初詣に行こう! その1
「よぉ、あけおめ。」
「どうも~、あけましておめでとうございます~。」
「あけましておめでとう。」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
玄関先で挨拶をすませる私たち。
新年らしいやり取りにほっとする。
「あれ、□□ちゃん晴れ着着ようかな?って言ってたよね?結局普通の服にしたの?」
「そうなんですよ。麗香さんがダメってうるさくて…。」
お姉さまの方を軽く見やる。
「そうなの?どうして?」
「晴れ着を着た□□が可愛すぎるからだ。」
「あ~なるほどね~。」
「それで伝わるんですね…。」
一見支離滅裂とまでは行かずとも訳の解らない返答に見えるのだが。
「可愛すぎて、他の人に見せたくないってことでしょ?」
「うむ。ちなみに写真には収めたので、現像しようと思っている。」
「まだ諦めてなかったんですね…。」
あれほどダメだと念を押したはずなんだけど。
いっそのこと画像データごと没収せねばならなさそうだ。
「それで?晴れ着脱がせたの?麗ちゃん?」
ん?どういう意味だ?
「ロマンだと思うんだがなあ。ダメだって。」
「それは残念ねえ。」
「今度脱がすために着て貰おうかな。」
あ、これ、ちょっとやらしい話だ。
私はそれに触れず苦笑しながら二人を眺めている龍斗さんに話を振る。
「あの二人って、ああいうところあるんですね。」
「そうなんだよなぁ。女同士のそういう談義って、男が交じるわけにもいかねえし、居たたまれないんだよな。」
「私は龍斗さんの味方ですよ…。」
「龍斗、何うちの□□を口説いている?表に出ろ。」
「今表だろうがよ!」
お互いそうしてじゃれあいを終えたところで初詣に繰り出す。
「今日はどこに行くんですか?」
「去年までは麗ちゃんのために縁結びの神様にお参り行ってたんだけど…今年はどうしましょうかねえ。」
「何、あれは縁結びの神様だったのか?聞いてないぞ。」
「言ってないもの。」
「ま、効果はあったんじゃねえか?」
龍斗さんがちらりと横目でこちらを見る。
…まぁ、あったと言って欲しいですよねぇ。
「それはそうだ。こーんなに愛おしい恋人と結び合わせてくれたのだから。今回はそのお礼に行こうか。」
「構いませんよ。」
「別に縁結び以外に効果がねえわけでもねえしな。」
「私はもっと縁結びされたいけど~?」
「俺以外に乗り換える気かよ!?」
「解ってると思うけど、冗談よ。」
「たまにそう聞こえねえ時あんだよなあ。気をつけねえと…。」
「頑張りましょうね、龍斗さん?」
「何を□□といちゃついてるんだ、表に出ろ龍斗。」
「だから表だっての!」
軽快なやり取りをする元日の朝の空気は、とても澄み渡っていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「たこ焼き…イカ焼き…大阪焼き…今川焼き…」
「□□ちゃん、麗ちゃんの手しっかり握ってなさいね?」
「これ、もしかして居なくなる奴です?」
「奴です。朝ご飯食べさせておいた?」
「食べさせたはずなんですがねぇ…。」
「空腹の時の奴はだいたいこんな感じだがなぁ。しかもいつの間にか居なくなる。」
「動きが野生の獣の様に機敏なのよね…。」
「お姉さまは野生の熊だと思ってます。」
「違いねえ。」
「ベアーパンチ!」
「ぐへぇ!?」
龍斗さんがわき腹に思いっきり蹴りを入れられてくの字に折れ曲がっている。
ベアーパンチ??
「てめえ、麗香!今日こそ容赦しねえぞ!」
「ああ、掛かってこい!」
お姉さまは私の手を振りほどき龍斗さんとつかみ合いを始める。
「…紫杏さん、あれ、どうしたらいいんですか?」
「気が済むまで放置。私たちは参拝に並びましょうか。」
「ええ、良いんですか…?」
「慣れないと、身が保たないわよー?たぶんそのうち力負けしてぺしゃんこになった龍ちゃんとピンピンしてたこ焼き持った麗ちゃんが追いつくから。」
「龍斗さんがなんか少し可哀想な…。」
「見た目通り丈夫だから大丈夫。そもそも煽る龍ちゃんにも責任あるしね。」
紫杏さんはこんなものへでもないといった顔で歩き始める。
少し気になるが、すでに龍斗さんが押されて120°くらいの角度になっているのを見て、そうかからなさそうだなと思い、私は紫杏さんを追いかけた。




