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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第六章 次こそ君を
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お月見イベント・その3

「わぁ、月がこんなに大きく!」

「綺麗だな。」


私たちはローエンリンデ家邸宅の屋上にいる。

高い建物の少ないこの世界、ローエンリンデ家の邸宅より高い建物は王城くらいしかなく、素晴らしい見晴らしだ。


「夜景も綺麗ですね!お姉さま!」

「そうなんだ、王都の営みが一望できる。」


前世の世界と違い、夜の明かりはちらほらだが、それが逆に幻想的な感じを醸し出す。


お姉さまが用意してくれていた椅子に腰掛け空を眺める。

満天の星空に一等明るい月がぽっかり浮かんでいる。

その姿は美しすぎて、どこか怖さすらある。

だが、それを踏まえても目の離せない美しさだ。

何か言葉にしようとして、やめる。何に例えても陳腐な気がしたのだ。


そうして二人話さぬまま、月を眺めていたが、その静寂は突如破られる。


「聞こえた…よな?」

「ええ、それはもう。」


真っ赤になるお姉さまを横目に私は笑う。

お姉さまのお腹の音だ。きっとお腹が空いたんだろう。


「食べましょうか、お団子と玉子焼き。」

「ああ、頼む…。」


私は包みを開けてお団子と玉子焼きを取り出す。

お姉さまはお団子を受け取ると一思いに口に頬張る。


「花より団子ならぬ、月より団子ですか。」

「楽しみにしていたんだ。許してくれ。」


味の如何はお姉さまのその顔を見ればわかる。喜んでくれているようだ。


「出会った時は、食欲がないとおっしゃっていたのに、今やとても良くお食べになられますね。」

「昔は良く食べると言われていた。食べる楽しさと味を取り戻してくれたのは、リシアだよ。」


お姉さまはそういうとそっと私の手を取る。

あなたは、いつもこうして感謝を伝えてくれますね。

そういう真っ直ぐなところも魅力だな。


「で、秋の月の言い伝えって何ですか?」


忘れていませんよとばかりに話を振るとお姉さまがお団子をのどに詰まらせる。

予想していた私はすっとお茶を差し出す。


「えっと、だな。」

「はい。」


早く話せとばかりにお姉さまの顔を見てニコニコ笑う。


「秋の月を、好きな人と共に眺めて、告白すると成就するという話があってな…」

「そうなんですか!」


相づちを打ちながら続きを促す。


「そして、結ばれた二人は長続きするんだそうだ。」

「なるほど。」


さらに私はお姉さまの顔をニコニコ見つめる。


「その、父上も母上とここで月を見ながら婚約の話をまとめたそうだ。」

「ロマンチックですねえ。」


さて、それで?何が出てくるのか。私は楽しみにお姉さまの続きを待つ。


「私たちは、恋人だから。その、告白というのもおかしな話だろう?」

「そうですねぇ。」

「で、誕生日プレゼントのお礼がしたくて…。これを受け取って欲しい。」


そういうとお姉さまはポケットより小さな箱を一つ取り出す。

箱から出てきたのは指輪。真っ赤なルビーがあしらわれている。


「これって…」

「内側にはリシアの名前が、外にはローエンリンデ家の紋章があしらわれている。」

「ダイヤモンドじゃなくてルビーなんですね。」

「リシアは、私にとって華やかで太陽みたいな人だから。ダイヤモンドだと負けてしまう気がして。ダイヤモンドのが良かったか?」

「いえ、お姉さまが考えて贈っていただけたなら、私はルビーが良いです。」


きっとお姉さまなりに一生懸命考えてくれたのだろう。

それが存分に伝わってくる。


「つけてもらえますか?」


私は左手を差し出す。


「薬指だよな…?」


不安そうなお姉さまを見て私はくすりと笑う。可愛いなあ。


「さて、どこでしょう?」


そう意地悪してあげると、お姉さまは素直に薬指に指輪をつけてくれる。


「本当は、誕生日に贈ろうと思ったんだ。でも、誰もリシアの誕生日を知らなくて。」

「ああ、私の誕生日は亡き両親しか知りませんからね。12月24日、クリスマスイブの日ですよ。」


リシアの誕生日は乙女ゲーのヒロインだけあり、クリスマスイブその日なのだ。

原作でも、攻略キャラとクリスマスイブを過ごしたその日に発覚することになる。


「じゃあ、その日には当主の座を射止めてリシアを迎えられるようにしよう。」

「後一年半もあるんですから、急がれる必要はありませんよ。」


私の誕生日まで後3ヶ月。

さすがに性急がすぎる。お姉さまの体の方が心配だ。


「冷えてきましたね。」

「部屋に戻ろうか?」

「普段はとっても甘いのに、ほんと大事な時はこうやって堅くなりますよねえ。」

「え?」


そういうと私はお姉さまの膝の間に座る。

なんだかんだ、お姉さまに包まれるようなこの体勢が好きで。


「いつものように、抱きしめて、温めてもらえます?」


今日だけはお姉さまを甘やかす日だ。

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