ポッキーの日特別SS
普段あまり実際の製品名は出さないようにしているのですが、こればかりはポッキー表記が一番だと思いました。
棒チョコだとなんだか雰囲気が壊れますしね。
4カップルのそれぞれのポッキーゲームをお楽しみください。
リシアとレベッカの場合 (レベッカ視点・結婚後)
11月11日。
この1の数字が四つ並ぶ日は、恋人たちにとって少し特殊な意味を持つそうだ。
領主館で働く人間たちからその噂を聞きつけた私は、とあるお菓子を片手に廊下を走る。
どうやらアランは撒けたようだ。
「リシア、今日が何の日か知っているか!?」
私はリシアの働く部屋の戸を開けながら、声を掛ける。
「お姉さまが公務をサボって私の部屋にやってきた日です。」
リシアは冷たい目でこちらを見ながらそう答える。
「違う!…いや、違わないが。違う。違うのだ。」
「すいません、アランさんを見つけて呼んできてもらえますか?」
リシアは素気なく側仕えにそう声を掛けると、側仕えは大きくうなずいて部屋を出ていく。
「ポッキーゲームを…しよう!」
「はぁ?」
リシアは何を言っているのかと言わんばかりに首を傾げる。
「知らないか?ポッキーゲームというのは…」
「知ってます。首を傾げてるのはそれを言うためだけにここに来たお姉さまの脳内です。」
「なら話は早い!やろう!早く!」
私はポッキーを箱から取り出し、その端を咥える。
目を瞑ってリシアが逆サイドを咥えるのを待つ。
「はぁ。相変わらず馬鹿ですねぇ。」
リシアがこちらに歩み寄る気配がする。
ポッキーゲームが…始まる…!
しかし、私がポッキーを一層前に突き出すようにするとリシアはそれをすっと口から抜き取ってしまう。
「あっ…」
ポッキーゲームに乗ってもらえないのだろうか。楽しみにしていたのに。
そう私が残念がるのも束の間、リシアは私の唇に熱烈なキスをする。
そうして長い時間そうしていたかと思うと、唇を離し呆けた私の顔を見ながらポッキーをかりかりと食べてしまう。
「やりたかったメインはこちらでしょう。満足しましたか?」
「あ、あぁ…とても…満足だ…。」
「良かったです。それではアランさん、連れて行ってください。」
「感謝します。」
「おい、やめてくれ!」
私はいつの間にか後ろに忍び寄っていたアランに羽交い締めにあうと、そのまま引きずられ部屋から引っ張り出される。
戸が閉まる直前、リシアがこちらに声を掛ける。
「ちゃんとお仕事済ませたら、今晩はポッキーゲーム、たくさんしましょうね?」
リシアはひらひらと手を振りそのまま戸を閉め切ってしまう。
…頑張ろう、明日の分まで終わらせてしまおう。私は心に決意した。
◆ ◇ ◆ ◇
シンシアとカイトの場合(カイト視点・学生時代)
「こいつはどうしたもんかね…。」
手の中のお菓子の小袋を所在なげに弄りながら溜め息を吐く。
今日は11月11日。この手元のお菓子の形状になぞらえ決められたポッキーの日だ。
恋人たちの多くは今日という日にこのお菓子の端と端を咥え食べるのを競い合う儀式があるそうだが…
「あいつ、こういうのは絶対嫌いだもんなぁ…。」
シンシア・ハリス伯爵令嬢。
俺の恋人になって半年ほどになる女性だ。
落ち着いた、静かな雰囲気を好み、浮ついたものを嫌う。
そんな彼女にとってこの手の儀式は嫌悪すべきものの一つだろう。
自分も最初はそんなつもりは無かったが、ひょんな事から一袋分けて貰うことになった。
甘いものはあまり口にしない自分はシンシアに譲ってしまおうと彼女のもとを訪ね歩いている最中にこれを使った恋人の儀式を思い出してしまった。
「何をされているのですか?」
「うぉっ!?よ、よ、よ、よ、よう!シンシアじゃねえか!元気か?」
自分は向こうから歩いてきていたシンシアの存在に気づかず、すぐ側に来て声をかけられ驚く。
まずい。とりあえず隠そう。
自分はつい後ろめたい想像をしたこともあり、お菓子の小袋を背に隠してしまう。
「…今後ろ背に何を隠されたのです?」
「何でもねえよ。」
「遠目に見ていた感じポッキーの小袋かと思っていたのですが。」
「見てたんなら聞くなよ…。」
そこまでバレていたら仕方ない。
自分は素直にポッキーの小袋を差し出す。
「やるよ。貰ったんだけど俺は食わねえから。」
「ありがとうございます。開けても?」
「ここで立ち食いとはらしくねえな?」
「大変不本意ではありますが、こういうことがしたかったのではなかったのですか?」
そう言うとこいつ最低だなといわんばかりの目でこちらを見ながら、シンシアはポッキーを咥える。
どうやらポッキーゲームがしたいという意で取られてしまったようだ。
恋人である以上断るのも自分のメンツ的に良くないと不承不承に受けてくれたのだろう。
「いやっ…そう言う訳じゃ…」
