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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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温泉へ行こう その8

麗香視点です。

「夕食が来る前にお風呂に入りに行かないか?」

「えっ?…えー…どうしましょうかね?」


夕食前の時間。

今の時間であればそんなに人も多くなかろうと思い、お風呂に入りに行くことを提案してみるが、どうも歯切れが悪い。

やはり共に風呂に入ると言うのは少し気持ちが定まらないのだろうか?

いやでも、全くの初めてという訳でもないしな…。


「何か問題でもあるのか?」

「いや、うーん。そういうわけではないですが…。」


何とも歯切れが悪い。

これは引いた方が良いものか。


「それなら私だけで入ってこようか。リシアはリシアのタイミングで入ればいい。」

「いやっ!えとっ、あの!そういうわけじゃなくてですね…!」


リシアがわたわたと身振り手振りで否定しながら言葉を紡ごうとする。

可愛いな?


「あー…うん。お風呂、入りに行きましょうか…?」

「いいのか?」

「入りたくないわけではないので。」


リシアはそう言うと迷うのをやめてすくっと立ち上がる。

ささっと用意を済ませ、こちらを見る。


「行きましょうか!?」

「ま、待て、私も今から用意するから…。」


ぼっとそれを眺めていた私は慌てて立ち上がって用意を始めた。


◆ ◇ ◆ ◇


「良い湯ですねえ…」

「だな…」


私たちは温泉に浸かり溶ける。

大浴場は露天・室内ともにまだ人はほとんどまばらで思う存分に手足を広げられる。

ここの温泉は海に近いだけあってか、水質が海水に近い気がする。

湯から上がると少しベタつくのだが、その分熱も体に張り付いている様な感覚がする。

塩分が多いと言うことは傷には染みるだろうが、その分殺菌効果も強い。

何というか、私の外傷がだいたい治っていて良かった。


「あー……気持ちいい…」


今日はそこそこ出歩いてお疲れだったのだろう。

リシアはすっかり溶けてぜんざいに浮かぶ餅のようだ。

最初こそ照れがあったが、今は完全に振り切れているみたいだな。


「お姉さまはあんな大怪我をした割りに、目に見えて傷跡が残ってませんね。」

「そうなんだよな。一応手術の縫合痕はちょっと残ってるんだが…ほら。」


わき腹あたりに残った縫合痕を指すと、微妙に遠慮しながらおずおずと見る。


「何というか…」

「何というか?」

「傷がちょっとセクシーに見えて、新しい扉を開きそうですね…」

「はっはっは、それは閉じておこうな?」


先ほどの意趣返しのような発言に思わず笑ってしまう。


「とはいえ、人が少なくて良かったですねえ。」

「そうだな。ゆったり出来る。」

「それも有りますが…やはり、あんまり見せたくないので。」

「たくさん居ると恥ずかしい?」


リシアは基本目立つことを好まない。

和服モードの時だけ多少積極的になるが、普段はまぁ引っ込み思案といっていいものな。

スーパー銭湯も勇気を出して入っていたのかもしれない。


「そうではなくて。…その、お姉さまを、ですよ?」

「へ?」

「だ、だって女性から見てもお姉さまは格好良くてセクシーじゃないですか!あんまり人が多いと気持ちのいいものではないですね…」


発言していく度に顔が赤くなっていくのは湯のせいか。

リシアはだんだん隠れるように顔を湯に沈めていく。

私の体温も上がっていく様な気がする。

私は今までこういう公衆浴場で見られることに何の頓着も無かったのだけど。


「…これからは気をつける…」

「いえ、お姉さまがこういうお風呂を趣味にしてるのは知ってるので、ただの私のヤキモチ、です。気になさらないで…」


私たちはしばらく黙って湯に浸かる。

何だかこう、言葉にできないけど。

ただ少しだけ、二人の間を詰めてみた。


◆ ◇ ◆ ◇


「ふふ、ふふふふ…お姉さま、私は負けますよ…!」

「何を言うか、勝ちはリシアに譲ろう。」


お風呂上がりの脱衣場。

体を拭き浴衣を着直した私たちは、対面して構えを取り合う。

今から負けなければならない戦いが、始まる!


「「最初はグー!じゃんけんぽん!」」


「さすがお姉さま!お強いですね!」

「はっはっは、まだまだ引けは取らんさ…はぁ…」


何をしているのか?

単純明快、お風呂の後の飲み物を賭けたじゃんけんだ。

それも、勝った方のおごりで。

ここでそういうルールの反転を付け加えると、ちょっとしたアクセントになって面白いのだが…

失敗だった、勝ってしまうとは。


「お姉さまのお金で飲む牛乳は美味しいですね?」

「自分の金で飲む牛乳は牛乳だな…。」


互いに一喜一憂しながら、湯上がり休憩所にて腰掛けて牛乳を飲む。

残念ながら、牛乳は私の支払いになったが--収穫もあった。

湯上がりの髪を纏めたリシアが牛乳を飲む姿は、こう、艶やかだ!

そんな私の邪念が伝わってしまったのか、軽くつま先で蹴られる。

すいません、見つめるのやめます。


「しかし、結局最初に風呂に入るのを躊躇っていたのはどうしてなんだ?」

「それはまぁー…いずれわかるんじゃないですかねぇ…。」

「うーん。あ。もしかして、汗かいたままの方が良かった?」

「牛乳もらったので、今回だけやり返さないことにしときます。」

「勝って良かった…」


リシアの殺意の籠もった視線に私は牛乳代を払わされたことを天に感謝するのだった。



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