姉妹コーデ
「さぁ行きますよ!!お姉さま!!もぅ、いい加減覚悟を決めてください!」
「本当にこれで行くのか…?」
「当然です!ほら柱から手を離して!私じゃどう引っ張ってもお姉さまには勝てないんですから!!」
朝、あわただしく揉める室内。
何故お姉さまが外に出たがらないのか。
それは今日は2人で可愛い格好をしているからだ。
昨晩、お姉さまの髪にヘアカーラーを巻きつけておいた私は「明日は2人で可愛い格好で町に出ますからね。」と伝えておいたのにこのざまだ。覚悟も決めておいてほしかった。
今日のお姉さまは綺麗な大和撫子黒髪ストレートではなく、黒髪縦ロールのお嬢様ヘアー。
黒地に白のレースのカチューシャをつけて、ドレスはヒンクのゴシックドレス。
袖口はストラップカフスで、可愛い白いリボンをあしらえて、スカートはピンクと白のバッスルスカート。
足下には黒に白ラインのチャンキーヒールのブーツ。
背が高い分、基本は手足の長さを活かした服装にしつつ、ドレスはしっかりフリル地で可愛らしい。
我ながら会心の出来と言えるだろう。
私はお姉さまと合わせたいという要望を汲んで、ベースは同じ服装としつつもピンクと黒を逆の配色にしてみた。
これぞ姉妹コーデ!
「ほらお姉さま、姿見を見てくださいって。すごく可愛らしいですよ?」
外に出たがらないお姉さまを引っ張って姿見の前へと連れて行く。
「リシアがとても似合っているのはよくわかるが…私はそれに比べるとやはり大きいから…」
「もう!あんまり卑下すると怒りますよ!私はお姉さまのこと、本当に可愛いと思ってますし、そう思える服装を一生懸命考えたんですから!」
「わかってはいるのだが…」
私が可愛いと言っているんだからもっと喜べ。褒め甲斐のないやつめ。
とはいえ、惚れた贔屓目もあるとは言え、本気で可愛らしい出来になっているはずだ。
後は外に引っ張り出すだけで。
「ほら!行きますよ!!ちょっと!柱にヒビ入ってるじゃないですか!!」
前途多難な旅路の始まりだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「それで、どこに連れて行くというのだ…。」
「え、どこも特には決めてませんよ?まずは施設の中を歩き回りましょうか。」
「待て、それだけは…」
「逃げないようにキャーッチです!」
お姉さまの腕を両手でホールドして密着する。
これで照れて静かになるからちょろいんですよ、うちのお姉さまは。
そして半ば引きずり回すように施設内を行脚する。
あ、エドワードだ。
目があったが、何も言わずに去ってゆく。
まぁ良い、お前にはハナから期待していない。
「ほら、お姉さまが可愛らしくて逃げちゃいましたよ、エドワード。半殺しにして連れてきて褒めさせます?」
「リシア、どんどんエドワードに対して遠慮がなくなっていくな…」
「そりゃ目下私の仮想敵ですから。隙あらばわからせてやりますよ!!」
「聖女を死罪にすることはまずないが、監禁して従わせる程度ならあり得る。無茶はしてほしくないぞ?」
「そんなことになれば私はお姉さまの手を引いて国外ですよ!!愛の逃避行です!」
「たしかにリシアと他国で2人平民として仲むつまじく暮らすのも良いかもしれないな?」
「そこまで考えないでください、照れますから。」
サラッと出てくる2人の未来予想図に少し照れる。
そんな暮らし、実現したらいいなと思ってしまう。
「…でも、本当に私たちが結ばれたいなら、彼とは戦うしかないですからね。」
「ああ。」
覚悟を新たにした私だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「おっ、レベッカ嬢にリシア嬢。2人ともよく似合ってるじゃねえか?」
「カイト様!ごきげんよう!お姉さま、すごく可愛いですよね!」
「あまり見ないでくれ…。しかし、お世辞でも嬉しいぞ、カイト。」
「こんなもん、世辞でも何でもねえよ。よく似合ってる。しかし、こうして見ると2人本当の姉妹みたいだな!」
「そう思います!?よくわかってますね!私たち身長が凹凸ですから、色を対照にすれば姉妹感でるかなあって!」
「確かにその通りだ。これはリシア嬢がコーデしたのか?」
「そうなんです!お姉さまのかわいさを最大に引き立てようと思って!」
「俺にもその目論見はよく伝わってくる。よく考えられているんだな。」
「本当にそれ、それなんですよ!!」
