2人きり
部屋に戻る道。2人に会話はないが、繋いだ手から気持ちは伝わり合う。
こんなに短い道のりだったか。それぞれの部屋の前についてしまった。
「今晩は…どうします?」
「勘弁してくれ…私の身が保たん。」
「でも、このままお別れは寂しいです。」
お姉さまにしなだれかかり、上目遣いで見つめる。
まぁ、身長差的にいつも上目遣いなのだけど。
「ならば…寝る直前までは部屋に居て良いから。それ以上は…。」
「嬉しいです。」
仕方あるまい。これくらいで許してやろう。
2人きりの部屋。何の変わりもない、花火の前に居た部屋。
なのに、今は何故か全く違う空間に見える。
また黙り込むお姉さまに私は声をかける。
「こちらに掛けていただけますか?」
「あ、ああ。」
お姉さまの部屋のベッドの指し示すと素直に従いそこに座る。
体の隅々までピシッと伸びておりカッチカチだ。面白い。
「少し、お膝を開けていただいて。ええそうです。」
ぴったり閉じた両膝を開けてもらい出来たスペース。そこに。
「失礼しますね?」
座る。
思った通り、この身長差だと私の頭のてっぺんにお姉さまの顎が来るくらいだ。
「な!?リシア?」
「ギュッとしてもらえないんですか?」
その状態でジッと上を見ておねだりする。
顔は真っ赤で、すごく照れているのに表情は変わらない。面白いなあ。
「ありがとうございます。」
壊れ物にさわるようにそっと私の体に添えられた手に私の手を添え、お姉さまの胸へと体を預ける。
びっくりするくらい、鼓動が速いのがわかる。
「すごく鼓動が速いですけど…お体にお変わりは?」
「…わかりきっていることを聞くのは、悪趣味だな。」
「ふふ、どうしてでしょう、お姉さまをついいじめたくなるんですよね。」
そういう私も、お姉さまに包まれているようで、変わらないくらいドキドキしているのだが。
「ねえ、お姉さま。」
「どうした?」
「呼び方とか、変えちゃいます?2人きりの時は、レベッカ、とか。」
半ばお姉さまはショートしかけているが、まだ、まだいける。もう少しお姉さまがグッときそうなものがありそうだ。
「それとも愛称でベッキーとか…?」
ううん、先ほどよりさらに反応は良いが、こうでもない気がするなあ。
「レベッカお姉さまとか、どうでしょう?」
少し甘えた声でそう呼ぶと、お姉さまの全身がゾクッとしたのがわかる。
ああ、お姉さまのストライクゾーンど真ん中はこれか。
「レベッカお姉さま…?」
顔を上げて、耳の下から囁くように、甘えるように、呼ぶ。
「や、やめよう。私は今まで通りが良い。」
「あら、残念です。」
お姉さまが絞り出したような声で答える。頑張りましたね。
絶対またこういう雰囲気の時に呼んでやろう。
「お姉さまに聞きたいことがあるんです。」
「な、なんだ?」
また意地悪されるのかという顔で身構える。傷つくなぁ。そうなんだけど。
「お姉さまは私のどこを好きになってくれたんですか?」
「言わなきゃ駄目か…?」
「聞きたいです。それとも、実はないとか。」
少し悲しそうな顔をしてみせる。効果はバツグンだ。
「そう、だな。まずは何より、純粋に私を慕ってくれていることだろうか。」
「なるほど。」
「リシアと仲が深まって、リシアのことを知る度に、こんなにも私を大切にしてくれていたのか、と実感するようになった。」
「そんな、私大したことはしてません。」
「私は嬉しかった。そして、リシアも私をたくさん知ってくれようとしてくれるところ。」
「それはその、はい。」
「私のことを知って、その上でそれを理解して受け入れてくれたこと。」
「はい。」
「課題の時、私を信じてくれたこと。あれは嬉しかったなあ。」
「ありましたね。」
「それにこのふわふわの金髪。すごく綺麗だ。」
「私はお姉さまの髪も好きですよ。」
「リシアは私の髪を弄るの好きだものな。そういうところも心地よかった。」
「ただ私が楽しかっただけですが…。」
「それでもだ。リシアの見た目も素敵だ。まるで物語のお姫様のような…」
「あの、もうやめませんか?」
ちょっとお姉さまをいじめるつもりが、手痛い仕返しを受けている。
褒められる度に体が熱くなって、宙に浮いてしまいそうだ。
「なるほど。リシアをいじめたい時はこうすれば良いのだな?」
「オネガイシマス、ヤメテクダサイ」
もう自分で耳まで真っ赤なのがわかる。火がつきそうな顔を手で覆い隠す。
そんな私をお姉さまは一層ギュッと引き寄せる。
「ダメだ。ようやく回ってきた私の番なのだからな?ほら、隠してないでその可愛らしい顔を見せておくれ?」
「鬼ぃ…ゴリラぁ…」
ようやく私が解放されて部屋に戻った時には、ヘロヘロで立ち上がるのもやっとになっていた。




