新春初売り その3
「じゃあ、そういうことで。□□ちゃん、行きましょうか。」
「やだあああああ、今日はもう終わりましょうよ!」
「まだまだ時間はあるわよ?私も見たい店あるしねぇ。」
バイク屋でお姉さまとある程度のわだかまりを解消した後、お姉さまは何かしら店員と話し見積もりを作った。
「持ち帰ってゆっくり話そう。」、そう告げるお姉さまの目はとても穏やかだった。
そうしてバイク屋を出た私は--紫杏さんに捕まっている。
「そうだ、二人はどうですか!?もう一度ショッピングモールに戻るなんて二度手間はしたくないんじゃないですか!?」
助けて欲しい。私はお姉さまと龍斗さんに目線を送る。
「リシアにまだ着せたいものがたくさんあるんだ。私は大賛成だぞ?」
駄目だ。この人あっち側だった。
後で見積もりに文句つけまくってやろう。
私はお姉さまを見切って龍斗さんの方を向く。
目が合わない様必死に背けやがる。逃げるな。戦え。
「…決まりねえ。」
「どうせ紫杏さん、自分の分見るって言って最終的に私に着せ始めるじゃないですか!?」
「□□ちゃんが可愛いのがいけないのよ~」
「どう見ても紫杏さんのが可愛いじゃないですか!」
「誰が可愛いって?」
「もう面倒くさいんでこういうときだけ妬かないでくださいお姉さま!」
別に恋愛どうこうのやりとりでもないタイミングで出てくるな。話の腰が折れる。
「麗ちゃん、□□ちゃんをお姫様抱っこして連れてって差し上げて?」
「任された!」
「任された!じゃないんですよ!!!」
私はじたばたと抵抗するものの、がっちりとお姉さまに抱えられ逃げ出せず。
そのままショッピングモールへと拉致されていったのである。
◆ ◇ ◆ ◇
「うぅ…一生分服着た気がする…。」
「気がするだけね。」
私はお姉さまが両手に抱える大量の服の入った袋に目をやる。
あれはお姉さまのではない。私のだそうだ。
服を大量に着せられよれよれになりながらショッピングモールを歩いていると、ふと紫杏さんが立ち止まる。
まだ見るの!?そんな気持ちで紫杏さんを見るが、紫杏さんは佇んでいた子供に駆け寄りしゃがみこんで話しかける。
「どうしたのかな~?」
「ママとはぐれちゃった…。」
どうやら迷子のようだ。
まだ泣き出してはいないが、今にもその目から涙が流れそうだ。
「魔法使いのお姉さんが居るから大丈夫よ~。ほらこの人が魔法使いのお姉さん。」
紫杏さんはお姉さまを両手でじゃんと紹介する。
お姉さまがどこからか取り出した袋に入った飴玉を手の平に乗せて、目線を同じにして子供に見せる。
「よーし、これをよく見てー?」
「……?」
子供が飴玉に視線を寄せると、お姉さまはそれを握りこんで…あっ、最低限の手首のスナップで目にも見えぬ速さで飴玉が後ろに飛んでいく。。
豪速球で飛んでいく飴玉を後ろで龍斗さんが軽くキャッチする。
「ばぁ、無くなったねー?」
「ほんとだ!!どうして?」
子供は目をきらきらと輝かせて不思議がる。
「よし、今からもう一度出すから、見てろよ~?」
お姉さまは片手で指を振り魔法を唱えるような素振りをする。視線誘導だ。
その間にもう片手でさりげなく後ろ向きに手を軽く開いて構える。
龍斗さんがその手の中にこれまたさりげなく飴玉を投げ込む。
お姉さまはキャッチするとそのまま飴玉を握りこんで魔法を唱えていた指先で握り込んだ手の甲をトントンと叩く。
「3・2・1、ばぁ。」
「わぁ!」
「不思議だねー?」
お姉さまはクスッと笑ってそう言うと、そのまま飴玉を子供の手に握り込ませる。
子供は飴玉を消そうと一生懸命に握り込むが、とんと消えない。
その様が可愛らしい。
「よぉし、じゃあ魔法でお母さんを探そうなー?」
「うん!どうするの?」
「とりあえずまずは俺に乗りな。」
龍斗さんは背を向けてかがみ込んでおんぶ待ちの格好になる。
魔法で心を開いた子供は躊躇なくおぶさる。
「お、すごいなー?私より大きくなったなー?」
「えへへ、でしょー?」
お姉さまよりも背の高い龍斗さんにおぶさると、当然お姉さまを少し見下ろす形になる。
とても愉快そうだ。
「よし、じゃあ迷子センターまで俺を操作してくれ!とりあえずここを左だ!」
「うん!左へゴー!」
龍斗さんはぺしぺしと左側を子供に叩かれるとけらけらと笑って左側に歩き始める。
その要領で少しずつ迷子センターまで私たちは子供を送り届けていった。
◆ ◇ ◆ ◇
夕方。紫杏さんたちとも別れて私たちは帰途につく。
「いやぁ、あの子最後にはお姉さまたち連れて帰ろうとしてましたね。」
「飼ってくれないなら僕ここから動かないとでも言いかねない勢いだったな。」
迷子の子供を迷子センターまで送り届けて去ろうとすると子供が嫌だと泣くので私たちはママさんが来るまでずっとその子の相手をしていた。
お迎えが来てからもお姉さまたちからピタッとくっついて離れないくらいの懐かれ方だった。
「お姉さまたち、子供の扱いがお上手ですね。私、何も出来なくて。」
「あぁ、ほら、施設は私たちより小さい子ばかりだから。弟、妹みたいなのが私たちにはたくさん居るようなものだし。あいつ等の相手に比べればな…。」
お姉さまは苦笑いしながらそう答える。
それで皆とても手慣れて居たのか。
「見習わなきゃいけませんね…。」
「別に良いと思うがな。」
私は何一つ出来なくて、ただ後ろで一人ニコニコしているだけで。
そんな私が、少し恥ずかしかった。
「でも、子供と仲良く話すお姉さま、とても素敵でしたよ?」
「ぐっと来た?」
「来てません。」
実は少しぐっときました。
優しい言葉で子供に対応するお姉さまは何かこう、エロい。
何でかは解らないけど。
「お姉さま、やっぱり子供は好きですか?」
「ああ、まぁ好きなんじゃぁないかな?」
「じゃあ、欲しいとかって…思ったりもするんですかね…?」
私は口に出しながらいっとう不安になってお姉さまの手を少し強く握る。
不安なら聞かなければいいのに。つい聞いてしまう。
「んー、そうだな…欲しいと思う相手との子なら欲しいかな?」
お姉さまは私の腰を抱き寄せてにっと笑う。
「そ、そうですか…。」
「まぁ、作れるようになったら真っ先に作りたいけどな?」
「もしかして口説かれてます?」
「口説いてますねえ?」
「素直に言う奴がありますか。」
少し照れくさくなり、私は顔を背ける。
「子供より何よりまずリシアが欲しい。」
「…もう持ってらっしゃるでしょう。」
「そうか、そうだな?」
私は照れくさいながら何とかそう言葉を絞り出すと、お姉さまの声が少し弾むのがわかる。
かわいいものだ。
「帰ろっか。」
「帰りましょうね。晩御飯、何食べたいですか?」
「んー、ハンバーグ!」
「元日夜にねだるメニューがそれですか…。」
私たちは先ほどより一層距離を縮めてともに歩んで帰った。