そうやってカイトとお姉さまのコーデについて盛り上がっていると、後ろからそっと手につままれる。
可愛いですね、ヤキモチの伝え方までが可愛いですね。
「あっと、お姉さまがヤキモチ妬いちゃいますのでここらへんで失礼しますね?」
「本当に仲が良いようで俺も安心だよ。これからもレベッカ嬢を支えてやってくれな?」
「はい!」
カイトの元を去ってすぐに、お姉さまが抗議する。
「お前、ああいう言い方することないじゃないか。」
「だってお姉さまがヤキモチ妬いているのは本当ですし?可愛らしかったのでつい。」
「全く…。」
可愛い子はいじめろ。私の新たな家訓です。
「そう言えばカイト様とお姉さまは交遊があるんですか?先ほどの会話的にそんな雰囲気が。」
「ああ、エドワードと私が幼い頃からの繋がりだろう?そして、カイトはエドワードと幼なじみだから、私も小さい頃からよく会うことがあってな。」
「そうなんですね!なるほどなあ。」
「ああ。カイトの家と私の家で狩りに出ることもあってな。あそこの家も気風がよく、良い家だ。」
「確かにカイト様、いたずらっ子ですけど根っこはとにかく明るい良い人ですよね。」
「そうなんだよ。エドワードとの仲も何度カイトに助けられたことか。」
「そう褒められると、何だか妬けちゃいますね。」
「リシアが聞いてきたことだろう?」
私だって他の人のことを褒められると嫉妬の1つや2つしますとも。お姉さまほどじゃないですが。
「でもお家同士に交遊があるということは、お姉さまの事情も…」
「全てではないだろうが、ある程度察してはいる可能性は高いな。」
「…そんな人にお姉さまをお願いされるとは重責ですね。」
「あまり、深く考えなくてもいいんじゃないか?カイトは基本短絡的だからな。」
「だからいっつもじゃんけん同じ手なんですね!」
「それはどうかと思うがな…。」
◆ ◇ ◆ ◇
「あれは…。」
「おい、リシア、ダメだ!頼む!頼むから!」
「ハリス伯爵令嬢!!こちらへ!!」
そう、課題紛失イベントの犯人、シンシア・ハリス伯爵令嬢だ。
「シンシアで構いません。私もリシア様とお呼びしても?」
「ええ、シンシア様!ごきげんよう!」
「ごきげんよう。」
「あまり見ないでくれシンシア。これはだな…」
「大変お似合いですよ?レベッカ様。」
「さすがシンシア様です!シンシア様ならお分かりいただけると思って!」
「ええ。レベッカ様。あなたも女性なのですから、可愛らしい格好をするのは恥ではありませんよ?」
「だが…」
「だがも何もありません。そもそも、それほどレベッカ様のことをよく見て考えられたと解る服装です。考えてくれたリシア様に失礼では?」
「ありがとうございます!解ってくれて嬉しいです!」
シンシア様、お姉さまと繋がりがあって、課題の時もお姉さまのことを想っていた面もあるのは知っていたから、お姉さまを褒めてくれるとは思っていた。
でも、私まで評価していただいて嬉しいな。
「とにかく、レベッカ様は胸を張ってその服を着られたらよろしいかと。」
「善処はしよう…」
「そして、リシア様。…この前のことは、本当に失礼しました。詫びて許してもらえることではありませんが…。」
「そんな!気にされることはありませんよ!私もお姉さまのことが大切で、シンシア様もお姉さまのことが大切だった。それだけのお話でしょう?」
実際私はそんなに気にしてないのだ。課題提出間に合ったし。
「リシア様。リシア様が、レベッカ様を本当に大切に思っていらっしゃることは今までの振る舞いで理解したつもりです。…その、レベッカ様をよろしくお願いしますね。」
「はい!精一杯大切にしますね!」
シンシア様、良い人だったなあ。
お姉さまの人柄が良い人を集めるのかな。
「そんなやりとりをされると私がリシアに嫁入りするみたいじゃないか…?」
「え、違うんですか?」
「少なくとも今はまだだ。」
「今は、ですよね?ふふ。」
真っ直ぐこちらを見てくれないお姉さまを存分に眺めた後、腕を組み直し、これでもかと言うほど密着してお姉さまを引っ張ってゆく。
「お姉さま。お姉さまは、自分が思ってるよりずっと素敵で、みんなから愛されてるんですよ。」
「そうだな。よくわかったよ。」
「ええ。一番愛してるのは私ですけどね?」
「疑ってはいないさ。」
「よろしい。では次はお外を歩きますよ!釣り場のねこちゃんにもお見せしないといけませんね!」
私はお姉さまの手を引き、外へと繰り出した。




