怒り
いつもの川のほとりでお姉さまを待つ。
今日は共にここへ来たわけではない。
「リシア、昼食前に少し用事があるから先に向かっててくれるか?」
お姉さまは午前中に私にそう告げた。
「もう、お姉さまったら。何をしてるんですかね?お昼、終わっちゃいます。」
待てども暮らせども、待ち人は来ず。
かといってお姉さまの為に作る日々のお弁当だ。1人で食べるのも味気ない。
「仕方ない、お姉さまを探しに行きますか!」
私は何故だかそう思い立って立ち上がった。
◆ ◇ ◆ ◇
川のほとりから学園へ戻る道にてさっそくカイト様にでくわす。
「カイト様~、お姉さまをお見かけになりませんでした?」
「いや、特には見かけてないぜ?」
「ありがとうございます!」
私の本命はこちらではない。
「カイト様が居られるということはどこかにシンシア様もいらっしゃいますね?シンシア様~!」
「はい、何でしょう?」
カイト様と私の間ににゅっとシンシア様が生えてくる。
神出鬼没なのでもう慣れた。
「シンシア様、お姉さまの居場所ご存知ですよね??」
「いえ、存じ上げませんね。」
おかしい、シンシア様がお姉さまの場所を把握していないはずがないのだ。
何故かよくわからないが、この人はいつだって私たちの居場所を良く把握している。
そもそも、何故ここにカイト様が居るのかも不思議に思える。
普通、なかなか生徒は立ち寄らない場所だ。わざわざここに居るということは。
「お二人、私に何か隠してます?」
「「そんなことはない(ありません))」」
どうやら、何か隠し事をしているようだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「お姉さまったら、私に隠し事しないでって拗ねてたのに自分はこれですか!」
誕生日のサプライズですら不安になって泣きそうになっていたお姉さまだ。
あの時不安になるようなことはしないと約束したくせに、お姉さまは何か隠し事をしている。
それが妙に腹が立った。
学園を早足で探し回る。
いったいあの人は何をしているのか。
「あっ!お姉さまだ。お姉…さ…ま…」
そこにあった姿は、下級生であろう女子の肩を抱くお姉さまの姿だった。
目線がお姉さまと合う。驚いた顔でこちらを見る。
その表情にとにかくいらだちを覚え、私はその場を立ち去ろうとした。
「待て、リシア!」
お姉さまが追ってくるのがわかる。今はまだ、あまり走らせるべきではない。
そう思い速度を緩める。いつだって私は、甘い。
「これは誤解なんだ。リシア。」
「誤解はしてないと思いますよ。」
「話を聞いてくれ。」
「お姉さまが下級生をふって、泣いているその子を慰めていた。違います?」
解っているのだ。この人が浮気するはずがないことは。
だから、すぐさま状況は理解できた。
「だったらリシア、何故」
「あなたの立場だったら嫌じゃないんですか!?自分の胸に聞いてください!!」
何故泣いている、そう聞こうとしたお姉さまをひっぱたきたくなる気持ちを抑え、被せて怒鳴り散らす。
「これ、レベッカ様の為に作ったお弁当ですから。勝手に食べてください!では。」
私はお弁当を投げつけて、その場を去る。
つい心が過剰反応してしまう私自身も嫌で、ただその場を去りたかったのだ。
「リシア、おい!待て、リシア!?」
そう言って引き止めようとするお姉さまがただ気に入らず、一度手を邪険に振り払う。
「私は今冷静になれません。そっとしておいてください。」
もう一度怒鳴ってしまいたい気持ちを抑えて、、ただ口からそれだけを絞り出した。
良かれと思って恋人にされて嫌だったことを、自分の立場になるとまたよかれと思いやらかしてしまう。
不思議なもので、良くある話ですよね。




