何もしない日 その2
トースターにパンを入れて、バターとジャムの用意をして。
ちなみに、私はバターは先塗り後焼き派だが、お姉さまは先焼き後塗り派だ。
一度私の感覚で塗って焼いたら、微妙な顔でバターは?と聞かれたのでそれきりジャムと共にバターを食卓置いておくことにした。
朝はお姉さまはコーヒーだ。無糖で、ミルクを多めに入れて飲む。
私はドリップバッグを開け、何度かに分けてお湯を注ぐ。
それほど自分はコーヒーにこだわりはないので、ずっと粉のインスタントコーヒーを使って居た。
が、頂き物のちょっとお高いドリップバッグコーヒーをお姉さまに出したところ、これがとてもウケが良い。
今はその時と同じ銘柄のドリップバッグを大量に買い備え付けている。
何時か余裕のある生活が出来るようになったときにはドリップから始めても良いかもしれない。
そうして朝食の準備が大方整った頃。
後ろからギュッと抱き留められ、回り込むように覆い被さられると、軽く口づけされる。
「おはよう。」
「おはようございます。」
お姉さまがパジャマを羽織りきりっとした顔で挨拶する。
まぁ、長い睫毛に乗っかった目やにが思いっきり主張しているのだが、それは見なかったことにしておこう。
「何か、手伝うことはあるか?」
「じゃあ、これ全部持って行ってください。」
「任された。」
お姉さまは一度にたくさんの食器類などを手に持っては運んでいく。
今にも落としそうに見えるが、見事なまでのバランス感覚で運ぶのはいつも見ているけれど未だにハラハラする。
ひとしきり運び終わったので、私たちはそのまま席に着く。
「「いただきます。」」
私はチョコレートソースの瓶を、お姉さまはバターの箱をそれぞれ取って塗り始める。
「チョコレートもいいなぁ。」
「片方あんずにして、片方はチョコレートにされては?」
「そうしようかな。」
お姉さまは納得したように頷き、あんずジャムをトーストに塗って食べ始める。
「美味い。」
「お姉さま、あんず好きですよねぇ。」
色々ジャムを取りそろえて毎日違う物を食べているが、その中で選択される率が高いのがあんずとブルーベリーだ。
ちょっと酸味があるのが好きらしい。
「梅ジャムより好きかもしれない。」
「系統は同じはずなんですけどね。」
「甘みが足りないんだ。」
お姉さま甘党だからなあ。
よくあれだけ甘いものばかりで太らないものだ。
「今日は何か予定があったか?」
「今日から年明けまで暇ですよ。」
「ふむ。」
お姉さまは少し考えこむようにする。
ん、チョコレートソースおいしい。
「特にこれといって、なんだよなぁ。」
「別に、何もしないのも良いんじゃありませんか。」
お姉さまだからこそ、そう言える。
何もない日も、一緒に居るだけで幸せだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「リシアー…。」
「何ですかー…?」
「背中が痒いー…。」
「そうですかー…。」
昼下がり。
私たちはブランチをすませると、そのままコタツに入ってのんびりし始めた。
お姉さまがコタツ用に買った座椅子に座り、私はその足の間に座る。
後は特に何をすることもなく、ただ時間を過ごす。
「掻いてくれないか…。」
「いやですよう、動きたくないし…。お姉さまが背を向けたら掻いて差し上げます。」
「動きたくない…。」
お姉さまは諦めたのか、少し服をめくり上げ、座椅子の背もたれに背中を押しつけて擦るようにして掻いている。
ずぼらめ。
「次、外に出たら孫の手を買おうな…。」
「いつになるかは知りませんけどねー…。」
少なくとも今日ではない。
「リシアー…。」
「何ですー?」
「やはり、物足りない…。もう少ししっかり掻きたい…。」
「そうですかー。頑張ってくださいねー。」
「薄情ものぉ…。」
私たちの何もしない昼下がりは、のんびり過ぎてゆく。




