あなたの故郷
「見えてきたな。あの川を越えた先からローエンリンデ領だ。」
お姉さまは馬車から遠い先を指さす。
目が良いなぁ。私にはまだ見えない。
「もうすぐローエンリンデ領ですか。意外と早かったですね。」
まだ旅立ちから五日目の午後だ。後二日かかると聞いていたが。
「ここからまだ掛かるのだがな。うちは何も無い分とにかく領地が広い。同じ領地の遠い分家筋が残ってるのもそのお陰だな。」
「ああ、鉱毒の被害をあまり受けなかったんですね…。」
なるほど、馬車で二日かかるとなるとさすがに別の地域に近い。
しかし、もう少しでお姉さまの領地であることには変わりない。
気を引き締めないとな。
「ん、どうした?リシアからくっついてくるとは珍しいな。」
「何があるか解りませんからね!警戒しないと!」
「ふふ、そうだな。私もリシアにくっついておこう。」
そう言うとお姉さまは私の頭頂にあごを乗せる。
「毎回毎回そうされるとそのうちそこから禿げてしまいます。」
「良いんじゃないか?そうなれば私の愛の証だな?」
「私が嫌に決まってるでしょう。」
頭頂だけツルっと禿げた頭。想像するだけで嫌だ。
どうにか回避しようと暴れてみるが、お姉さまの力にはかなわない。
「大人しくしてないと、何があるか解らないぞ?」
「むしろ危ないのはお姉さまな気がしてきました!」
◆ ◇ ◆ ◇
「ここから、お姉さまの領地ですか。」
橋を渡り、川を越える。
特に何かが変わったわけではないけれど。
ここからがお姉さまの生まれ育った土地と思うと、少し感慨深い。
「そうだ。ふふ、何もないだろう?」
「いや、そんなことは…ありますね。」
「そうなんだよ、変に取り繕ってくれるよりいい。」
本当に一面何もないところだ。
領地の端というのもあるだろうが。
「ここは、何の畑なんですか?」
「麦畑だな。夏にくればそれなりに壮観だぞ?」
「良いですね。夏にまた来ましょうね?」
「どうせそのうち嫌でも毎年見ることになるだろう?」
お姉さまはそういうと一際私を強く抱きしめる。
「それはそれ、これはこれですよ。」
私はお姉さまのその手を強く引っぱたいた。




