--さま
???視点です。
エメラルドグリーンの海。白い砂浜。青い空。
その中で一人、私は溺れている。
そのとき、波打ち際に一人の女性が立つ。
その女性は、凛とした佇まいで美しい。だが、見つめると何か暖かい、安心させてくれるような気持ちもする。
彼女は私を助けようと海へ飛び込む。
「ダメ!お姉さま!」
あなたが溺れるくらいなら私だけで--
◆ ◇ ◆ ◇
慣れない天井。
何日目かの朝を迎え、私は目覚める。
「リシア、起きたかい?」
「あっ、エドワード様、おはようございます!」
部屋に入ってきた男の人はエドワード。
私のクラスメイトで、皇子殿下だ。
数日前、海で溺れていた私を、危険を顧みず助けてくれたらしい。
「リシア、体調はどうかな?」
「あっ、はい!すっかり元気になりました!」
そういうとエドワード様はにこやかに笑いかけ、私の頭を撫でてくれる。
嬉しいはずなのに、なぜかもやっとする。
“私の-は--さまだ-の--だ!”
何かのノイズが脳内によぎる。私は頭を抱える。
「本当に大丈夫かい?」
エドワード様は心配そうに背中をさすってくださる。
「ええ、大丈夫ですとも。」
時折こういったノイズが脳内に走る感覚がする以外は本当に元気なのだ。
「エドワード様、私に姉はいますか…?」
「んー、僕の知る限りではいないけどなぁ。どうして急に?」
「夢に、お姉さまと呼ばれる人が出てきたような…?」
もう夢の内容もあやふやだ。でもたしかに居た気がする。
“私の--さまは--さましか--い!”
まただ。
「ただの夢だと思うよ。あまり深く考えないほうがいい。」
「でも、何だか気になってしまって…。」
「今は、考えるよりも先に元気になろう?」
エドワード様は私のことを第一に思って大切にしてくださる。
そうしていただける私はきっと幸せ者なのだろう。
なぜだか腑に落ちない気持ちに言い聞かせながら、私はエドワード様に微笑みかけた。
◆ ◇ ◆ ◇
「何か欲しい物はある?部屋に持ってこさせよう。」
エドワード様は優しい声で私に問いかける。
「でしたら、料理の本が欲しいです。」
「料理の本?」
「ええ、いつも料理をするんですよ。それで学園に--」
はて、私はなぜいつも料理をしていたのか。
記憶にモヤがかかる。
カツサンドを良く作っていた気がするのだが。
「そう言えば、お花見の時もサンドイッチを作ってくれていたね?解った。持ってこさせよう。」
エドワード様に食べていただくためにお花見でサンドイッチを作ったんだったか。
“--さまに食べ--らうためだ!--のた-じゃ-い!”
私何だか、大切なことを--
「リシア?」
「はい、どうしました?」
「何でもない。僕のリシアは可愛いと思って。」
幸せだと思う気持ちと、イライラする気持ちがない交ぜになる。
まるで何か混線しているような。
「早速持ってきてくれたようだ。一緒に見ようか。」
「ええ。」
ベッドに上半身を起こして座る私の横に、エドワードは腰掛ける。
「これなんてどうでしょう?」
「ううん、味が濃そうだ。僕はこっちのが好みかな。」
「ではこれは…」
「僕は基本薄味のが好きなんだよ。」
でも--さまは濃い方が好きで。
ん、誰が濃い方が好きなんだっけ?
“--さまを-れるな!--出せ!”
「では、今度はこの料理をお作りしますね?」
「うん、楽しみにしてるよ。」
エドワード様が喜んでくれるといいのだけど。
そう思いながら、私は料理のページに折り目をつけたのだった。




