愛おしい
レベッカ視点です。
ある日の昼下がり、川のほとりに腰を下ろしゆっくりしていたときのこと。
「お姉さま!今週の日曜日、どこか一緒にお出かけしませんか?」
「すまない、実はその日用事があってな…」
行きたい、すごくリシアとお出かけしたい。
すっぽかせる用事ならとっくにすっぽかしているだろう。
「あら、それは仕方ありませんね?執務関係ですか?」
「いや、どちらかというとリシアに関係ある話だ。…陛下と昼食を共にする事となった。」
そう。さすがに陛下との昼食はリシアとは言えすっぽかせない。
いや、それでもリシア関係でなければすっぽかしてしまっているかもだが--
「まぁ。婚約破棄の申し入れの件で?」
「十中八九、その件だろうな。まだ申し入れてからこれと言って回答はないからな。」
「あいつは参加するんですか?」
「あいつは良くないぞ、いくら嫌いとはいえ、な。」
リシアが心配そうに私の手を握る。
すごく小さくて、柔らかな手だ。いくらでも握っていられる。
むしろ、ずっとだって握っていたい。
「エドワードなら、今回の昼食には参加しないそうだ。向こうからもそう話があった。」
「問題の当事者であるのにですか?」
「とりあえず今回は拗れるより前に私の意志と意図を聞きたいということじゃないか?」
リシアの指に指を絡める。ダメですと言った風に絡ませまいと力を込めるが、私の力にはかなわない。
指を隙間にねじ込ませ、絡ませてゆく。
「もう。…大丈夫なんですか?」
「さすがに陛下の御前で何か企てることはないと思うが。まぁ気をつけていくよ。」
余った親指でリシアの手をすりすりとさする。
リシアの体が思わずぴくんと跳ねる。
可愛らしくて続けたいがあまりやると叱られるだろうな。
「それ以上やったら怒りますからね?当日の流れって解ってるんですか?もし解るようならお近くでお待ちしたいのですけど。」
「いや、はっきりとは解らないからな。終わったら真っ先にリシアの元に向かうとするよ。」
「お待ちしております。遅くなったらお夕食を用意しましょうか?」
「私の帰りを待って夕食の手配をするリシア…。最高だな。」
手を離し、リシアを抱えて膝の間におき、顎をリシアの頭頂に軽く乗せる。
リシアはいつも羽根のように軽く、柔らかい。
いつも嫌がるようなそぶりをするが、リシアもこの体勢が大好きなのは良く知っている。
二人が一つになるようで心の底から暖かくなれる。
「お姉さま。…はぁ、言っても聞きませんよね?」
「いや、聞くぞ?嫌ならちゃんと嫌と言ってくれ?」
「嫌じゃないですけど、こういうのはお姉さまのお家で誰も邪魔されず二人きりでしません?」
ちょっといたずらっぽくリシアが笑う。恐らく私が照れて戸惑うのを期待しているんだろう。
少し前はよくこの顔に翻弄されていたような気がする。でも私も戦いの中で成長するのだ、そんなものはもう効かない。
「それだと収まりをつけれる気がしないのだが、この先も良いってことか?」
その先を想起させるように、リシアの耳元で囁き、その耳を甘噛みする。
綺麗な肌の耳だ。その形さえ不思議と愛おしく思える。
「ひゃっ!?お姉さまの馬鹿!!変態!!」
「誘って来たのはリシアの方だと思うが?」
暴れそうなリシアの肢体を強く抱き、さらに耳元で囁く。
「愛しているぞ。リシア。」
甘噛みしたせいだけではないくらいに赤くなった耳をただ愛おしく見つめ、この腕の中の小さく柔らかい人を、次こそ必ず私が守り離さないと心に決めたのだった。




