世界の色
レベッカ視点です。
学園にやってきた。
用事があるというわけではなかったが、家の滞っていた業務を数日掛けて片付け、手持ち無沙汰になった。
シンシアからの連絡は未だ無く、リシアがどうなったかは全くと言って知れない。
何かしていないと、体から魂が抜けていくような感覚がする。
私は重たい体を引きずり、気になっていた調べ物を全て済ませようと、図書館を利用しにきたのだ。
調べ物は、すぐに終わってしまった。
やることがない。
世界とは、こんなに鈍色だっただろうか。
誰も居ない自分の教室へ向かう。
いつも座る椅子に腰掛けてみる。
同じくいつも座っている、隣の席に目をやる。
「お姉さま?」
世界がカラフルに染まる。
「リシア!」
私は身を乗り出す。
だが、世界はまた鈍色へと戻る。
そこにリシアの姿はなかったのだ。
どうやら、幻聴や幻覚まで出始めたか。私は苦笑する。
◆ ◇ ◆ ◇
いつも食事を摂る、川のほとりに腰掛ける。
いつもの様に川はせせらぎ、花は揺れる。
大事な物が欠けたいつもの風景が、涙を誘う。
「全部私のせいだ。」
あの時、リシアの言うことを聞いていれば。
あの時、意識を無くさなければ。
あの時、無理にでもリシアと会っていれば。
あの時、帰らずにいれば。
後悔だけが頭を渦巻く。
私は膝を抱え、そこに顔を埋め、ただ時が経つのを待った。
◆ ◇ ◆ ◇
お腹は空いていない。
食事を摂る気にならない。
でも、痩せこけてしまえば、リシアに怒られるかもしれない。
怒られるだけならまだいい。見てくれがこれ以上悪くなって、失望されたくない。
そう思い食事を摂ることにする。
学園の食堂は、職員向けに今日も開いている。
閑散とした食堂に一人、トンカツ定食を持って座る。
まだリシアのお弁当が常態化する前、良く好んで食べたメニューだ。
金属味の酷い口内で、数少ない味が感じれるメニューだったからだ。
私はトンカツを口に運ぶ。
金属の味。
リシアのお弁当はこれより味が薄くても、よく味が解った気がする。
秘密の製法でもあるのだろうか。
食べたくない食事を無理に口に詰めて、私は席を立った。
◆ ◇ ◆ ◇
リシアと課題の打ち上げに行った“今”人気の店は、時が経ち人気の店となった。
相変わらず盛況ではあるが、随分と前から予約を取らずとも、待てば案内してもらえるようだ。
ハチミツをそのまま貪る練習をしていたリシアは私の食べるハニートーストを食べれるようになったのだろうか。
そんなしょうもないことが妙に気になった。
確かめる時は、来るといいのだが。
◆ ◇ ◆ ◇
家に戻る。使用人が慌てて私の元へとかけよる。
「お嬢様!シンシア様から手紙が来ております!」
その瞬間、魂が体に戻ってくる。
今までどこか三人称視点で見ていた世界が、一人称に戻ってくる。
「何だと!?今すぐ持ってきてくれ!」
手紙を受け取った私は、見目も気にせず指で糊付けを破り便せんを取り出す。
「レベッカ様へ。エドワード様に慌てた様子あり。リシア様について何かしらの非常事態があった可能性が高いです。 シンシア」
それだけのシンプルな手紙だ。きっととるものもとりあえず、急いで書いて送ってくれたのだろう。
「今から馬で全て駆けたとて、夜までに着くのは難しいか?」
私は横に控えていた使用人に訪ねる。
今更私の体のことなどどうでもいい。限界まで馬で駆けて、リシアの元へ駆けつけたい。
手紙が着いた時点で数日は遅れている。一刻の遅れも許されない。
「なるほど。解った。15分後、私と選抜した何人かは避暑地へ向けて出発する。準備をしてくれ。」
私は服を騎乗用の物へと着替えようと自室へ向かう。
その時、馬が屋敷に駆けてくるのが見えた。
何だ、この時に。
私は一度来客に帰ってもらおうと玄関口へと足を進めた。




