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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
286/321

二人 その1

麗香視点です。

今回と次回はピンク色強めなので、苦手な方はご注意ください。

「月が綺麗だな?」

「私、死んでも良いわ、ですか?」


食後私たちは部屋の広縁で向かい合って座り、外を眺める。

向かい合って置かれた二つの椅子の真ん中に鎮座するテーブルに、昼間売店で買ったおつまみを広げてビール片手に夜空、山の端にぽっかりと浮かんだ月を眺めながら呟く。

それは別に他意なく、ただ月の美しさから発した一言だったけど。

リシアから別の意と取られ帰ってきた解答に幸せな気分になる。

確かに、君と見る月だからこそ、こんなにも美しく、口からその美しさがついて出るほどに感じるのかもしれないな。

かの文豪が何故そう訳したのか、何となく想像してみる。


「愛してるよ。」

「私もです。」


互いに互いの目を、静かに見つめ合う。

二人の間に不思議な空気感が生まれる。

…お風呂も入った、夕食も食べた。

寝るまでにすべきことは済ませたはずだ。

こういうのはやはり年上の私から、なのだろうか。

前の世界でもリシアに押し倒された経験しかないので緊張する。


「私があげたピアス、本当に似合ってるな。」

「ありがとうございます。」

「触っても良い?」

「良いですよ。」


自然?にリシアと接近する口実を得る。

初めてリシアの家に泊まったあの日から、ずっと溜めてきたこの気持ち。

今にも爆発しそうなそれを抑え込みながら、リシアに近寄る。


「穴も安定してきたみたいだな。今度、また一つ良いのをプレゼントしたいな。」

「ふふ、同じ色の物が良いですね。」


リシアはそんなことを言ってみせる。

そのピアスは私の目の色だと知っていて。


「その、リシア?」

「何でしょう。」


私は意を決してリシアにがばりと抱きつこうとする。


「あっ。」


その瞬間リシアのスマホから音が鳴り、そのスマホを止めようとかがんだため私は空振る。

おっとっと、私はバランスを崩しそうになるも持ちこたえる。


「時間、ですか。」

「…何の時間だ?」


リシアは長く息を吐くと、意を決したようにこちらを見る。


「行けばわかりますよ。」

「ああ…。」


これからどこかへ行くのだろうか。

折角いい雰囲気で二人きりの部屋だったのに残念だ。

…焦るな私。

まだ今日は長い。

今まで我慢してきたのだ、これくらい。

私は自分にそう言い聞かせながら、リシアに手を引かれ部屋を出た。


◆ ◇ ◆ ◇


「……」

「……入り、ましょうか?」


狭い、二人きりの脱衣室。

目の前でリシアが恥ずかしげに前を隠しながら、そう誘う。


「……」

「…なにか言ってくださいよ!」

「すまない、夢を見てるかのようで…。」


今居るのは、貸し切り家族風呂という奴で。

どうやらリシアは事前にこれを予約していたようで、だから風呂に入るのを渋っていたみたいだ。


「恥ずかしいのでさっさと入ってください!ほら!」

「うん。」


私は目が離しがたい目の前の少女から無理矢理目を切り、浴室の戸を開ける。

そこには縦になれば1.5人、横になれば二人ほど入れるだろうくらいの浴槽と、二人同時に洗うには手狭なくらいの洗い場があって。

浴槽はヒノキで出来ており香り高いが、今はそれどころではない。

私は少し緊張しながら桶を取り、湯を掛けるとそのまま浴槽に入る。

リシアもそれに習うようにすると、横にすっと入る。


「……」

「……」


お互い横に目をやらないようにしつつ、ただ静かな時が過ぎる。

どうしよう。どうしたらいいのだろう。

ただ心臓が跳ねるように鳴るのがわかる。


「…本当は、お体流してあげようと思ってたんですけど?もう先ほど洗われましたし、要りませんね…。」


リシアがぽつりと、恥ずかしそうな、非難するような、寂しそうな、いろんな感情が入り交じったような声でそうぼやく。


「も、もう一度洗いたい気分なんだ。」

「…必要あります?」


心臓がバクバクする。

でも、一生懸命言葉を紡ぐ。


「ある。」

「…どうして?」


横に目をやれない。

体が熱い。


「り、リシアに洗ってもらいたいから。」

「…ふぅん。」


入院していた頃、半ば無理矢理リシアに体を拭かれていたものだが。

今回はそれとはまた違う。

それですら、二人きりの病室でリシアに見られ触られるのは恥ずかしいという特殊な抵抗感があったのだけど。


「…して欲しいなら、お願いの仕方ってのがあるんじゃないですかね…?」


リシアの言葉にどこか妖艶な雰囲気が乗る。

耳元で囁かれているわけでもないのに、そんな感覚が体を貫く。


「あ、あの。…体、洗ってくれませんか。お願いします。」

「良くできました。」


リシアはそのまま私の手を捕まえ、立ち上がり引っ張るようにして、浴槽を出る。


「ああ、言っておきますけど。貸し切り家族風呂は二室あるので、あまり声を出すと横の部屋を利用してる人に聞こえますよ?」


リシアは意地悪そうに私の目を見てそう言う。

この先どうなるのかが、容易に解るような気がした。








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