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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第三章 あなたのためなら
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流しそうめん

山の展望台までの道で竹の植生を見かけた。

お姉さまが「あれは竹という。芽の時は美味いらしいぞ?」と指さし説明してくれて気がついた。

勿論タケノコも魅力的だが、季節的に難しい。

それよりもこの竹で夏らしいアレをしようと思ったのだ。


「リシア、持って帰ってもらった竹で何をするんだ?」

「ちょっとこれを半分に割って繋げて遊びを考えてまして。」


翌日、作業場に持ってきた竹に鉈を差し込んで金鎚で押し込んで行く。この作業が意外に大変だ。


「私が切ろうか?」

「大丈夫ですか?」

「こんなもの何の苦もないよ。」


そう苦笑いしたお姉さまは、どこからか持ってきた剣でスパッと一刀両断してしまう。

化け物か。誰が出来るんだあんなの。


そうしてお姉さまがスパスパと竹を切っていくのを横目に私は節をとってヤスリ掛けをしていく。

残った竹で足場を組んで繋げていけば…


「これぞ流しそうめん!」

「流しそうめん?」


流しそうめんスライダーが完成した。

やはり夏といえば流しそうめん。朝から作業してお昼の良い時間までかかってしまったし、今からやるのも良いかもしれない。

幸い、この世界では水道は発達しているので水の調達も楽だ。


「私は七輪でそうめんを茹でますので、お姉さまはこの竹に水を流す準備をしてもらえますか?」

「ああ。解った。」


こうして全ての準備が整った。後はそうめんを流すだけだ。なんだかドキドキするな。


「今からそうめんを流しますのでお姉さまはそれをキャッチして食べてください!」

「わかった!」


私は下の方で待っているお姉さまに声をかけるとそうめんを一つまみ流す。

するするとそうめんは流れていき、お姉さまの前へ--


「取ったぞ!」

「ええ!」


お姉さまは意気揚々と取ったそうめんを掲げた後、めんつゆに入れて啜る。


「これはなかなか楽しいな!」

「次行きますよ!」


ほどほどに実演した後は、使用人の方に流す係を変わってもらって私も加わる。

やはり食べる側に回りたいものだ。

お姉さまの下流でそうめんを待ち構えていると--いると--


「お姉さま、そうめんがこっちまで流れてこないのですが。」

「おお、すまない。つい全部取ってしまうな。」


気を取り直してもう一度。

そうめんが流れてきて、意外と速い!


「あっ…」


そうめんを掴み損ねてそのままゴールの桶に流れていく。

どっかの化け物は簡単にこなしていたが、これは難しいぞ。


「はは、リシアには少し難しいか?」

「出来ます!」


再度チャレンジするも無情にスルリと箸の隙間を抜けていくそうめん。

こんなに難しいなんて。

そう歯噛みしている私の手にお姉さまの手がそっと重なる。


「私が手伝おう。私が手を掴みやすいところに導くから、リシアはそれを掴むことだけを意識してくれ。」

「はい!」


重ねたお姉さまの手、大きくてとても綺麗で、すごくひんやりしていて。

私の手の熱がお姉さまの手の冷たさと混じって行くような--


「あっ!」

「惜しい、もう一度だな。」


雑念にまみれたせいでまた取りこぼしてしまった。

集中集中。


「よし来るぞ、準備はいいな?」

「がんばります!」


流れてくるそうめんの経路上にお姉さまの手が導く。

私はそこに箸を突き出して--


「取れました!」

「やったな!」


さっそくその麺をめんつゆに入れて啜る。


「美味しいです!」


勘所を得た私はその後一人でもそうめんを取れるようになったが、やはり二人で取ったそうめんは格別の味わいだった。


ちなみに、その後お姉さまは凝り性を発揮して、流しそうめんスライダーを魔改造。

くるくる螺旋に回りながら落ちていく機構やピタゴラスイッチのようなギミックを加えた上で使用人たちに使わせた後は一般に開放。

この夏ずっと大盛況で使われていたらしい。





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