変わりゆく日常
秋が来た。
休暇が終わり、学園が再開する。
あれから一度もエドワードは学園に来ていない。
私が王都に帰ってきた後、我がエヴァンス子爵家とお姉さまのローエンリンデ公爵家は王家に正式に抗議を行った。
当事者とその当事者に近い家ということで、当初は王家の態度も頑なであったが、カイト様のハミルトン侯爵家、シンシア様のハリス伯爵家もそれに加わったことで、一転非を認め謝罪することになった。
カイト様は、「あれはエドワードが悪ぃよ。友人としてそれは諫めなきゃならねえ。」と
シンシア様は、「派閥の意志ですから。」とおっしゃっていた。
本当に得難い理解者たちを得たと思う。
「リシア。今日のお弁当はなんだ?」
いつもの川のほとりでお弁当を持って先に待っていると、お姉さまが後ろから抱きつきながらお弁当の内容を聞いてくる。
「あら、お姉さま。今日はハンバーグですよ。たくさんご飯もつけておきました。」
「ハンバーグか!リシアのハンバーグは絶品だからな。食べさせてくれ。」
お姉さまは私の肩に手を回したまま、顔を肩の横から出し、口を開けてご飯をねだる。
口小さいな、可愛いか?
「この格好じゃ食べさせられませんし、そもそもお米って食べさせにくいのでいやです。」
「じゃあ一生食べられないな?残念だ。」
あれから、お姉さまはずっとこんな感じだ。
事あるごとに引っ付いては私を離してくれない。
風紀が乱れている。大問題だ。
「もう、冗談言ってないで食べますよ。食べてくれないならカイト様に食べてもらおうかな。」
「なっ、それはダメだ!リシアのお弁当は私のものだ。」
「そうおっしゃるなら早く食べていただいて。もう。」
そう言うと慌てて離れてお弁当を食べ始める。
そんなお姉さまの様子に私はちょっとしたいたずらを思いつき、耳元で囁く。
「そんなにくっつきたいならお姉さまのお家でお願いします。レベッカお姉さま?」
お姉さまはのどにハンバーグを詰まらせて咳き込んでいた。ざまぁみろ。
◆ ◇ ◆ ◇
あれからお姉さまの調子はそれなりに良い。
お姉さまは「リシアがそばに居るときと、居なかった時では全然体調が違う。」と言っていた。
精神的なものでは?とも思ったが、聖女の体質についての仮説を鑑みると、それもあり得るので何ともいえない。
ただ、伝承にあるような、病気や怪我を即座に治癒するような力は未だに使えていないのは確かだ。
「そう言えば、例の人気店だが、人気がそれなりに落ち着いて予約なしでも待てば入れるようだ。今日の帰り道寄っていかないか?」
「良いですね。また連れて行ってくれる約束でしたし。」
「リシアも私の好きなハニートーストの追いハチミツを食べる練習をしていたと聞いたが?」
「あれは食べられないという結論がでました。食べれるのはお姉さまとミツバチくらいだと思います。」
「その言い様はさすがの私も泣くぞ…?」
「ええ、どうぞ。」
いくらお姉さまが好きでも、あれを食べさせられるのだけはたまったもんじゃない。
私はふつうにケーキとお茶を楽しむぞ。
「さて、午後の授業で寝たらゴリラに頭を破壊されるので、私は仮眠します。枕の用意を。」
「ああ、お嬢様。こちらをどうぞ?」
そこには川と、野花と、2人の日常だけがあった。




