新春初売り その2
「あー、なるほど…そう、そうですよね。」
「うん、そうなんだ…。」
お姉さまの見たい物を見ましょうと言ったは良いものの、あまり乗り気でなさそうなお姉さまを何とか連れてきたのがここ。
「…新しいの欲しいって言ってましたもんね。」
「今後のことを考えると、やっぱり不便でな。…どうしても、欲しい。」
そう。
ここはバイク屋さん。
事故で大破し廃車となったお姉さまの愛車。
それに代わるバイクを探しに来たのは言うまでもないだろう。
「ちょっとすでに目星をつけてるのが何台かあって…」
「そうなんですね。私は紫杏さんと…あれ、居ない?」
「紫杏は入るなり自分の見たい物を見に行った龍斗についてったぞ。」
「ああ、龍斗さんもバイク、乗られますもんね…。」
困った。
いまいち居場所がない。
お姉さまが色々見るのにバイクに興味ない私が居てもだしな。
「出来れば一緒に見て欲しいんだ…。」
「私が?全然解りませんよ、私。」
「それでも、一緒に。」
「まぁ…良いですけど。」
お姉さまは私を連れて何台も紹介していく。
「これって、やっぱり大型って奴になるんですか?」
「はは、実は中型って分類なんだ。」
「ということは大型はこれより…?」
「実は、ちょっとは大きくなるが全体的にはそうでもない。だって人間の腕の長さとか体格考えたらこれ以上大きくても困るだろ?」
「まぁそれはそうですね。」
「あれはエンジンの排気量の差だな。まぁ基本スピードの限界値の差でしかないんだよな。」
「車はスピードじゃなくてサイズで変わるのに変な感じですね。」
「そうだな。ちなみに私は一応大型で持ってるぞ。コスパ的にバイクは中型にするつもりだが。」
「へぇ、そうなんですね。」
「…リシアも、免許、取るのか?」
お姉さまはなんだかバツの悪そうに顔をのぞき込む。
まぁ、言いたいことはわかる。
多分お姉さまが思ってることをそのまま私は思ってるし。
「ちょっと前は欲しかったんですけど…その、怖いんですよね。」
「うん、だろうな。」
お姉さまは深く頷く。
その感情が、自分のせいだからとよくわかっているから。
「私は出来れば取って欲しいな、と思ってる。免許が欲しいと聞いたとき、それはとても嬉しかったんだ。今も一緒にツーリングするのを楽しみにしている。」
「でしょうね。でも、正直お姉さまがバイク買いたいというのもまだ反対なんです。必要なのも解っているので、思っているだけなんですが。」
今でも、まだあの日のことを思い出すことがある。
朝目覚めて、この人が横で寝ていることに安堵することもよくある。
もう二度と、あんな目には遭って欲しくないのだ。
そのためにはバイクに乗らないのが一番なんだとは思う。
もちろん、それは私のただのワガママだということも。
「だろうな。」
「だから、こうして説明してもらっても何だかなあって。」
むしろ、あんまり見たくない。聞きたくない。
嫌なことをたくさん思い出すから。
私の見えないところでやって欲しい。
「それでも、君と決めたい。」
「どうしてですか?良いじゃないですか、ご自分でお決めになったら。」
私はお姉さまの手を振り払う。
「リシアが納得するまで話し合おう。」
お姉さまは私の手を取り直す。
「反対しますよ?私は。」
私はうつむく。
「それでも。君が最後まで積極的に賛成してくれないなら、私は買わない。」
お姉さまはうつむいた私の顔をのぞき込む。
「どうして、そんなにこだわるんですか。勝手になされば?」
私はイラついて少し語気を強めてしまう。
「だって、バイクともなったら家族の買い物じゃないか。なら、君の許可が要る。」
お姉さまはそんな私に出来る限りの笑顔で答える。
「どうせ要るのでしょう。なら別に反対は出来ないです。」
私はその笑顔が今は少し辛くて顔を背ける。
「でも賛成はしてくれない。なら納得するまで話そう?リシアがそれなら賛成しても良いなと思うまで。」
お姉さまはそんな私の顔を追う。
どこまでも、逃がしてくれなくて。
「…事故は全ては未然に防げないじゃないですか。なら、賛成も出来ないです。」
「そうだな。じゃ、やめとこっか。」
私の発言にお姉さまぱっと諦めたように引く。
「…でも、必要でしょう。」
「まぁ、何とかなるさ。きっと。」
「良いんですか?それで。」
「家族の許可がないなら買えないさ。最終的には君にお財布管理して欲しいしなー?」
お姉さまはそうあっけらかんと笑い、全て諦めたように歩き出す。
「龍斗を探しに行こうか。」
「お姉さま。」
「なぁに?」
「ゆっくり、話し合って決めましょうか。」
「…うん、そうしてくれる?」
「ええ。よろしくお願いします。」
今はまだ、賛成はできないけれど。
きっとすぐに説き伏せられてしまうのだろう。
家族だと、言ってくれる限り。
なんだかんだ、あなたには敵わないのだ。
きっと、あなたも私には敵わないのだろうけど。
「よかった。実はこれはね…」
「待ってください、さすがにバイクの機体の熱い語りは要らないですからね?私にとって必要事項だけ。」
「えぇ…」
「残念そうにしない。それから予算は…うーん、この程度で。」
「もうちょっと何とかならない?」
「なりません。」
「リシアが厳しい!」
「なら、やめときます?」
「ふふ、いや。増やしてもらえるまで頑張りますか。」
「私は手強いですよ?」
私たちは笑いあう。
そんな私たちをいつの間にか後ろで見ていた紫杏さんたち二人に後でさんざ茶化されるとは今はまだ思っても居なかった。




