!シオン!」


 後方への跳躍。

 それと同時に体を半回転させ、カーニヴォルはシオンと相対する。

 一瞬で間合いを埋める。

 シオンが1歩も引かなかったからだ。

 カーニヴォルは腕を天井に伸ばし指が天井をえぐった。そして、その腕をシオンに向けて下した。

 まだ、互いの攻撃が届く範囲ではない。

 シオンのもとへ飛んで行ったのは、崩れた天井から出た石や砂埃だった。


「うぅっ!攻撃?いや、目くらましか!」

 偶然にもサイズの大きな石はシオンに当たらず、砂埃がシオンの視界をふさいだだけだった。


 どこからくる?

 右?右?それとも正面?

 どこから来ても、下手に受ければ致命傷になる。

 私なら避けられる?

 いや、保険があったほうがいい。


「<ガードソード>!」

 スキル発動に従い、シオンの剣に青白いバリアのようなものが出る。

 それが奇跡だ。

 攻撃の来る前にそれが出来た。

 もう余裕は無い。

 次の瞬間には来る。

 これこそが究極の瞬間だ。

 

 コンマ一秒にも満たない時の中。

 

 声が届いた。

「う!」


 シオンは剣を持ち上げた。


「えだ!」


 頭上、真上から振り下ろされるカーニヴォルの拳。

 しかも拳は2つ。

 シオンのガードは間に合った。

 だが、止められるかどうかは別の話だ。

 

 拳の勢いの半分を失わせたが、もう半分を止めるには体を犠牲にするしかなかった。

 2つの拳が剣を押し下げてくる。

 シオンはこれ以上つぶされまいと首を折り曲げて、さらに下へと押される片刃を肩当てに置いた。

 自身の刃が装備に食い込み、肉にまで刃が届く。

 もう攻撃のスピードはない。だが、カーニヴォルは体重をどんどんとかけていく。

 さらにゆっくりと刃が肩にめり込み骨を割っていく。

「ああああああ゛!!」

 咆哮と悲鳴の混じった叫び声が広場に響き渡る。


 その声を聞きながら、ミレは憤怒の表情を作った。

「そこまでだ。てめえの相手は俺だろうが!」

 ミレが再度カーニヴォルの背中に上り、その首にめがけて剣を振るう。

 

 それを待っていたかのように、カーニヴォルの手がミレの伸びる。

 ミレは怒りから、その腕に気づいていない。

 もとから、気にしてもいなかった。

 

 背中を任せた者がいるからだ。


 マルナの手には、短剣や投げナイフではなく、槍が握られていた。

 持ち手は身長と同じほどで、刃渡りを含めると2メートルほどの槍だ。

 その槍がマルナの振りかぶりにより大きくしなり、攻撃の瞬間を待ちわびているようだった。

「<2連>!<三日月狩り>!」

 ミレをつかもうとする手にめがけてスキルが放たれ、2本の腕は2つのスキルに相殺された。

 

 邪魔のなくなったミレは全力で仕掛ける。

「<断頭おぉぉ>!!」

 これで首を断てれば最高だ。

 だがこの敵がそんな弱くないことは彼女もわかっている。

 だから確認したかった。

 カーニヴォルの<スキル>をだ。

 さっきとは違い足を背中につけた状態なら、カーニヴォルの肉体の変化をより正確に感じ取れる。


 きた!

 これは硬化?

 筋肉に動きがないから、魔力からくる<硬化>か!

 めんどくせぇなぁ!


 ミレは<断頭>をそのまま放つことを躊躇った。

 首にめがけて使用しなければ威力が半減するスキルだが、すでに硬化しているのなら全力だとしても意味はない。

 ミレは素早く背中から降り、<断頭>をカーニヴォルの右足に向けて放つ。

 当然威力は低い。

 カーニヴォルのバランスを崩すほどの効果は出ないが、シオンへの攻撃の意識を薄れさえるには十分だった。

「シオン逃げろ!足は動くだろ?動け!」


 ミレの怒号はシオンに届いていなかった。

 カーニヴォルからの重圧が消えたことで、シオンは体から力を抜いてしまう。

 地面に膝をつき、薄れる死の気配を感じる。

 痛みはすさまじく、左肩から先はピクリとも動かない。

 だが、まだ気力を使い果たしたわけではない。

 何とか、立ち上がろうと剣を地面に突き立てる。

 

 その時、その手を誰かが優しく包み込んだ。

「少し休みなさい。無理をしすぎよ」

 タラムがシオンの隣にいた。

「…………ルビーナ?」

 激痛の中でシオンがタラムの真の名を呼ぶ。

 

「お前ら何してる?早く離れろ!」

 ミレの怒号が2人に投げられるが、タラムの表情は穏やかなままだった。

 そんな隙だらけの2人をカーニヴォルが見逃すはずも無い。

 1撃。

 シオンにとってはとどめの1撃となる攻撃がカーニヴォルから放たれた。

 

「<エイムコントロールオフ><効果範囲極小>」

 タラムはある魔法を発動させながら、迫る拳に手を伸ばす。

 当然、カーニヴォルの攻撃の方が速い。

 タラムが腕を伸ばしきるずっと前に、カーニヴォルの拳が届く。


 だが、それがタラムの手に触れることは決してなかった。


 接触まで3センチ。

 そこまでカーニヴォルの拳が近づくと、突然、拳は速度を落とした。

 ねじ曲がり、回転し、拳の向かう先がカーニヴォルの顔へと向き変わる。


 そして、速度は高速へと戻る。


 シオンを仕留めようと放ったはずの攻撃が、自分の顔面目掛けて飛んできた。

 自分の顔を自分で殴ったのだ。


 カーニヴォルの威力。カーニヴォルの速度。

 回避も防御もできずに命中した拳。さすがのカーニヴォルも後方へ倒れてしまう。


「よおぉぉし!」

 その様子を見ていたミレは思わずガッツポーズをとる。

「え?どうやって?」

 テンションの高い姉とは違い、起きた事態を信じられないマルナ。

「気にするな。とにかく仕切り直しだ!」

 2人はすぐさま、シオンとタラムのもとへ駆け寄った。

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