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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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温泉へ行こう その4

麗香視点です。

リシアは慣れた手つきで黒い茶碗からお抹茶を飲み、ほぅと可愛く息をつく。

長椅子に姿勢良く座って茶菓子の団子をいただく様はとても美しく、愛らしい。


「どうかしました?」

「いや、何でも?」

「お団子足りますか?お姉さま、甘いものがお好きでしょう?」

「ああ、もう少しいただこうかな。」

「だと思いました。美味しいですね。このお団子。」


リシアはすっと手を上げ店員さんを呼ぶと、にこやかに団子とお茶の追加をお願いする。

はんなり美人って感じだなぁ…。

その後もリシアをじっと見つめていると、視線に気づかれていたのか目が合う。

リシアは少し私に近づくように腰を浮かしズレると、そのまま私にもたれ掛かってくる。


「求めているのは団子じゃなくて私でした?」

「…そうだな。」

「ふふ、それはそれは気が利かないで。」


リシアはくすくすと笑いながら、ちょうど店員さんが持ってきてくれたお茶と団子のお代わりを受け取る。

そして団子を一串手に取ると、それをこちらに見せるようにする。 


「食べさせて差し上げましょうか?」

「頼もうか。」


リシアらしくない提案を聞き、あえて乗ってみる。

普段のリシアならそういうのは人目を気にして嫌がるはず。少なくとも積極的にはしない。

でもだからこそ、こう。惹かれるものがあるな。


「お姉さま?はい、あーん。」

「あーん。」


私はリシアの差し出した団子を思いっきり頬張る。

うん、美味しい。

何だか先ほどより甘い気までする。


「お姉さま、美味しいですか?」

「美味しい。リシアが…」

「私が手づから食べさせたから、先ほどよりも甘いですよね?」


私が言おうとしたことを先回りされる。

むぅ。


「お姉さまが言いそうなことはわかりますよ。さすがに。」

「だとしても、それをリシアが口にするとは思わなかった。」


自信の無さが透けて見えるようなリシアが、まさか自分から己を褒めそやすようなことをするとは。


「ふふ、ほんと、和服を着てると何だか気がおっきくなっちゃいますね?こんな私は嫌ですか?」

「そんなことはない。どんなリシアも素敵だ。」

「ありがとうございます。そう言ってくれるとわかってて聞いてますけどね?」


リシアはそこで姿勢を正してお抹茶をまた口にする。

本当に色っぽいのだ。これが。


「まぁでも、今日は和服を着てるというのもありますが…少々別の理由もあって…」

「というと?」

「先ほど、町並みを歩いているときお姉さま、噂されてたの気づいてました?」

「いや、全く?」


普段非常事態以外の何かに集中をあまり割くことはない。

そんな暇があればリシアの一挙手一投足を眺めていたいからだ。


「でしょうね。女の子たちにカッコいいって言われてましたよ?お姉さま。」


リシアは茶化すように私のわき腹をうりうりと突く。

とはいえなぁ。他人に言われたところで。


「まぁ、なので。」

「なので?」


リシアは屈めと言わんばかりに手をちょいちょいと動かす。

なにか耳打ちでもするのだろうか。

私は素直に屈んで顔の高さを合わせる。

途端、私の顔にリシアの顔が重なる。


「これは私のものだぞ、とアピールしておきたくて。」


リシアは悪戯っぽく自分の唇を舌で舐める。

お茶屋のカウンターの店員さんがこちらを興味深そうに横目で見ているのが、なんだかすごく印象に残った。


◆ ◇ ◆ ◇


「お土産、ちょっと見ていって良いですか?」

「ああ、そうしようか。」


私たちは道中にあるお土産物屋へと入る。

その地方の名産をモチーフにしたお菓子などが所狭しと並んでいる。


「えっと、紫杏さんと、龍斗さんと、高原さんと…かな。」

「私は会社にも一応買っておこうかな。日持ちしそうなものを。」


私たちは各自目的に合いそうなお土産を探してゆく。


「龍斗さんって、甘いものダメなんでしたっけ?」

「食べれないことはないと思うが、喜ばないだろうな。」


どちらかというと瓶詰め海苔のような類の方が喜ぶだろう。

甘いものは昔からだいたい私と紫杏に率先して譲っていたように思う。


「んー、じゃあどうしましょうかねえ…」

「そうだな…」


私はそういった乾物系を探していると、それより先に面白いものが目に入る。


「…これだ、これが好きだぞ奴は!」

「…なんです、これ。」


私は龍が絡みついた金属製の剣のキーホルダーを手に取る。

なんと鞘から剣が抜ける凝りようだ。


「奴はこういうの大好きなんだ、まだ中身は小学生だからな。」

「えぇ…本当ですか…?」


いやまぁ、適当なことを言っているのだが。

単にこれを二本土産で贈られたときの奴の微妙な顔が見たいだけだ。


「本当だとも。ほら、リシアは銀色のにしたらどうだ?私は金色のにするから。」


金銀二色の剣のキーホルダーを両方取り、片方をリシアに渡す。

いやぁ、私からだけならともかくリシアからも同じ物を貰えばとりあえず喜んだフリはするんだろうな。

今から楽しみだ。


「紫杏さんは食べれないものあります?」

「無いぞ。」

「ではこのおでんキャラメルを…」

「待て、リシア。落ち着け。紫杏のお土産はもう少し慎重に行こう。な?」


どう見てもヤバそうなそのブツはしまってほしい。

私が紫杏に締め上げられてしまう。


「え、美味しそうなのに…」

「美味しそう!?」


普段料理上手なリシアはどこへ行ったんだ。

普通の料理作る人はそんなものを美味しそうとは言わない。


「じゃあこのウナギゼリーを…」

「せめてパイにしような!?な!?」


何故だかお土産物選びだけポンコツになるリシアの面倒を見るのに私は必死だった。



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