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梟の王子と鳩の王女  作者: 八刀皿 日音
Ⅳ章 闇に奸計狩るは梟、誇り高く舞うは鳩

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14.〈黄金よりも貴重な銀〉


「どうなるというのですか」


 今にも飛びかかりそうなアスパルや王を抑え、冷静な声とともに一歩前に出たのは……当のマールだった。

 威風堂々という表現が見事に当てはまる態度で、老貴族を見据える。


「無論、お前の化けの皮が剥がれると言うことだ……!

 王女の名を騙りし皇国の亡霊めが!」


 言いながら後ずさるバシリアは、マールの気迫に押されたようにも見える。

 しかし――彼の退がる先には、赤々と燃える部屋の暖炉があった。


 その火へと、バシリアは首飾りを近付ける。


「〈黄金よりも貴重な銀〉は、その硬度もさることながら、通常使われていたいかなる炉をもってしても融かすことは出来なかったという……!

 反面、それを覆い隠すため、この首飾りの装飾に使われた合金は、外見と細工の容易さを重視しただけのものだ……!

 炉など使わずとも、この暖炉の炎で充分融解するだろう……!」


「つまり、それを暖炉の中に投げ込めば、偽りの姿が崩れ、正体を現す――というわけですか。

 ……いいでしょう、やってみなさい」


 マールはバシリアを挑発しながら、さらに一歩、足を踏み出した。


「――ただし。

 お前自身先に言ったように、その首飾りは両親から贈られたもの。

 高価な宝石などは使われていませんが、そんな価値などは関係なく、私にとっては大切な宝物なのです。

 それを……無理から奪った挙げ句、火に投じるという蛮行がどういう意味を持つか。

 充分に分かっているのでしょうね……?」


 マールの声は静かながら――逆にそれが、ぞくりとするほどの威厳と圧力を醸し出していた。

 並の人間なら、あるいはそれに屈して自信を失い、その手を止めていたかも知れない。


 だがバシリアは、それすら最後の悪足掻きと見たのか、ニヤリと笑い――


「もちろん分かっているとも――。

 これで、お前たちの目論みも終わりだということがな!」


 暖炉の炎の中へと、躊躇いなく首飾りを投じる。


 水の雫と、それを支える2人の人魚――。

 そんな姿を象った首飾りは、多くの人が固唾を飲んで見守る中、まるで焚刑に処されたかのようだった。


 やがて、その可憐で美しい姿は炎の中、徐々に崩れ、失われてゆき――。




 そうして、最後に残されたのは――。


 くすんだ鼠色の金属が、どろりと液化したものだけだった。




「な――! ば、馬鹿な……そんな馬鹿な!?

 ――ええい、どこだ、一体どこに……!」


 色を失ったバシリアは、側にあった火掻き棒で首飾りの成れの果てをまさぐるが……固体らしきものは、まったく姿を見せない。



 ――そして、この結果に驚いたのは……。

 様子を見守るしかなかったレオも同じだった。



「……どうなってる?

 アイツが持っていたのは、確かにあの夜、僕がアイツに突き返した本物のはずだ。

 あの後、すり替えられたようなこともない、なのに――。

 ……いや。まさか……!」


 レオは手の中のもう一つの首飾りを裏返すと……。

 そこにある、小さな引っ掻き傷らしきものに自身の短剣をあて――さらに引っ掻く。


 果たして――。

 水の雫にあたるその場所は、いかに刃を立てようとも、果実の表面の皮が剥がれるように銀の屑が削れるだけで。

 内から顔を覗かせた別の銀色の面には、まったく傷が付かなかった。


「やっぱり……こっちが本物だ……!

 と、いうことは――あの引っ掻き傷、あれは僕が不注意で付けたわけじゃなくて……マール自身が、自分の出生に疑問を抱いたとき、その証拠を確かめるために付けたものだったんだな……!」


「だが……すり替えられたわけじゃねえんだろう?」


 ロウガのもっともな質問に、レオは苦笑を漏らす。


「……くそったれめ……!

