もう、離さない
リシアの元に駆けつけるため準備をしていた私は、来客に断りを入れようと玄関口に向かった。
そこにいたのは--
「お姉さま!」
「リシア!」
私の世界が、輝いた。
◆ ◇ ◆ ◇
改めてリシアの姿を見る。
ボロボロになった髪や足。血のついた体。ハミルトン家の紋章の入っただぼついたシャツ。膝丈上まで切られたパジャマのズボン。
そして上半身裸のむさ苦しいゴリラ。
「カイト、貴様!」
「お姉さま、違います!確かにどう見てもカイト様怪しいですけど!違います!」
「頼むから剣を抜くのをやめろ!な!やめてくださいごめんなさい!」
逃げるゴリラを追おうとして、リシアに抱きつかれてやめた。
◆ ◇ ◆ ◇
「そんなことが…。カイト、リシアの窮地を救ってくれてありがとう。」
「解ってくれればいいんだけどよ、その格好やめねえか?」
「それは無理だな。なぁリシア?」
「ですよねーお姉さま?」
私はリシアを膝に乗せて後ろからギュッと抱きしめる。
少したりとも離れたくない。
「しかし、無茶をしたものだ。すまない。私がなんとしても助けるべきだった。」
「そんな、仕方ないですよ!お姉さまにも色々事情はありますから!」
あのとき必ず守ると、約束したのに。
約束一つ叶えられない、不甲斐ない私のために、ここまでたくさんの無茶をして、それでも私に会いに来てくれた。
彼女のことが殊更愛おしくなり、さらに強く抱き寄せる。
「あっ!!」
リシアが体をびっくりしたようにはねさせる!!
「お姉さま、忘れていたけど、私ずっと体も拭けてないから、その、離してください!」
そう言ってリシアは私から抜け出そうとする。
「なんだ、そんなことか?」
私は笑みを深め、さらに体と顔を密着させる。
「お姉さまのバカ!変態!」
「変態はそこの上半身裸のゴリラだろう。」
「俺を巻き込むなよ…。」
なんと言われようと、今は離れたくない。
◆ ◇ ◆ ◇
「それじゃ俺は馬車取りに戻るからよ?ほどほどに家に帰してやれよ。心配してるだろ。」
「ああ。任せておけ。礼はまたしよう。」
「それは祝儀につけといてくれよ。じゃあな。」
本当に気の良い奴だ。いつか報いれる時がくればいいのだが。
「さて、邪魔者はいなくなった。なぁ、リシア?」
私は腕の中の恋人に笑いかける。
「あのー、そのー、私お家に帰らなきゃいけなくて。」
「そうか。」
「本当に、体を拭けてすらいないんですよ。髪もボサボサだし。」
「そうか。」
カイトの服を着ているのは事情があれどやはり不愉快だな。
「ひゃっ、お姉さま手つきがやらしい…。待って、それは待って!!」
「そうか。」
「ダメですってお姉さま!!んんっ!!」
恋人のうるさい口を口づけでふさぐ。
なんと言われようと、今はお前を離さない。
続きは成人誌で!(ありません)
四章もみなさまのおかげで、何とか形になりました。
四章、「2人」の記憶、お楽しみいただけましたか?
暗いシーンが多く、コミカルな雰囲気が好きな自分にはそうしないような努力が大変でした。
リシアの元人格についてはある程度設定はあったものの、深く掘り下げるつもりはあまりなかったのですが、いつの間にか四章のメインの一人になっていた気がしますね。
「2人」の定義は、メインのリシアとレベッカだけでなく、様々な解釈の出来る余地を残しています。
よろしければ読み返しながら、自分なりの「2人」の解釈を見つけていただければな、と思います。
ここまでお付き合いいただき、本当に感謝の念に堪えません。
これからも、「2人」の物語を見守っていただければ幸いです。




