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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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年末のあれこれ その2

冷蔵庫に買い出したものをみちみちに詰め、買ってきた掃除道具を並べた私たちは大掃除に向け打ち合わせを始める。

しっかし、お姉さまと二人だと冷蔵庫が少し小さい。

いっぱい食べる奴が居るから、人並み以上の食材が必要なのだ。


「私はキッチン周りから始めますから、お姉さまは窓と高いところの掃除から始めてもらえますか?」


こういう時に無駄にデカいその身長が役に立つ。

私では届かない窓の上の方だったりエアコン周りも簡単に掃除できる。

適材適所、とはこのことだ。


「一緒にやるんじゃないのか?」

「?一緒にやっているでしょう?」


お姉さまの要領の得ない質問に思わず首を傾げる。


「そうだけど、そうじゃなくて…こう、リシアと二人並んで楽しいね、って感じのを想像してたんだが…。」

「んなわけないでしょ、私がキッチン周り掃除してるときにお姉さま居たら普通に邪魔ですもん。」


ただでさえ大きいのに。


「そんな…それじゃ施設の大掃除と一緒じゃないか…。」

「一緒ですが??」

「クソっ、掃除しやすいようにリシアが薄着でするとかは…」

「無いですね。」


そもそもうちを使ってるのだからまじめにやれ。

さては施設の大掃除もサボってたクチだな?


「はい!やりますよ!いいですね?」

「あぁ…。」

「…私が頑張ってたなー、と思ったらご褒美、あげますよ。」

「頑張ります!」


お姉さまはガラスクリーナーと雑巾、バケツを持って駆けだしてゆく。

私が動く間もなくもう窓拭きに入っている。

変わり身速いなおい。

私もキッチンの掃除を始めるかぁ。


◆ ◇ ◆ ◇


キッチンに増えた様々な調味料類を一つ一つ賞味期限を確認しながら避けていく。

ほとんどは、この数ヶ月で増えたものだ。

ミルで挽くタイプのピンクの岩塩やだし醤油、コチュジャン、ガラムマサラなどのスパイスまで。

よくここまで集めたものだ、と我ながら呆れる。

家の教育で料理こそ一通り身につけた私だが、元々そこまで食べ物に興味はなかったはずなのだけど。

料理上手で食べ物大好きの癖に、最近は私に作ってもらうのをこよなく愛している誰かさんを頭に浮かべて少し顔がにやついてしまう。

なお、私が冷凍うどんを好んで食べるのを何故か極端に取り締まるせいで、冷凍庫には消費するはずだったたくさんの冷凍うどんが眠っている。

うどん、食べたい。


◆ ◇ ◆ ◇


乗せていたものを全て避けたキッチン周り。

この空間はこんなに広かったかと驚愕する。

一年間、と言っても入居が3月だから9ヶ月か。

私たちの食卓を支えてくれた感謝を籠めて掃除していく。

まずは軽く上を掃いた後、隅々まで丁寧にクエン酸シートで拭いてゆく。

お姉さまに、塩素系のものと合わせないようにと念を押されたが私はそんなミスはしない。

ふふんと機嫌よく綺麗になっていく様を眺めてゆく。


「リシア、窓拭き終わったぞ!」

「速くないですか?」


想像の三倍くらい速い。

本当にやれてるのか?


「ちゃんと丁寧にやったよ、褒めてくれ。」


お姉さまは撫でてと言った風に頭を差し出す。


「それは偉いですね。」


特に断る理由もないので頭を撫でておく。

これがモチベーションになるならいくらでも撫でる。


「うん、うん…。」


お姉さまは幸せそうな顔でひとしきり撫でられている。


「じゃ、次は高いところお願いしまーす。」

「任せておけ。」


お姉さまはまた室内を駆けてゆく。

あれだけ走ってドタバタ言わないの、すごいよなあと私はお姉さまの後ろ姿を見送った。


◆ ◇ ◆ ◇


大掃除を始めて、キッチン掃除に食器棚の掃除と終えてとりあえず一段落。

今年一年大活躍だった計量出来る米びつを綺麗に拭いてやったところで、私は一息つく。


「お姉さまー!」

「何だー?」


トイレからお姉さまの声が聞こえてくる。

あれから高所を全て済ませたお姉さまはトイレの掃除を任せておいた。


「おやつにしましょうか!」

「今行く!」


水を流す音がした後、すぐにお姉さまは出てきてこちらにやってくる。


「手、洗って来てくださいな。」

「うん。」


お姉さまが素直に手を洗っている間に、ドーナツを並べておく。

買い出しの帰りにドーナツ屋で六個ほど購入したものだ。

コーヒーを添えて、テーブルでお姉さまを待つ。


「半分ずつかな?」

「お姉さま四つ、私二つで良いですよ。」


手を洗い席に着いたお姉さま。

今にも食べたそうな顔をしているが、何とかこらえている。


「じゃあ、リシアが二つ選んでくれていいぞ?」

「わかりました。」


今日は私も疲れているので、お姉さまの意向を気にせず自分の食べたい物を食べたい。

私は素直に選ぼうと期間限定のものを一つ取る。


「あっ…」

「何ですか?」

「な、何でもない。」

「ならすごーく取りづらい顔するの、やめてもらえません?」


お姉さまは干からびたキュウリみたいな顔をして期間限定のドーナツを見つめる。


「そ、そんなことはないぞー?」

「はぁ、じゃあ二つ目はこれを。」


私は丸い団子みたいなものが数珠繋ぎになっているドーナツを手にする。

もちっとしてておいしいんだよね。これ。


「あぁ…あぁ…」


ゾンビの呻き声みたいなものが正面から聞こえる。

というか、目の前にいるの、ゾンビかもしれない。

そんな顔をしている。


「…お姉さま、これ、食べたかった奴ですか?」

「ち、違うぞ。断じてそんなことはない。」

 

お姉さまは何かを振り払うように首を横に振る。

隠しきれてない。可愛いなぁ。


「じゃあ、取っていいんですね?」

「……。」


目をそらす。

もう一度。


「取っていいんですね?」

「食べたかった奴、一位と二位なので…どっちか…残してください…お願いします…。」


お姉さまはとても申し訳なさそうな顔で吐き出す。


「はぁー…。仕方ないですね。じゃあこれで。」


私は片方を皿に戻すと、シンプルな堅いドーナツにチョコ掛けされたものを選ぶ。


「あっ、それは三位…!」


さすがに知らん。

私はお姉さまの目線を無視して自分の取り皿に乗せた。





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