言い訳が口をつく間も、シンシアは目を瞑って静かに咥えて待っている。
自分は高鳴る胸を抑えながら、勇気を振り絞る。
「…行くぞ。」
ポッキーの端を咥えると、自分は少しずつ食べ進めてゆく。
シンシアは全く動かない。目を瞑ってそのままだ。
その綺麗な顔にさらに心拍数が跳ね上がる。
…後、小指二本分。
そこまで行ったところで、自分は思い直し、ポッキーを噛み砕いてしまう。
「噛み砕いちまった。俺の負けだな?」
やはり、こんな手段を使って口づけするのはよくない。
するときは、シンシアの許可を貰ってちゃんと構えて、だ。
シンシアの優しさにつけ込んでこんなところで自分本位にキスしてもな。
「…後でレベッカ様に一度シメてもらいましょうか。」
「えっ、おい!何怒ってんだよ!おい!」
シンシアは何も言わず背を向けると、つかつかと不機嫌そうに歩き始める。
自分は訳も分からぬままそんなシンシアの背を追いかけた。
◆ ◇ ◆ ◇
□□と麗香の場合(□□視点)
「いやー、買っちゃいましたね…。」
「ちょっと買いすぎた気がするな…。」
「ですねぇ。」
11月11日。
ポッキーの日と称されるその日、スーパーに買い物に立ち寄った私たちはお菓子売場でたくさんの種類のそれが大安売りしているのを見て、思わず大人買いしてしまった。
こたつの上に今日買ってきたポッキーを並べて見て、自分たちが見かけたときのテンションでちょっと信じられない量のポッキーを買い込んでしまったことにちょっと冷静になっている。
「まぁでも、9ヶ月くらい保つんですね。」
「のんびりちょっとずつ食べて行けば良いな。」
「全然消化できそうですね。」
賞味期限を気にしてお菓子を食べるという時点で多少普通ではないのだが、そんな言い訳をしながら何とか納得する。
「早速一つ食べようか。」
「そうしましょう。」
私たちは思い思いにポッキーの箱を開け、食べてみる。
「んー、変わらない美味しさ…。」
「良いよなぁ、いくつになっても…。」
あまり市販のお菓子を食べたことがなかった私でも、さすがにポッキーくらいはある。
食べた当時はその美味しさにビックリしたものだ。
市販の量産品でこれほどの味が出せるものなのだな。
「その細いの、美味しい?」
「これはこれで良いですよ。細身な分食感がシャープですね。」
「ふぅん、一本貰って良い?」
「構いませんよ。」
私は自分の分を一本口に咥え、袋からもう一本取り出そうと漁っていると…
ぱくり。お姉さまが私の咥えたポッキーの逆端を咥える。
さくさくさく。私が面食らってるうちにお姉さまはどんどんと食べ進んでゆく。
私はそこでやっとポッキーから口を離す。
「あっ…」
「急に何ですか、もう。」
私は突然のお姉さまの暴挙に抗議する。
いやまぁ、暴挙というほどでもないんだけどさ。
「こっちも食べてみない?」
お姉さまは自分のポッキーを口に咥えてこちらに差し出す。
「いや、良いです。」
「そう言わずに。」
お姉さまはそのまま徐々に近寄ってきて、私を壁際に押しつけると、手で逃げ場を無くすと、咥えたポッキーの先で私の口をつつく。
「はぁ。そこまで言うなら。ただ容赦しませんからね?」
私は差し出された先を咥えると、焦らす様に少しずつ少しずつ、食べ進んでゆく。
そして距離がとても近くなったところで、お姉さまの背を抱き、逃げられないようにしてそのまま口づけする。
そうして長く口づけした後、そのままお姉さまを後ろに押し倒すようにする。
「お姉さまが…いけないんですからね…?」
◆ ◇ ◆ ◇
紫杏と龍斗の場合(紫杏視点)
「見て見て~!ポッキーよ!」
「それがどうしたんだよ?」
11月11日。ポッキーの日。
普段なら無駄遣いと買わないお菓子だけど、今日という日は例外だものね。
私はせっかくだからと買ってきたポッキーを龍ちゃんに見せるが、反応が薄い。
「そんなの決まってるじゃない。ほら!」
私はポッキーを袋から取り出し、端を咥える。
龍ちゃんは予想していなかったのか、少し困惑した表情になる。
「…何だよ急によ。」
「……」
「本当にやんのか?」
「……」
「おーい、何とか言えよしぃ。な?」
「……」
「マジか…。」
私が龍ちゃんの呼びかけをすべて無視して咥えて待っていると、しぶしぶ龍ちゃんは逆端を咥える。
だが子リスの様な勢いでしか食べ進まない龍ちゃんを見て、仕方ないので私はどんどん食べ進める。
そうして二人の顔が近づいたところで、龍ちゃんは口を離して逃げようとする。
私はそんな龍ちゃんを追いかけて、軽く唇を触れあわせる。
「なっ、おい。」
「ふふ、龍ちゃんは可愛いわねえ、相変わらず。」
「はぁ。しぃには敵わねえよ…ほんと。」
私は照れくさそうに頭をかく龍ちゃんを見て、もう一度唇にキスをした。