 アイツは自分の出生に気付いたときから、こんな風に首飾りをその証明に使われる可能性を考慮してたんだ。

 だから、僕が細工を出来ると知って、複製を頼み――そして、あの夜。

 僕が、差し出されたものを突っ返すのを計算に入れた上で……一度自分の部屋に戻ったときに、初めから、本物と複製を取り替えてやがったんだ……!」


「で、それを分かっているからこそ、あの場で挑発をかけて追い込んだのか。

 ……まったくもって、女ってやつは」


 やれやれと、合わせてロウガも肩をすくめた。




「――ロクトール」


 ……静まりかえった部屋の中に、王の呼びかけが響く。

 それに反応し、弾かれたように振り返ったバシリアは――さながら、失敗を見咎められた子供のようだった。


「……すまぬな。

 長く国に仕えてきてくれたお前だというに、わしはお前のことを正しく理解してはいなかったようだ。

 まったくお前が先に言った通り、目が覚めた思いだ――」


 当然、烈火の如き叱責が飛ぶと思っていたその場の全員が……穏やかな調子で謝罪の言葉を繰り出した王に、驚きを向ける。


「国家の重鎮ということもあり、これまで当然のように多くの難事を任せてきたが……思えば、お前も老境。背負いきれぬほどの疲労が溜まらぬはずもない。

 それが、お前ほどの傑物をして、このような妄動に走らせたのだろう……」


「へ、陛下、何を……!」


「ロクトール。これまでの長きに渡る忠勤に報い、此度の騒動については不問に付す。

 それとともに、今この時をもって、王宮での一切の勤めを解こう。もはや激務に煩わされずともよいのだ。

 ……そうだな――特別に、ゆるりと静養するに良い地を与えようではないか。

 これよりは央都を離れ、その地にて、病むほどに疲れた心を慰めよ。

 その余生を、ただ穏やかに過ごすがいい……」



 王の言葉を聞いて屋根上のロウガは、ほうと感嘆の息を漏らす。


「……えげつねえが、見事な処断だな……。

 ここで厳しく罰するのは簡単だが、そうするととことんまでやらなきゃならなくなる。

 だがその場合、主義主張はどうあれ、国の一角を担ってきた大貴族の一族がごっそり抜けることになるんだから、ヘタすりゃこの国そのものが混乱しかねん。

 ゆえに、適当な理由を付けて国の中枢から追い出し、僻地に閉じ込めて、あとは生かさず殺さずってわけか……」



 バシリアは、なおも自らの主張を口走っていたが……見守る諸侯たちの様子からして、もはやそれに耳を貸す者がないのは明白だった。


「……アスパル」


 王の呼びかけに一礼すると、アスパルは屋敷に常駐している兵士を呼ぶ。

 そして、暖炉の前でただ狼狽えるばかりのバシリアを拘束させると、部屋の外へと連れ出した。


「屋敷へ送ってやれ。

 ――ロクトール、その様子では大祭への列席も難しかろう……特別に欠席を許すゆえ、己の屋敷で養生しておれ」


 悲鳴とも怒声ともつかないバシリアの声が遠ざかっていく。


 それに合わせて、諸侯も姿を消していき……。

 やがて王が出、そして最後にマールが、明かり取りの窓を見上げて小さく一つ頭を下げ――部屋を後にしていった。



「ふぃー……。

 今度こそ本当に、何とかなったんだよな?」


 部屋に人が居なくなったのを確認してから、ロウガは盛大に屋根の上に転がった。


「ひとまずは、な。

 ……にしても……」


 レオは首飾りを改めて見直してみる。


「まさか、与太話だと思ってた幻の金属が、本当にあったとはな。

 しかし……こいつの実在で、ようやく予測が付いた」


「……あん?

 ああ……なるほど。あの鉄箱の中身、だな?」


「ああ。今回の件、どうしてゾンネ・パラスが絡んでいるのか疑問だったんだが……。

 後で、アスパルあたりに確認を取る必要がありそうだ」


 言って、レオは首飾りを懐にしまって立ち上がった。


「さて……ともかく、夜が明けきる前に戻ろう。

 ――折角の祭りだ、見過ごす手はないだろう?」




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[一言] 辺境でスローライフキターーー!!!!(大歓喜)
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