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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第六章 次こそ君を
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断章・剣戟の先に

仕事を終え、誰が待つわけでもない家に一人帰る。

すっかり遅くなってしまった。今日も遅くまで残業だ。


就職で一人暮らしを始めたとき、一つのルールを決めた。

毎日の食事はなるたけ自分で作ること。食事のレベルだけは落とさない。

食に人より多少こだわりがあるので、自分で作ってしまうくらいが良いのだ。

だから、遅くなった今日も夜ご飯を自分で用意し始める。

私以外誰が食べるわけでもないが。


食事を用意して、パソコンの前に配膳し食べ始める。


「あっ、このきんぴらごぼう、良くできてるな…。」


一人暮らしが長いからか、独り言を呟く機会がどうしても増えてしまった。

しかし、それにしたってこのきんぴらごぼうは美味しいのだ。この気持ちを誰かに共有したいのだが。


「レベッカ様、お食べになられます?」


私はパソコンの壁紙に映る一人の少女の口元に端を差し出す。

彼女の名前は、レベッカ・ローエンリンデ。PCゲーム「剣戟の先に」のキャラクターだ。

一目惚れ、というのだろうか。彼女が剣を構え相対するシーンのCGを見たとき、私は彼女の虜となった。


「食べれるわけないですよね。」


少女は何も答えない。当然だ。彼女はゲームのキャラクターでしかない。 


「何やってんだろうなあ。私。」


ただ、独り身の寂しさが肩に重くのしかかった。


◆ ◇ ◆ ◇ 


「ひさびさにあのシーンが見たくなったな。」


私がレベッカに一目惚れする原因の、剣を構え相対するCGだ。

私はそこに一番近いセーブデータを起動する。

場面は大晦日、ダンス会場。

彼女は攻略キャラや主人公といった類ではない。悪役令嬢だ。

悪役令嬢レベッカ・ローエンリンデは、この場で断罪される。


「王国の皇太子、エドワードが我が婚約者レベッカ・ローエンリンデの罪を告発する!」


そう言ってダンス会場のステージに登壇するのはエドワード皇子。メイン攻略キャラの一人だ。


「エドワード皇子殿下。これはどういうことですか。」


レベッカはつとめて冷静にそうエドワードに訪ねる。

いつ見ても表情の変わらない、冷酷無比の強い人だ。


「レベッカ・ローエンリンデ。貴様は神託の聖女、リシア・エヴァンスをゴロツキを雇い、誘拐し殺そうとした。この罪を認めるか。」

「その事件につきましては、私が関係ないことは証明したはずです。謝罪や賠償もしたはずですが?」

「謝罪や賠償だけで攫われて殺されそうになったリシアの心が慰められるとでも!?」

「例えそうだとしても、私にそれ以上の償いは出来ません。エドワード皇子殿下は私に何をお望みですか?」

「うるさい。とにかく、貴様が首謀者であることは新たな調査で判明している。」

「それは、王家の調査ですか?」

「ああ、そうだ。」

「…なるほど。もう猫を被っている必要もなさそうだ。」


出た。元々レベッカはこんな話し方の人間ではない。男らしいような、粗雑で強い話し方。

このイベントの時にはエドワードとレベッカの関係はすでに冷え込んでおり、人前では他人行儀な、丁寧な話し方をする。私はそれが好きではなかった。


「で。エドワード。重ねて聞くが、私にそれで何を望む?」

「まずはリシアへの謝罪だ。」

「リシア・エヴァンス子爵令嬢。改めて謝罪申し上げる。我が領で起こった事件は我が責任でもある。心痛悼み申し上げる。」

「それで、罪を認めるのだろうな?」

「認める以外の選択肢はあるのか?」

「いちいちしゃくに障る女だ。」


確かに、王家の調査に異を唱えることは難しい。王家自身に異を唱えることと変わりないからだ。

だが、ローエンリンデほどの大きな公爵家ならそれも不可能ではないはずなのだが。


「それで。何度も言っている。お前は私に何を求める。」

「神託の聖女殺しを企画した大罪人、レベッカ・ローエンリンデ!貴様に婚約破棄と、罪の再審理を求める!…ただで済むとは思うな。」

「そう言うことか。…エドワード。()()()()()()()()()()()()()()

「明日の元日、正午に正式に婚約破棄となる。」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


来るぞ、あのシーンが。

レベッカは、どこからともなく剣を抜き、リシアに向かって突きつける。


「リシア・エヴァンス。エドワードの婚約者、レベッカ・ローエンリンデが貴女に決闘を申し入れる。婚約者を奪われた愚かな女の申し入れ、受けてくれるか。」


その台詞と共に、CGが現れる。

このCGは本当に芸術だ。


「はぁー、たまんないなあ。どうしてレベッカ様は攻略出来ないのか…。」


私はCGを堪能した後、ソフトを閉じ余韻に浸る。

この後はただレベッカが決闘に負け、死を迎えるだけだ。見てて気持ちいいものではない。


「っと、もうこんな時間か。明日も仕事ーっと。」


私はPCを閉じ、寝支度を始めようとする。


「おやすみなさい。レベッカ様。」


そう壁紙の少女に声をかけ、電源を切った。



私も猫を被ったレベッカは気持ち悪かったのでもう書きたくないです。

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