哀しみ
学園を早退して、お父さんとお母さんには適当に理由をつけて話し、早々に自分の部屋の布団へ潜り込む。
自分が冷静でないのは良くわかっている。今日はただ1人になりたかった。
「お嬢様、お知り合いが来られてますが…。」
「レベッカ様でしょ?体調不良だから会えないって言ってもらえますか?」
「いえ、そうではなく、ハミルトン侯爵家の令息とそのお連れ様でございます…。」
お姉さまではなくそちらか。
さすがに追い返す訳にも行かず、会う用意をする。
「よお、リシア嬢、見舞いを持ってきたぜ?」
「以前こちらのケーキが好きと伺ったので。よろしければどうぞ。」
「ありがとうございます…」
カイト様とシンシア様がいつもの店のケーキを持ってくる。
良くお姉さまと行く追いハチミツの店だ。
「ご存知だったんですよね。お二人は。」
「ああ、すまんな。レベッカ嬢が昼にリシア嬢と川に行かねえもんだから、なんだと様子を見てたらついな。」
「レベッカ様からご相談があればすぐさまお諫めしましたけどね。」
二人とも基本的には私寄りのスタンスのようだ。
気づいた時には手遅れで、どうにか庇いたてしようと頑張ってくれていたんだろう。
「で、リシア嬢。一応何があったか聞いても良いか?」
「何に怒っているのか、ある程度予想はしているんですが。リシア様の口からお聞きしたいです。」
愚痴は他人に話せば楽になる。この人たちはわざわざそのために着てくれたのだろう。いつも申し訳ないな。
「ちょっとお待ちくださいね。いただいたケーキを切り分けて貰いますから。」
何もお出しせず対応するのも悪いと私はお茶といただいたケーキに加えてお茶菓子を出すようお願いした。
◆ ◇ ◆ ◇
「あの人が嫌って言うから私は気を遣ってたのに、私に対して気を遣ってくれないのがすごく腹がたったんですよ!」
「レベッカ嬢なりの気遣いではあったと思うぜ?」
「リシア様が知られて不安になるよりは隠しておこうと思われたのでは。」
「私、そんなことで不安がりませんよ!だって、あのお姉さまが私以外を見ると思いますか!?」
「それはないな…。」
「あり得ませんね…。」
「お姉さまは良いですよね!私のこと勝手に浮気してるって疑って、不安になって。隠し事はしないでくれって。私だってお姉さまのこと大好きですよ!!」
「(もう口から砂糖が出てき始めたんだが)」
「(お茶です、お茶を飲みましょうカイト様)」
「だのに自分は勝手に隠し事して!自分が嫌って言ったこと私にやるの、どうかと思うんです!」
「そりゃまぁなあ…。」
「それはレベッカ様が悪いですね。」
「何より、私が一番腹がたったのは、私のお姉さまへの信頼を疑われたことですよ!私への信頼は、私が作ります。私が信頼されていないなら、私が善処するまでです。でも!私が一番好きで信頼してる、お姉さまへの信頼を!…疑われるのは、とても悲しいです…。」
何より、私が愛した人を疑うのは、その人本人だとしても嫌だったのだ。
いつだって私は、お姉さまにお姉さま自身も愛してもらえれば良いなと思っていたのに。
お姉さまのこと、もう二度と疑わないと。
妹と宣言してくれたとき、決めたのに。
「私だって、自分が冷静じゃないことくらい、解ってますよぉ…。でも、許せなかったんです…。」
「あー、リシア嬢。お前の気持ちは良く解った。」
「レベッカ様にもリシア様の思いは懇々と説いておきますから。」
「ごめんなさい、私も感情的になってるんです…。」
止めどなく流れる涙を抑えようと堪える。
今ここで泣いても、二人を困らせるだけなのに、涙が止まらないのだ。
「とにかくだ。リシア嬢は今は頭を冷やした方が良いな。」
「明日目覚めてまだ落ち着かないようなら休まれた方がよろしいですね。」
「レベッカ嬢にはリシア嬢が落ち着くまではそっとしといてやるよう言って聞かせておくから。安心して休め。」
そう言って私の背をゆっくりと撫でてくれる二人。
どれだけの恩を私は貰っているのだろう。
「ありがとう…ございます。ゆっくり休みます…。」
その後二人は気を紛らわすように学園であった面白い話を少ししてくれて、ほどほどに切り上げて帰っていった。




