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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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大晦日 その2

麗香視点です。

ふわっと香り立つかつお節の香り。

澄んだ薄茶色の液体の中に白い麺が沈む。

その麺を持ち上げて啜ると、強いコシにお出汁の味わい。だが決して醤油味がないわけでもない。

こたつの温かさにうどんの温かさが重なる。


「美味しいですね。」


目の前の少女はつるつると麺を啜り屈託のない笑顔を見せる。


「ああ、美味しいな。」


うどんの美味しさはもちろん、年末年始にこうして二人でのんびりと年越しうどんを食べていられる。

そんな状況がうどんをとても美味しくさせる。


「やはりうどんは良いですね…。」

「リシアは本当にうどんが好きだな?」

「そうですよ。一番好きです。」


一番?その響きはいただけない。


「私よりも?」

「当然ですが?」 


えっ。

何を当たり前のことを、と言った顔で返される。


「そんな…うどんに負けた…」

「別にお姉さまが嫌いとは言ってませんからね?」

「私が一番が良い。」


悔しい。

うどんめ、憎々しい。

こんなもの、こんなもの!

私は怒りを篭めてうどんをすする。

悔しいが美味しいな。


「はぁ…そんなことで拗ねないで下さいよ。」

「私はリシアが一番だが?後拗ねてない。」


リシアはため息をつきながら丼を持ってこたつを立ち上がる。

余所で食べるというのだろうか?

私は悲しい。

そう思っていると、リシアがスペースをあけろと手でアピールする。

私はこたつから少し離れて足を開く。

するとそこにドスンと座り込む。


「じゃあもうお姉さまが一番で良いですから。」

「一番で良い?」

「あーもう!面倒くさいんですから!本当!」

「いでっ」


リシアがバシッと太ももをたたく。

逃げ場がなくされるがままだ。


「お姉さまが一番ですよ!これでいいですか!」


リシアが見上げてぷんすかしながらそう告げる。


「本当?」

「何度も言わすならもっかいたたきますよ?」


もう可愛い。可愛すぎないか?


「私もリシアが一番好きだよ。愛してる。」


私は後ろからギュッと抱きしめる。


「面倒くさい!うどんが伸びる!」

「良いじゃないか、ちょっとくらいつきあってくれても。」

「いくらお姉さまでもうどんが伸びるまで食べるの邪魔したら許しませんからね!?」

「おお怖い。」


私はリシアをぱっと離す。

リシアは引き続きうどんをすすり始めたので、私もそれに倣おうとする。


「…この体勢でうどんは食べづらいな。」


体を丸めてうどんをすすろうにも前にリシアが居るので出来ない。

結果的に丼を持ち上げるしかない。


「知りませんよ。こうやって機嫌取らせたのお姉さまでしょう。」

「まぁ、そうなんだがな…。」


私は苦笑しながら丼を持ってうどんをすする。

まぁ、離れてほしくもないし、こうする他ないな。



◆ ◇ ◆ ◇


「「ごちそうさまでした。」」

「私がかたしてくるよ。リシアは座ってて?」


私は空になった丼二つを持って立とうとする。

リシアは太ももに手をそっと置いて止める。


「んー、まぁ別にもうちょっとのんびりしていいんじゃないですかね?」

「そうか?」


上げかけた腰を戻す。

何か考えがあるのだろうか?

リシアは完全に私に身を任せるようにもたれ掛かると、そのままぐでっと見上げる。


「さっきの続き。お姉さまは後は私のどんなところが好きなんですか?」

「ふふ、まだやるの?」


うどんを作るまでしていた、リシアの好きなところを説く会だ。


「まだ語り足りないとおっしゃってたのでー?なければよろしいですがー?」

「いーっぱいあるさ。語って聞かせてやろう。」

「あ、激しいのは無しで。疲れましたからね。ゆっくりお姉さまにもたれながら聞いてあげます。」

「良いだろう。」


私はゆるーくリシアの体を抱えながら話し始める。


「そうだなあ、リシアの尽くしがちなところが好き。」

「そんなに尽くしてるつもりないですが?」

「私が積極的に関わらないとなんでも一人でしてしまうじゃないか。朝もなかなか起きれない間に全部済んでるし。」

「…それはー、そうですね?」

「そうだろ?」


私は認めたくなさそうなその顔を見て少し笑ってしまう。


「ちょっと意地悪なのに優しいところもとても好き。愛おしい。」

「やっぱりうどんのが好きです。」

「そういうとこだぞ?」 


リシアはつんとそっぽ向くフリをする。


「身も蓋もないこと言ってもいい?」

「だめです。」

「リシアの顔が好き。」

「お姉さまって、物好きですよね…。」

「そう?リシアめちゃくちゃ可愛いと思うのだけど。」

「そういうの、お姉さまだけですよ?」

「紫杏も言ってるじゃないか。」

「紫杏さんのはまたちょっと違う奴です。」

 

納得は行かないがとりあえず引いておく。


「これはーうん、変態ぽいんだが…」

「変態じゃあないですか。」 

「違う。リシアが好きなだけだ。」

「変態ですね。で、何ですか?」

「胸の谷間の匂いが好き。」

「変態!!」

「よく嗅いでしまう。」

「それでいっつも顔埋めてるんですね!!変態!!」


めちゃくちゃ叩いてくる。

いつもと違って容赦がないのでちょっと痛い。

が、まぁ仕方ない。


「それからー。」

「まだあるんですか?」

「変態なのでたくさんある。」

「はぁ…」


一年の残りを過ごすのに一番有意義な時間だった。


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