君の素敵な姿を
麗香視点です。
朝。
腕の中でリシアがもぞもぞしているのがわかる。
どうやら目覚めたらしい。
私は少し腕を緩めてやると、リシアはこちらに向き直り一呼吸おく。
どうやら寝ているか確認しているようなのだが、寝てはいるため毎回このチェックはくぐり抜ける。
それからリシアは私の体に顔を埋めると、とてもとても深い深呼吸を始める。
毎朝のルーティーンだ。
どうやら毎度私の体臭を吸っているらしい。
別に私の匂いが好きだからめいいっぱい吸いたいと言ってくれれば好きなだけさせるのに、とは思いながらも、私も朝のこれを楽しみにしている節がある。
それからしばらくすると、必ず手が腹筋へと落ちてくる。
最初は静かにゆっくり、形を確かめるように。
少しずつ弄ぶように強くなり、満足するまでそれが続く。
リシアは私の筋肉大好きだからな。
何故か隠せてると思っているぽいのが不思議だ。全く隠せていない。
そこから今度はリシアは全身で私に抱きついてくる。
そして自分がどんなに私のことを好きか語った後、だいたいは起きるか二度寝するかする。
今日のリシアは起きるようで、そのままもぞもぞと拘束を抜けて起きあがる。
ちょっと早い気もするが?
そのまま服を着てどこかに行くと、そのうちキッチンで朝食の準備の音がしてくる。
起きて手伝わないと、とは思うのだが。
この状態は金縛りに近いというか。
私の眠りは基本意識が残っていても自分の意思で何か出来たりはしないのだ。
よほど何かあれば気合いで起きることも出来るが、とても疲れる。
今日もリシアが起こしに来るのを大人しく待つ。
まぁ、起こしに来てくれてもなかなか起きれないんだけどね。
リシアと寝る前は普通に起きれたんだけどな。
朝食の準備だけにしてはちょっと長いというか、途中着替えたりだとか、食事の準備以外の音も聞こえてくる。
寝室にもちょくちょくやってきては何かをしてまた戻ってゆく。
初詣の準備かな?
そんなことを思っていると、リシアがこちらに来て、軽く口づけしてから体を揺する。
「お姉さまー。そろそろ起きてくださいよー。」
「うーん。」
今日はそこそこ寝れていたので容易に体を起こせる。
「お、早い。えらいですね。」
「だろう?…ん?」
寝ぼけているのだろうか。私は目をこすって再度リシアを見る。
「気づきましたか。似合います?」
目の前には晴れ着姿のリシア。
薄ピンクと白を基調にした派手な桜の花柄で、足下は暗く宵闇の様なカラーでグラデーションされている。
何というか…とても、綺麗だ。
それ以外の褒め言葉が全て陳腐に感じる。
「すごく綺麗だ…。」
「ありがとうございます。実家からよければ正月に着なさい、って送られてきたのを思い出しまして。」
ありがとう実家。この世に天使を産み出してくれて。
「難しい顔されてますが、何か不満でも?」
「違う。リシアが素敵すぎてリアクションが取りづらい。」
「そうですか。今日はこれで初詣に行くつもりなので、慣れてくださいね。」
そうかー。初詣をこれで…初詣をこれで!?
「ダメだ!」
「何ですか急に大きな声で。」
「そんなことしたら、世間がここに女神が居ることに気づいてしまう…!」
「寝ぼけてるんですか?」
断じて寝ぼけてなんていない。
「そんな綺麗な姿で外を歩いて見ろ、ひっきりなしにナンパされること受け合いだ!」
「お姉さまですらたまにしかナンパされてるとこ見ませんが?」
「リシアはそれをゆうに越えてるということが何故解らない!?」
「全然解らないですねぇ…。」
ぐぬぬ。
今の君は今まで見てきた何よりも綺麗だというに。
どうして解ってくれないんだ。
「とにかく!ダメだ。こんな素敵な姿、ほかの誰にも見せたくない…。」
「はぁ。そうですか。」
リシアは呆れた、という顔でこちらを見る。
でも嫌なんだもん。
他の人たちの視線など集めて見ろ。嫉妬の炎に焼かれる自信があるわ。
「せっかく用意したんですけどねぇ…。」
「うん。だから写真を撮らせて?」
「はい?」
「ちゃんと綺麗に撮るから。撮ったら現像して引き伸ばして飾ろう。な?」
「撮るのはまぁ許しますけど、それ以後はダメですからね!?」
「じゃ、用意してくる!」
「ちょっと、お姉さま聞いてますー!?」
今の素敵なリシアを写真に収めよう。
そして一生大切に保存しよう。
私は高鳴る胸とともに慌てて身支度をして、カメラを取りに行くのだった。




