嬉しい
結局、カイト様とシンシア様の勧めで翌日1日ゆっくりと休養した。
その日の最後の方にはお姉さまに会ってない寂しさが募って、恋しくなり、少し冷静になれた気がする。
明日は会いたいなあ。
そう思いながら明日のお弁当の用意をする。
冷静になると、私自身怒りすぎたことをよく実感する。
申し訳ない気持ちも沸いてきて、お詫びではないけれど、せめて豪勢なお弁当の一つでもと思い前日に下準備を済ませておく。
カツサンド、ハンバーグ、焼き魚。今まで反応が良かったおかずを手当たり次第に用意して準備しておく。
「これ、食べきれるかな…。」
準備が終わった頃にはそれはもう莫大な量のおかずになっていた。
「まぁ、今のお姉さまなら食べるでしょ。」
そう自分に言い聞かせてひときわお弁当を用意した。
◆ ◇ ◆ ◇
翌朝学園にて。
何時もより早い時間に教室に着くが、お姉さまの姿はない。
いつも早いのに珍しい。
そう思いながら待つことしばらく、開始の時刻の直前になってお姉さまが駆け込んでくる。
「お姉さま!」
「リシア!」
目が合った瞬間溢れそうになる気持ちを抑えて話しかける。
「その、一昨日はごめんなさい…。」
「いや、私こそ…。」
「私が怒りすぎました。」
「私が無神経すぎたんだ。」
二人とも自分が悪いの平行線で話が進まず焦る。
「えっと、じゃあお姉さまが悪いです!」
「そうだな、私が悪い!」
「なんかよくわからねえ会話してる前に授業準備を始めた方がいいんじゃねえか?」
見かねたカイト様が助け船を出してくれる。
「そうですね、じゃあちゃんとしたお話はお昼の時間に!」
「ああ、そうだな!」
私たちは弾かれたように授業の準備を始めた。
◆ ◇ ◆ ◇
そしてお昼休み。
「…川、行きます?」
「ああ、そうしよう。」
いつものように川へ向かおうと席を立つ。
だが今日は様子が違う。お姉さまが手ぶらじゃない。
「あれ、そのお荷物、なんですか?」
「これはだな、その、リシアのお弁当を作ってみたんだ…。リシアが作って来てくれるお弁当は私が全部食べれば何とかなるかと思って…。」
お姉さまが、お弁当一式全部作って持ってきてくれた。食べ物で仲直りしようと思うのが、お姉さまらしい。
どうしよう、嬉しい。今飛び上がってしまいたいくらい嬉しい。
でも、困った。
「…どうしましょう。私、二人じゃ食べきれるか怪しい量のお弁当持ってきたんですけど…。」
「…黙って持ってきたのは私だから、リシアの作ってきたお弁当を…」
「いや、私はお姉さまの作ってきたお弁当食べたいです。残った分は二人のお夜食にしましょうか。」
「そうしてくれるか?」
一応の決着をつけ、歩き始める。
いつもより言葉少なだが、雰囲気は悪くない。
「もしかすると、昨日もお弁当作ってきていただいてました…?」
「いや、そんなことはないぞ?」
「じゃあ昨日来てたら食べられなかったんですね、残念だなあ…。」
「それは…。」
「ふふ、冗談です。昨日のお弁当は無駄にさせてごめんなさい。」
お姉さまの反応で二日連続作ってきてくれていたことがわかる。
単純かもしれないが、踊り出したいくらい嬉しいのだ。
そしていつもの場所へたどり着く。
「お姉さま、いっせーのーででお弁当開けましょう!」
「ああ良いぞ。」
「では、いっせーのーで!」
開けた二人のお弁当のメニューは非常に似通っていた。
種類は私の方がかなり多いが、ほとんどのメニューがお姉さまのお弁当に入っている。
「…ほとんど一緒だな。」
「なんとなく、こうなる気がしたんですよね。」
「そうなのか?」
お姉さまは不思議そうに私をみる。
でも、私には解ってしまった。
「お姉さま、私が喜んでくれそうなメニューを一生懸命考えてくれたんですよね。」
「ああ。そう言えば私はリシアの好きなものをよく知らないと思って。自分なりに考えて見たんだが…。」
「合ってますよ。このメニューで。だって、私が好きなのはお姉さまの笑顔ですから。」
そう、お姉さまはたぶんお姉さまなりに一生懸命に考えてくれたのだ。好きなメニューを。
それで、私がよく選んだり、嬉しそうに食べるものを記憶から引き出してチョイスしたはずだ。
でも、それはお姉さまが喜んでくれるからで。
「ねぇ、お姉さま。私はお姉さまが大好きです。好きなものと言えば、だいたいお姉さまに関わるものです。」
「なんだかこそばゆいな…。」
「だから、私の好きなお姉さま自身を疑われて、悲しかったんです。他の人から告白されたくらいで、私のお姉さまの信頼は曇ったりしません。」
「…ああ。カイトたちからもそう聞いた。」
「でも、このお弁当に免じて許してあげます!今、本当にすっごく嬉しいんですよ?」
だってここまでしてくれると思わなかったから。
お姉さまなりに仲直りしたくてたくさん努力してくれたのが詰まってるのがわかるから。
もう、それだけで何でも許してしまいそう。
「私は未だに、自分に自信がない。努力はするが、またすれ違うことはあるかもしれない。」
「いいんですよ、自信を持てるまで愛してあげますから。喧嘩したら仲直りしましょう。その時はまた、お弁当を。」
「リシア、ありがとう。」
お姉さまは安堵したように笑みを浮かべる。最近は笑うのも上手になった。
「では、私はお姉さまの弁当を堪能しますので。お姉さまは出来る限り食べてくださいね?私のお弁当。」
「なっ、リシアは手伝ってくれないのか?」
「私はお姉さまのお弁当でお腹いっぱいでーす。」
私のために私だけのお姉さまのお弁当。
それは何物にも変えられない。




