お姉さまは液体
「おい、リシア嬢。ちょっと良いか?」
「はい、なんでしょうカイト様?」
「ここじゃなんだ、レベッカ嬢、リシア嬢を借りていっていいか?」
「ダメだ。私とリシアは一心同体だからな。私がいないと出来ない内緒話なら尚更な。」
そう言ってお姉さまは私の背から抱きつき離さない。
夏の一件からほとんどこんな感じだ。過保護が過ぎる。
「レベッカ嬢の思ってるようなもんじゃねえよ。すぐ返す。」
「だ、そうですよお姉さま。ちょっとだけ行ってきて良いですか?」
「リシアは私を置いていくのか…?」
なんだかジト目に感じる雰囲気でお姉さまが私を見つめる。
可愛いんですけどね。ちょっと面倒くさいですよね。
「ほら、後で何かしてあげますからちょっと待っててくださいね?」
「毎回俺は何を見せられてんだか…」
「不満なら私のリシアに近寄らなくていいんだぞゴリラ。」
「お姉さま!もう!そこでおとなしくしててください!」
怒って大人しくするよう指示するとしゅんとして静かに待っている。いい子だ。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、カイト様、何のご用でしょう?」
教室から離れた廊下でカイト様と話し始める。
少し教室から離したあたりやはりお姉さまには聞かれたくない話のようだ。
「リシア嬢は、レベッカ嬢から誕生日の話は聞いたか?」
「いや、特になにかは…?」
「はー…やっぱりか。声を掛けて良かった。」
呆れ顔でカイト様はボヤく。
「レベッカ嬢の誕生日は来週だ。祝ってやれよ、恋人殿?」
「ええええっ!?何でそんな大切なこと私に言ってくれないんですか…。」
「わざわざ言うのも気恥ずかしいし、リシア嬢に気使わせたくなかったんだよ。わかるだろ、そう言う奴だ。」
「あー、確かに。」
お姉さまは間違いなくこういうことアピールできない人だし、自分の発言で人が何かしてくれるというのも申し訳なく思うタイプだ。
でも、祝ってくれるとすごく喜ぶ人でもあるし、私が祝うなら尚更…と思いたい。
「俺は伝えたからな。後は頑張ってくれや。」
「待ってください。お姉さまのプレゼントって何がいいんでしょう?」
「ああ?リシア嬢のが詳しいだろ。まぁ、今のレベッカ嬢ならリシア嬢が鼻をかんだティッシュでもプレゼントって渡されたら喜んで部屋に飾りそうなもんだが。」
「さすがにそれはないと思いますが…」
「そうか?俺はいいセンいってると思うが。」
え、ないよね?そんなことある?
いや、あるような気がしてきた。
私のかんだティッシュもらって喜ぶお姉さまとか…それはそれでいいけれど!
「んじゃまぁ、戻るか。あんまり長居するとレベッカ嬢に三枚におろされちまう。」
「そうですね。それは同意します。」
あの人嫉妬しいだけど、特にカイト様にはすごくヤキモチ妬くんだよな。
盗られるとでも思ってるのかしら。
そう思って妬くなら嬉しいんだけどさ。
◆ ◇ ◆ ◇
「お、リシア戻ったか。」
「はい、お待たせしました。」
「カイトに何を言われた?まさか愛の告白じゃないだろうな?」
それを聞かせられないから席を外したんじゃないのか。
全くもう。
「お姉さまの思うようなことではありませんよ。それとも、お姉さまはカイト様に告白されたら負けると思ってるんですか?」
「そ、そんなことはないが…」
「嘘、だってこんなにヤキモチ妬くんですもの?私、お姉さまへの愛を疑われて残念です。」
「いや、リシア、それはだな…!」
あわあわしてる。可愛いですね。
誕生日を黙ってたことにちょっとだけ怒ってるので、フォローはしません。
「それは、なんですか?」
「その…いや…すまない…」
あら、しょんぼり謝っちゃった。仕方ない。ここらへんにしてあげましょう。
「で、それだけ妬いてもちゃんと待てたお姉さまにご褒美です。何して欲しいですか?」
「え、あー。何して欲しいだろうか…」
切り替えの速いこと。もう楽しそうにご褒美を考えている。
「ティッシュならあげませんよ?」
「ティッシュ??」
◆ ◇ ◆ ◇
いつもの川のほとり。今日は打って変わってお姉さまが私に膝枕されている。
「これは人をダメにするな…」
「私の膝を麻薬みたいに言うのやめてもらえます?」
もしくは例のソファーみたいに。
「リシアの作ったお弁当を食べて、リシアの膝で寝る。この世にこれほどの幸せは他にない。もう召されても後悔はないよ。」
「いやふつうに後悔あると思うんで召されるのはやめてくださいね?」
というか、そんなことで死なれたら膝枕した私が一番後悔するわ。
「しかし、別に物とかでも良かったんですよ?何か欲しいものはなかったんですか?」
「うーん…これといってな。強いて言えば最近お弁当にカツサンドがないからカツサンドが食べたい。」
「じゃあ明日はそうしましょう。」
「ああ、頼む。…幸せだなあ…」
膝枕で幸せそうに半分以上液状化し始めている。本当に猫みたいな人だな。
追加で頭なでなでをしたら、本当に召されそうになっていた。




