胴着/味付け
物は少ないが、生活感のある部屋。
殺風景ではないものの、シンプルで堅い。
だが時折おいてある小物がどれもファンシーで持ち主の性格を伺わせる。
「これがお姉さまの育ったお部屋ですか…。」
「まぁそうなるな。」
私は今、領主館のお姉さまの部屋に来ている。
お姉さまの故郷に来たら真っ先に来てみたかったところだ。
小さい頃のお姉さまはここで育ったのだと思うと、少し興奮する。
「何か、感動しますねえ…。」
「そんな要素ここにあったか?」
「あるんですよ。」
あるんですよ。いっぱい。
「そこに掛けてるのは小さい頃のお姉さまの胴着ですか?」
「ああ、そうだな。みるみる背が伸びてしまって今は着れないが、努力の証だ、今も残してある。」
「なるほど。お姉さまの汗と努力が染み込んでるんですね。」
「妙に嫌な言い方だな?」
お姉さまにしては妙に小さい(とは言っても一般女性サイズだが)使い古された胴着が、壁に一着かけてある。
不思議と魅力を感じてしまう。
「ああ、なるほど。そういうことか。」
お姉さまが何かを得心したかのようにうなずいている。
どうしたんだろ?
「リシア、着てみるか?サイズは合うと思うぞ。」
「え、どうしてですか?」
「さてな?」
お姉さまは含みを持たせた笑顔で私を見つめる。
「それではせっかくなので…。」
ドレスの上から軽く羽織ってみる。
サイズはぴったりだが胸のところが少し苦しい。
だがこれは…これは…!
「リシアなら好きだと思ってな?」
体をお姉さまのにおいが包む。
まるで後ろから抱きしめられているようだ。
安心するし、幸せになれる。これはいい--
「って、お姉さまの馬鹿!!」
私がにおいフェチみたいではないか。
お姉さまのみぞおちに肘を入れておいた。
◆ ◇ ◆ ◇
夕食の時間。
私たちは食卓へと案内される。
「お嬢様が帰ってこられると聞いて、今日はお嬢様の好きな物をたくさん手配しておきました。」
「ありがとう。アラン。」
今日の夕食はアランさんの手配のようだ。
並べてある料理を見る。確かにお姉さまの好物らしい食べ物が並んでいる。
「「「いただきます。」」」
私たちは冷めないうちに夕食をいただくことにする。
さっそく料理に口をつける。うん、美味しい。
私はこの味付けがとても好きだ。でも。
「ごめんなさい…塩とウスターソースを持って来ていただけると…。」
人様の家の料理に調味料を頼むのは良くないのだが、近くに控えていた使用人さんにこっそりそうお願いする。
アランさんはチラリと私を横目で見るが、仕方ないんですもの。だってこれ。
「んん、うん。そうだな…塩を持ってきてもらっていいか?」
「はい、お姉さま。もう持ってきて貰ってますよ。」
そう言って私は持ってきて貰った塩を差し出す。
この料理、お姉さまの好みにしては薄味なのだ。
「リシアは気が利くな。ありがとう。」
「いえいえ。ウスターソースも持ってきてもらったので、良ければお使いください。」
私はこの薄味も好きなのだが、お姉さまには少し物足りない。
お姉さまは鉱毒の影響で、普段口の中で金属味がするらしく、多少濃いめに作らないと味がわかりにくいみたいで、普段気を遣っている。
でも、ひさびさの出会いならなかなかわからないだろうし、仕方ないと思う。
「うむ。美味しい。」
機嫌良く美味しそうに食事をとるお姉さまを眺めながら、私も美味しく料理をいただいた。




