クリスマス・イブ その3
「あの、聖女様…ですよね?」
私たちが引き続きクリスマス・イブの街を散策していると、後ろから声をかけられる。
信者に向けるための柔らかく穏やかな顔に切り替え、振り向く。
「バレてしまいましたか?」
「あ、あの。この街に来ていただいて…祈りを捧げていただき、本当にありがとうございます!」
「私が祈ることで、少しでも皆様方の心の平穏に繋がったとしたら、私も本当に嬉しいです。」
「よろしければ握手などしていただければ…」
「ええ、私などでよろしければ。あなたにも神のご加護が御座いますよう。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
立場上、信者の方を無碍には出来ず真摯に対応していると、たくさんの人たちが聞きつけ押し寄せてくる。
「あの、俺とも握手してもらえますか!」
「ええ、あなたに神のご加護が御座いますよう。」
「今度子供が産まれるんです!祝福していただけますか!」
「まぁ、それはそれは。おめでとうございます。少しお腹を失礼しますね。平穏無事で健やかに産まれますよう、神よ、どうかお見守りください。」
「今日の祈りを見て、少ないですが教会に寄付させていただきました!」
「本当ですか?ありがとうございます。神はあなたの行いをご覧になっておりますよ。」
押し寄せる信者を一人一人対応する。
これは収拾がつきそうにないな。きりの良いところで撤収して帰ろう。
そう思った最中、急に後ろから体を引き寄せられる。
「皆、すまない。実はこれから聖女様を領主館にお呼びして、今日の来訪の労いとして歓待させてもらう予定なのだ。解放してやってくれないか?」
お姉さまはトナカイの仮装を外し、私を横に抱きながら、キリッと締まった顔に、どこまでも通りそうな声で信者の方々にそう伝える。
途端に私の周囲からは信者の方々は一礼してハケていく。
「では、行きましょうか。聖女様?」
「え、ええ。」
私はお姉さまに優しく、だが有無を言わさぬような形で手を引かれてゆく。
お姉さまの表情は、いつもに比べて少し冷ややかに感じる。
街から少しはずれた領主館に向かうにつれ、人気がなくなる。
「ありがとうございます。お姉さま?」
「ああ。」
「…何か怒っていらっしゃいますか?」
「…いや、リシアには怒っていない。あえて言うなら自分にだろうか…。」
「どうされたんですか?」
「リシアは神託の聖女で、みなに愛を注がなければならない立場でもあるということを改めて理解させられて、少し寂しい気持ちになった。当たり前のことなのだけどな。」
「聖女としては失格なのでしょうけど…。お姉さまのことはとりわけ愛しております。」
「わかっているよ。だから、これはしょうもない私のヤキモチだ。リシアが神託の聖女などでなければ良いのになどと思ってしまう。」
「ふふ。そうですか。」
私はお姉さまにとびきりの笑顔で話しかける。
「でも、帰れば私は何でもないあなたのリシアですよ?」
「リシア…。今ここで抱きしめて良いか?」
「ダメです。って言っても聞かないんでしょうけど…。」
後ろから抱きついてくるお姉さまのせいで歩きにくいな、と思いため息をつく。
このままともに歩いて帰るのは少々骨が折れそうだ。




