事故後初の遠出 その4
「コンロ持って行くと聞いて、焼おにぎり用のお味噌と醤油、後ホイルにキノコ包んで来たんですが…」
「良いわねえ、気が利く!」
「キノコの包み焼きねえ。美味そうだ。」
「そうだろう?うちの□□は最高なんだ。」
お姉さまがうんうんと自慢気に頷く。
自分のことかのように嬉しそうだ。
その後もみんなのご協力を得て料理を完成させていく。
「□□ちゃん、お味噌貰える~?」
「□□、こんなもんでいいのか?」
「あっ、はい!今行きます!」
二人に声をかけられわたわたしながら走り回っていると、何故か妙にお姉さまが嬉しそうだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「これ最高にうめえな!」
「□□ちゃん、後でこれのレシピ教えてくれない?」
お弁当に詰めた色々なおかずがみるみるうちになくなっていく。
喜んでもらえたのなら良かった。
私もお姉さまの捕まえてきた魚に口をつける。
うん。美味しい!油が乗っているけど、べとべとはしていない。むしろさっぱりしていて、なのに味わい深い。
取ってきたばかりの新鮮なお魚ならではの味と言ったところだ。
「美味しいですね、お姉さま。お姉さま?」
「ん?…ああ、そうだな。」
「どうしたんですか?上の空のようですが。」
「いや、昔リシアと七輪で釣った魚を焼いて食べたことを思い出してな…。」
「…そんなこと、ありましたっけ?」
「…ああ、夢の中での出来事かもしれない。」
不思議なもので、そんな記憶は確かにないのだが、だからといってそれが本当に無かったとはなんとなく言えない。
むしろ、なんだかそんなことがあったような気までする。
私も夢に見たのかな?
「二人きりで仲良くというのも良かったが、皆でというのも良いものだな、と。」
「そうですね。それはそう思います。」
お姉さまと日帰りキャンプしたときも、ピクニックしたときも、二人きりでそれは良かった。
だが、これはこれで良いものだ。
皆が美味しそうにお弁当を食べてくれるのを見てつくづくそう思う。
「さて、私もリシアのご飯を堪能しよう!ぼさぼさしていると無くなってしまうな!」
「ふふ、そうしてくださいな。」
お姉さまはお弁当を食べる二人に分け入っていく。
「おい龍斗!それは私のウインナーだ!」
「知るか!取ったもん勝ちなんだよ!」
わいわいと盛り上がりながらご飯を食べるお姉さまを見て、楽しいなと思いつつ私もその騒ぎへ入っていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「はー、もう食えねえ…。」
「食べたわねえ…。」
「私は物足りないくらいだが。」
「相変わらず食欲お化けかよ…。」
一名何か物足りないって言ってるのがいるが、基本的に皆満足してくれたらしい。
私が作ったものを喜んで食べて満腹になってくれる。
なんだか私まで嬉しくなってくる。
さて、皆が満足して転がっている間に私は後片付けを…
「あ、□□ちゃん。お弁当作ってきて貰ったのだから、後片付けは私たちがやるわよ。ゆっくりしてなさい?」
「良いんですか?」
「むしろ俺たちがやるべきだろ。一人で何でもする必要ねえんだよ。」
「□□様はそこでゆったり見ていると良い。」
そういうと私はお姉さまに引っ張られチェアに座らされ、コンロや弁当箱を洗い片付けていくのをひたすら眺めさせられる。
なんだか居心地が悪い。
手伝わなくて良いと解っていても、何か手伝うことはないか目で追ってしまう。
それに気づいたのか、三人はひそひそと会議を始める。
何を悪巧みしているのだろうか。
そう思っていると、お姉さまが私の目の前に跪いて手を取る。
「□□様、私がエスコートいたしましょう。」
「はい?」
私に向かってばちこんとウインクをするお姉さま。
いまいち言ってる意味がわからない。
「□□ちゃん、暇そうで逆に毒になってるみたいだから。麗ちゃんを歓待役に任命しました。」
「一時間くらいどっか二人で行ってこい。多少遅れても良いぞ?俺らも二人でゆっくりしてっからよ。」
「良いんですか…?」
「良いんだよ。ほら、おいで。」
お姉さまは私を引っ張って立ち上がらせると、手を引いて歩き始める。
「あの!すいません!よろしくお願いします!」
「いいのよー。ゆっくりしておいでー。」
私は思わぬ配慮にありがたく思いながら、お姉さまと歩き始めた。




